コラム
2023年12月12日

数字の「108」に関わる各種の話題-「108」と言えば、除夜の鐘が撞かれる回数だが-

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はじめに

数字の「108」と聞けば、多くの皆さんは、大晦日の除夜の鐘が撞かれる回数、を思いつくであろう。ただし、それ以外は、と聞かれると、これも返答に窮してしまう人が殆どだろう。

今回は、この数字の「108」について、それが現れてくる代表的な例やその理由等について調べてみた。

仏教における数字の「108」

除夜の鐘は何故108回なのか
「除夜の鐘」というのは、いうまでもなく、大晦日の夜に撞く鐘である。「除夜」というのは「除日の夜」、「除日」は1年の最後に古いものを除いて(捨てて)新しいものを迎える日という意味から、大晦日(12月31日)を指している。「除夜の鐘」は、大晦日の夜にお寺が撞く鐘の音を聞いて、1年間の罪を懺悔し、煩悩を祓い、清らかな心身で新年を迎えるための仏教の行事となっている。

それでは、なぜ鐘を撞く回数が「108」なのか。これについては、諸説あるようだ。

最も有名なのは、人間の煩悩の数が108あり、鐘を1つ撞くごとに煩悩が1つずつ消えていくことから、全ての煩悩を祓うために108回撞いている、というものである。

別の説は、1年を表すという意味において、旧暦で用いられていた、「二十四節気」、「七十二候」1に、1年の「12カ月」を加えて、それらの数字の合計24+72+12=108 に由来しているというものである。
 
1 「二十四節気」については、研究員の眼「数字の「24」に関わる各種の話題-1日はなぜ24時間なのか-」(2023.9.27)で説明した。「七十二候」はそれをさらに3つごとに割って、「桜始開(さくらはじめてひらく)」というような自然界の動植物の様子から季節を表現しているものである。
煩悩の数の108の由来は
それでは煩悩の数はなぜ「108」なのか。実は煩悩の数についても諸説ある。また、煩悩の数が108であることの説明についても諸説ある。

108の理由として最も有名なのは、「六根」、「好悪」、「浄染」又は「楽苦」、「三世」に基づくものである。煩悩は、「眼・耳・鼻・舌・身・意」を表している「六根」と呼ばれる我々の認識能力から生まれ、それに対して、「好・悪・平(どちらでもない)」との判断が行われる。さらに、「浄(迷いのない状態)」と「染(迷いのある状態)」がある(これを「楽苦」とする説もある)。加えて、「過去・現在・未来」という「三世」を加味することで、結果として6×3×2×3=108の煩悩があるエイル、ということになる。

別の説としては、「見惑」が88、「思惑」が10、それに「十纏(じってん)」を加えて、108になるというものがある。「見惑」とは自分で判断してしまうがゆえに迷うこと、「思惑」とは善悪はわかっているけど情に流されてしまうこと、「十纏」とは、自分にまとわりつく根本的な煩悩、を指している。

さらなる説としては、仏教における人生の8つの苦しみを表現しているとされる「四苦八苦」に由来しているというものがある。「四苦」は「生・老・病・死」であり、これに「愛別離苦」、「怨憎会苦」、「求不得苦」、「五蘊盛苦」を加えたものが「八苦」となる。「四苦八苦」を数字で書くと4989であり、これから4×9+8×9=108 が導かれるというものである。ただし、これについては単なる言葉遊びだとの批判もあるようだ。
数珠の珠の数は108
数珠の珠の数は108珠が基本になっている(短い数珠の場合には、108の約数となる、54珠、36珠、27珠、18珠等となっている)。

この「108」という数字については、上記で述べたように、煩悩の数を表しているとされており、数珠を持つことの意味合いは、護身、心願成就に加えて、煩悩を消すためとされていることから、108個になっているようだ。

ヒンドゥー教における数字の「108」

仏教に加えて、古代インドを起源とする他のヒンドゥー教、ジャイナ教等においても、数字の「108」は神聖視されている。この背景には、古代インド人が優れた数学者であったとされている中で、以下で述べるように108=11×22×33 であったこと等から、「108」には特別な数秘術的意義があると考えられていたこと等が挙げられるようだ。

