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エレベータが下向きの確率は?-ガモフ-スターンのエレベーター問題をみてみよう
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
◇ エレベーターの台数が3台だと、次に来るエレベーターが下向きの確率はさらに小さくなる
a階に次に来るエレベーターが下向きであるケースを、3つに場合分けしてみる。
(1) 1)~3)のいずれもa階より上の空間にいて、いずれかが次に来るケース
(2) 1)~3)のうち、2台がa階より上の空間、1台がa階より下の空間にいて、競争をした結果、a階より上の空間にいた2台のうちのどちらかが先に来るケース
(3) 1)~3)のうち、1台がa階より上の空間、2台がa階より下の空間にいて、競争をした結果、a階より上の空間にいた1台が先に来るケース
1)~3)のいずれもa階より下の空間にいる場合は、次に来るエレベーターは上向きとなるので、考えなくてよい。
まず、(1)の確率。これは、(1-p)3 となる。
次に、(2)の確率。これは、かなりややこしい。a階より上の空間にいるエレベーターが、a階より下の空間(=α区間)にいるエレベーターより先に来るためには、β区間にいる必要がある。
(2)のケースでは、a階より上の空間にいるエレベーターが2台あるので、さらにつぎの2つに場合分けをする必要がある。
(2-1) a階より上の空間にいる2台のエレベーターのうち、1台はβ区間、もう1台はγ区間にいるケース
(2-2) a階より上の空間にいる2台のエレベーターが、2台ともβ区間にいるケース
a階より上の空間にいる2台のエレベーターが、2台ともγ区間にいるケースでは、2台とも、α区間にいる1台のエレベーターとの競争に負けてしまい、a階に先に来ることができない。つまり、このケースは考えなくてよい。
(2-1)と(2-2)の確率を計算してみよう。
(2-1)では、1台がγ区間、1台がβ区間、1台がα区間にいる。それぞれの確率は、(1-2p)、p、pだ。
ここで、いきなり(1-2p)という確率が出てきて、「これはなんだ?」という気がするかもしれない。エレベーターがγ区間にいる確率は、β区間にいる確率(=p)と、α区間にいる確率(=p)を、全体の確率(=1)から差し引いて、(1-2p)というわけだ。
1)~3)の3台が3つの区間に1台ずついるので、場合の数として6通りが考えられる。
そして、β区間にいる1台が、α区間にいる1台に、競争に勝って先にa階に来る確率は1/2だ。
これらを掛け算して、(2-1)の確率は、 1/2 × 6 × (1-2p) × p × p = 3p2(1-2p) となる。
(2-2)では、2台がβ区間、1台がα区間にいる。3台のそれぞれの確率は、いずれもpだ。
1)~3)の3台が2つの区間に2台と1台に分かれているので、場合の数として3通りが考えられる。
そして、β区間にいる2台が、α区間にいる1台に、競争に勝って先にa階に来る確率は2/3だ。
これらを掛け算して、(2-2)の確率は、 2/3 × 3 × p × p × p = 2p3 となる。
続いて、(3)の確率。a階より上の空間にいるエレベーターは、a階より下の空間(=α区間)にいる2台のエレベーターとの競争に勝ってa階に先に来るためには、β区間にいる必要がある。
1台がβ区間、2台がα区間にいる。3台のそれぞれの確率は、いずれもpだ。
1)~3)の3台が2つの区間に1台と2台に分かれているので、場合の数として3通りが考えられる。
そして、β区間にいる1台が、α区間にいる2台に、競争に勝って先にa階に来る確率は1/3だ。
これらを掛け算して、(3)の確率は、 1/3 × 3 × p × p × p = p3 となる。
(1)、(2-1)、(2-2)、(3)の各ケースの確率を合計すると、
(1-p) 3 + 3p2(1-2p) + 2p3+ p3 = 1 - 3p + 6p2 - 4p3
となる。これは、1/2 + 1/2 × (1-2p)3 と表すことができる。これが、次に来るエレベーターが下向きである確率となる。
◇ エレベーターの台数が増えていくと、次に来るエレベーターが下向きの確率は1/2に近づいていく。
前節のような計算方法をつづけていくと、場合分けの数がどんどん増えていき、収拾困難な事態となる。
ところが、ここで、うまい計算方法がある。じつは、エレベーターの数がn台の場合、次に来るエレベーターが下向きである確率は、
1/2 + 1/2 × (1-2p) n
と表すことができる。(この証明が気になる方は、後述の (参考) をご参照いただきたい。)
上述の、エレベーターが1台、2台、3台の場合の確率を求めた際にも、この形で表すことができると記していたので、このことに気がつかれた読者もいるだろう。
ここで、p≦1/2なので(1-2p)≧0となる。また、p>0なので、(1-2p)<1となる。つまり、(1-2p)について、0≦(1-2p)<1という不等式が成り立つ。(1-2p) n の部分は、nが大きくなるにつれて小さくなり、0に近づいていく。
つまり、エレベーターの台数が増えていくと、次に来るエレベーターが下向きの確率は1/2に近づいていく、ということになる。
実際に、7階建のビルの2階で待っているケースで見てみよう。
このケースでは、p=1/6なので、
エレベーターの数が1台の場合、0.8333… (=5/6)
〃 2台の場合、0.7222… (=13/18)
〃 3台の場合、0.6481… (=35/54)
〃 4台の場合、0.5987… (=97/162)
という計算結果となり、たしかに台数が増えると、確率は1/2に近づいていく。
◇ エレベーターを何台も設置することで、上向きと下向きの確率を同じようにしている?
