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「年収の5倍」は古い? 10倍を超える首都圏新築分譲マンション価格-それでも返済負担はバブル期の6割に止まる
基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.321]

金融研究部 客員研究員 小林 正宏
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1―首都圏の新築分譲マンション価格と年収倍率
2―金利水準を見ない「年収倍率」、見る「返済負担率」
住宅が購入しやすいか否かは、住宅価格と所得、金利の3要素で決まる。住宅価格や金利が上昇(下落)すれば購入は困難(容易)となり、所得が増加(減少)すれば購入は容易(困難)となる。それらのバランスの中で購入のしやすさが決まる。バブル期と比較して住宅価格は概ね変わらず、所得は若干減少したが、金利が大きく低下したことで返済負担率が低下したということである。
こうした金利低下による影響の具体例を、図表3に示した。
同様に、住宅ローン金利が1%の場合、借入可能額の年収倍率は8.856倍(借入額1千万円あたりの年間返済額は33万8,743円、300万円÷33万8,743円=8.856倍)と9倍近くに跳ね上がる。これは、金利が5%から1%に低下することで年間返済額が▲44%と4割程度も減少するためである。そして、金利1%の低下による借入可能額の増加は、金利水準が低いほど大きくなる[図表4]。
* 住宅ローンの返済期間は35年、住宅ローン金利は2007年3月までは住宅金融公庫の直接融資の基準金利を適用し、2007年4月以降は独立行政法人住宅金融支援機構の「フラット35」の償還期間21年以上35年以内の最頻値を適用した。
3―長期金利上昇の影響
一般論として言えば、金利が上昇すれば不動産価格にはマイナスに作用する。これは収益還元法の考え(家賃÷金利=不動産価格)からして当然であるが、足元では長期金利は徐々に上昇している一方、短期金利は日銀がマイナス金利政策を維持していることから低位で安定している。日本の住宅ローン市場では約7割が変動金利、約2割が固定期間選択型であり、長期金利が多少上昇しても、太宗としては住宅取得への負の影響は限定的という見方が多い。
また、日銀がマイナス金利を解除して短期金利の上昇を容認するのは、賃金の引き上げが持続的となり、供給サイドではなく需要サイドが牽引する形で2%の物価目標が安定的かつ持続的に達成されると確信してからと見られる。従って、短期金利が上昇する局面においては、賃金収入も一定に増加していると考えられ、金利が上昇しても収入の増加で住宅ローンの返済負担率が変わらないという理想的な状況となれば、不動産価格は今後も維持される可能性がある。
さらに、長年続いたデフレが終息すれば、アジアの主要都市と比較しても廉価と言われる東京の不動産価格が水準訂正されて上昇が加速する可能性も考えられる。首都圏のマンション市場では3割程度はローンを組まず現金で購入していると言われる。購入層の実態は不明だが、1億円を超える高額物件、いわゆる「億ション」の契約率は2023年の1~8月の平均で86.9%と好調である。
いずれにしても、マンションに限らず、住宅を購入する際に大切なことは本当に住みたいと思う住宅に出会うことであり、あわせて、マンション価格が高くなっても無理なく購入できるかどうかの見極めも極めて重要である。その際には、単にマンション価格が年収の何倍かという基準ではなく、年間返済額が年収の何%かという返済負担率の方がより適切な基準であると考えられる。今後の生活に支障がないかどうかを良く考え、特に変動金利で借りる場
合は将来の金利上昇リスクに備えて、少し余裕を持って購入の是非を判断した方が良い。これから住宅を購入する人は様々なリスクを理解し、自らがコントロールできる許容範囲を見極め、納得した上でより良い選択を行い、そこでの充実した住生活を楽しむことが望まれる。
(2023年12月07日「基礎研マンスリー」)
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- 【職歴】
1988年 住宅金融公庫入社
1996年 海外経済協力基金(OECF)出向(マニラ事務所に3年間駐在)
1999年 国際協力銀行(JBIC)出向
2002年 米国ファニーメイ特別研修派遣
2022年 住宅金融支援機構 審議役
2023年 6月 日本生命保険相互会社 顧問
7月 ニッセイ基礎研究所 客員研究員(現職)
【加入団体等】
・日本不動産学会 正会員
・資産評価政策学会 正会員
・早稲田大学大学院経営管理研究科 非常勤講師
【著書等】
・サブプライム問題の正しい考え方(中央公論新社、2008年、共著)
・世界金融危機はなぜ起こったのか(東洋経済新報社、2008年、共著)
・通貨で読み解く世界経済(中央公論新社、2010年、共著)
・通貨の品格(中央公論新社、2012年)など
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