例えば、ヒンドゥー教の伝統では、ムキヤ・シヴァガナ(シヴァ神の従者)の数は108であり、祈りと瞑想のマントラ用の数珠であるジャパマーラーでは108個のビーズが使用されている。

その他に、ヒンドゥー教に関連して「108」が現れてくるいくつかの例を挙げると、以下の通りである。インドの古典舞踏のバラタナティヤムのポーズは108通りある。ヒンドゥー教の神であるクリシュナは法令の儀式中に司祭または崇拝者によって108の名前で称賛される。ヴリンダーヴァン(クリシュナ生誕の地で、ヒンドゥー教の聖地)においてクリシュナに夢中になっているゴピと呼ばれる献身者の数が108とされている。ヒンドゥー教の神であるヴィシュヌ崇拝の伝統における聖地の数は108となっている。

野球の硬式球の縫い目の数

硬式野球ボールの縫い目(縫い合わせの糸目)の数は(縫い目を1つずつ数えて)108個となっている。

野球のボールは、バットで打つ際に大きな衝撃が加わること等で酷使されることから、強度が求められる。縫い目を作るためにはボールに糸を通すための穴を開けることになるが、多くの穴を開けるとその分ボールの強度は低下する。一方で縫い目の数が少ないと、穴の間をつなぐ糸が長くなり、今度は糸が切れやすくなってしまう。この両者のバランスを取って、できる限りボールの寿命を長くするために、108個という数が選ばれたようだ。

野球発祥の地である米国において、初期の野球ボールの縫い目は116個の縫い目だったが、116個では穴と穴の間が狭くなって、皮が剥がれやすいと判断され、108個の縫い目が最適とされた。

日本でも、米国製のボールを参考にして、硬式野球ボールの縫い目は108個に統一されている。

ゴルフのホールのカップの直径

ゴルフのホールのカップの直径は4.25インチで、これは108mmとなっている。

このカップのサイズについては、19世紀後半にゴルフの聖地、セントアンドリュースのオールドコースにおいて、往年の名選手で「オールドトムモリス(Old Tom Morris)」の名で知られているスコットランド人ゴルファーのトム・モリスが、水道工事で使う排水管を切ってホールに埋め込むことを思いつき、これが他のコースでも一般的になっていったことに由来しているようだ。この時の排水管の直径がたまたま4.25インチだったことから、これが1891年にR&A(The Royal and Ancient Golf Club of St Andrews)によって正式なサイズとして採用された、とのことである。

ゴルフボールの直径が約43mmなので、ボールの2.5個分がカップの大きさということになる。これは一升瓶の底部の直径とほぼ同じ大きさとなっている。

ゴルフをプレイされたことがない方からすると、結構大きいなという印象を持たれるかもしれない。それでもグリーン上のパットでホールにカップインさせるのは容易なことではない。

因みに、カップの直径が108mmということだと、その円周は339mmになるということで、だから「散々苦労」することになると言われているようだ(ただし、これは日本でしか通じないジョークであるので、悪しからず)。

なお、ゴルフにおける「108」という数字は、72の全てのホールをダブルボギーで回った時のスコア(ダボスコア)を指しており、ゴルフの初心者が超えるべき1つの壁とも考えられているようだ。ゴルフを始めた人が目指すべきスコアとしては、まずは「120」を切ること、次に「100」を切ること等が挙げられ、「100」を切れば中級者と見なされることから、このスコアが大きな目標になっている人も多いものと思われる。ただし、「100」を切るためには、まずは、「120」と「100」の間にあり、ダブルボギーペースという目標にしやすい「108」を安定的に切ることが必要だと言われており、これに苦労している方が多いようだ。

太陽と月が地球から見て、ほぼ同じ大きさに見える理由

太陽と地球の距離は、太陽の直径の約108倍(実際の比率は、105.7(近日点)から109.3(遠日点)の範囲となっている)。地球と月の距離も、月の直径の約108倍となっている。