デパートなどでエレベーターを設置する際に、このことがどれだけ考慮されているのか、筆者は知らないが、なかなか興味深い結果ということができるだろう。
今度、エレベーターを利用する際には、エレベーターホールで待つ間に、台数を数えて、次に来るエレベーターが上向きか、下向きかの確率を計算してみるのもよいかもしれない。
(参考)
1/2 + 1/2 × (1-2p) n と表すことができることの証明
nについて数学的帰納法を用いて証明する。
まず、n=1の場合、確率は (1-p) となる。
これは、1/2 + 1/2 × (1-2p) と表すことができるので成り立っている。
次に、n=kのときに成立するとして、n=k+1のときの確率を計算する。
(k+1)台のエレベーターを考えて、1)、2)、3)、…、k)、s) の番号をつけておく。そして、1)~k)のk台のなかで、a階に最初に来るエレベーターをt)と呼ぶことにする。
そう考えると、s)とt)の2台について、先にa階に来るエレベーターを考えればよいことになる。
a階に次に来るエレベーターはsかもしれないし、tかもしれない。次に来るエレベーターが下向きであるケースを、3つに場合分けしてみる。
(1) s)もt)も下向きにa階に来るケース
(2) s)は下向き、t)は上向きにa階に来るケース
(3) s)は上向き、t)は下向きにa階に来るケース
s)もt)も上向きにa階に来るケースは、次に来るエレベーターが上向きとなるので、考えなくてよい。
まず、(1)。s)の確率は(1-p)、t)の確率は数学的帰納法の仮定から、1/2 + 1/2 × (1-2p) k だ。
この2つを掛け算して、(1)の確率は、 (1-p)×{1/2 + 1/2 × (1-2p) k } となる。
次に(2)。s)がt)よりも先にa階に来るためには、s)はβ区間にいる必要がある。s)がβ区間にいる確率はpだ。一方、t)は上向きにa階に来るので、t)が上向きにa階に来る確率は、数学的帰納法の仮定を用いて、
1 - {1/2 + 1/2 × (1-2p) k } = 1/2 - 1/2 × (1-2p) k となる。
s)がt)との競争に勝って先にa階に来る確率をqとしよう。(こうすると、t)がs)との競争に勝って先にa階に来る確率は (1-q) となる。これは(3)で用いる。)
これらを掛け算して、(2)の確率は、 q × p ×{1/2 - 1/2 × (1-2p)k } となる。
続いて(3)。t)がs)よりも先にa階に来るためには、s)はβ区間にいてa階に下がっていく必要がある。この確率は、α区間にいて、そこからa階に上がっていくことと同じ確率となる。つまり、t)の確率は、(2)のケースと同じで、
1/2 - 1/2 × (1-2p) k
一方、s)の確率は、pだ。
t)がs)との競争に勝って先にa階に来る確率は、(2)でt)がs)との競争に勝って先にa階に来る確率と同じになる。これは、(2)と(3)を見比べるとs)とt)の向きが入れ替わっただけだからだ。(2)で、s)がt)との競争に勝って先にa階に来る確率をqとしていたから、t)がs)との競争に勝って先にa階に来る確率は(1-q)となる。
これらを掛け算して、(3)の確率は、 (1-q) × p ×{1/2 - 1/2 × (1-2p)k } となる。
(1)、(2)、(3)の確率を合計すると、(計算がやや面倒だが、)
(1-p)×{1/2+1/2×(1-2p) k }+q×p×{1/2-1/2×(1-2p) k }+(1-q)×p×{1/2-1/2×(1-2p) k }
=(1-p)×{1/2+1/2×(1-2p) k }+p×{1/2-1/2×(1-2p) k }
=(1-p)×1/2 + (1-p)×1/2×(1-2p) k + p×1/2 - p×1/2×(1-2p) k
=1/2 + (1-2p)×1/2×(1-2p) k
=1/2 + 1/2 × (1-2p) k+1
つまり、n=k+1のときも成り立っていることになる。
(参考文献)
「確率は迷う-道標となった古典的な33の問題-」Prakash Gorroochurn 著・ 野間口 謙太郎 訳(共立出版、2018年)
“Mathematical Games” Martin Gardner (Scientific American, Vol.228. No.2, pp106-109, Feb. 1973)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
(2023年12月12日「研究員の眼」)
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