このように、太陽と月の直径と地球までの距離の比率がほぼ同じであることから、地球の空での見かけの大きさがほぼ同じとなり、これにより「皆既日食」や「金環日食」が可能となっている。

これを、月と太陽の「視直径」がほとんど同じであるから、という言い方をする。「視直径(apparent diameter」というのは、天体の見かけの直径を天球上の角度で表現した値である。天体の真の半径をa、天体までの距離をrとすると、視半径sは sin s = a/r であり、視直径はその2倍の 2sとなる。 太陽は月の約400倍の直径となっているが、地球からの距離も約400倍となっているので、視直径はほぼ同じ値(32′(分)(=0.53度))になる。

ただし、月の地球周回軌道及び地球の公転軌道は楕円であるため、地上から見た太陽と月の視直径は常に変化している。月の視直径が太陽より大きく、太陽の全体が隠される場合が「皆既日食(total eclipse)」、逆の場合は月の外側に太陽がはみ出して細い光輪状に見える「金環日食(annular eclipse)」となる。
日食

カードゲームのUNOのカードの枚数

皆さんもプレイしたことはないかもしれないが、UNOというトランプゲームに類似したカードゲームがあることはご存じだと思う。UNOの名前は、スペイン語又はイタリア語で数字の「1」を意味する「uno」に由来している。

UNOの1セットには108~112枚のカードがある。2016年のリニューアル版から4枚の新たなカードが追加されたことから、現在の標準は112枚となっているが、それまでの標準は108枚であった。ただし、各種の派生版が出ており、これらには4枚の新カードが含まれていないことも多い。

具体的には、数字カードと記号カードがあり、一部を除いて、青、赤、黄色、緑の四色で色分けされている。112枚のカードの構成は、数字カードが76枚(0が各色1枚、1~9が各色2枚)、7種類の記号カードが36枚(ドローカードが8枚(各色2枚)、リバースカード8枚(各色2枚)、スキップカード8枚(各色2枚)、ワイルドカード4枚、ワイルドドローカード4枚、その他リニューアル版で追加された4枚のカード(シャッフルワイルド、白いワイルドカード3枚)となっている。

数学における数字としての「108」

数字の「108」が、数学の場面で現れてくる例としては、以下のものが挙げられる。

・108は合成数で、1、2、3、4、6、9、12、18、27、36、54、108を約数に持っている。

・108=11×22×33 は「超階乗数」と呼ばれる合成数である。

・108は「ハミング数(Humming number」と呼ばれる、60のべき乗の約数になっている数字(これはまた素数が2、3、5のみの数字)である。この数字は、各種の分野で研究され、その名称もそれぞれの分野で「Regular number」(バビロニア数学)、「5-smooth」(数論)、「harmonic whole numbers」(音楽理論)等と呼ばれている。六十進法を採用しているバビロニア数学では、これらの数字は重要なものとなっていた。

・正五角形の内角は108°となっている。

・ポリオミノの一種である「へプトミノ」において、7つの正方形を辺に沿ってつなげた形は、回転・鏡像によって同じになるものを同一と考えると108種類ある。

最後に

今回は数字の「108」について、それが現れてくる例やその理由等について、報告してきた。

日本では、除夜の鐘の数ということで、一定程度馴染みのある数字ではあるが、これは仏教と深く関わった数字である。一方で、数字の「108」は、インド由来のその他の宗教においても重要視されている。この背景には、「108」という数字の数学的な意味合い(多くの約数を有し、超階乗数である等)も関係していたと思われる。さらには、野球やゴルフといった多くの人に馴染みがあるスポーツにおいても「108」という数字が現れてくることがわかった。加えて、太陽と地球と月の関係においても「108」という数字が現れている。このように「108」という数字は、思った以上にいろいろな場面で現れてくることがわかり、大変興味深く感じられた方も多かったのではないかと思われる。

今後、野球やゴルフに接する機会があったら、あるいは太陽や月を眺める機会があったら、そういえばこれは「108」という数字が関係しているのだなと思い出してもらえれば、と思っている。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年12月12日「研究員の眼」)

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