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無意味なくじは平均何本?-「福引大抽せん会」の列に並んで、ぼーっとしているときには…
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
年末には、各地の商店街で、歳末のセールとともに「福引大抽せん会」といった催しが行われる。セール期間中に商店街のお店で買い物をすると、福引券がもらえる。福引券を抽せん所にもっていくと、券の枚数に応じて、何回か抽せんができる。
抽せんの仕方は、箱に手を突っ込んで三角くじを取り出すものや、回転式の抽せん器をガラガラと回して色のついた球を出すものなどさまざまだ。1等の賞品は、薄型テレビや自転車だったり、商店街で使うことができる1万円分のお買物券だったりする。賞は、大体4等や5等まであって、ティッシュペーパーやミニタオルなどが賞品とされていることが多い。「空くじなし」として、抽せんをした人には、必ず何らかの賞品が当たる仕組みになっているものもよく見かける。
今回は、この「空くじなし」の福引抽せんについて考えてみたい。空くじなしの抽せんの場合、くじが進んでいくと、「すでに1等から4等の当せんは用意された本数が全部出てしまっており、あとは5等(末等)の当せんしか残っていない」といった状況が生じうる。このような、抽せんをする前にどの賞が当たるかがわかってしまう「無意味なくじ」がどれだけ発生するか、考えてみよう。
◇ 1等から3等の賞があるくじを想定する
(抽せんの仕組み)
抽せん会では、全部で1000球を入れた回転式の抽せん器を使用します。1等として赤球を10個、2等として黄球を100個、3等として青球を890個入れ、「空くじなし」とします。抽せんをする人は、一列に並んで順番に、自分の回数分だけ抽せん器を回していき、出た球の色に応じて賞品を受け取っていきます。一旦出した球は、抽せん器には戻しません。また、抽せんの途中で、抽せん器に球を追加することは行いません。
このとき、抽せん器の中に残っている球の色がすべて同じとなり、抽せんをする前にどの賞が当たるかがわかってしまう「無意味なくじ」は、平均して何本発生するでしょうか?
例えば、最初に1000球を入れ、980回の抽せんを終えた段階で、1等の赤球10個と、2等の黄球100個が全部出てしまっているとする。そうすると、抽せん器の中に残っている20個の球は、全部3等の青球ということになる。この段階以後に抽せんをする人は、抽せんをする前に、青球が出て3等の賞品をもらうことがわかってしまう。つまり、残り20回のくじは無意味なくじとなる。
くじの球の出方によって、無意味なくじの本数は違ってくる。例えば、998回の抽せんを終えた段階で、抽せん器の中の残り2個の球が1等の赤球と3等の青玉という状況になれば、次の999回目の抽せんは、赤球が出るか青球が出るか、運命の大一番 (!) となる。
なお、1000回目の抽せん(最後の回)については、残っている最後の1個の球の色がわかってしまうので、必ず無意味なくじとなる。
◇ 無意味なくじは平均10本以下
(*)
ラフな試算によると、 890/1000の10乗=0.31181…
正確な計算によると、 890/1000 × 889/999 × … 882/992 × 881/991=0.31007…
残りの球の数が少ないほど、この確率(それらがすべて青球である確率)は大きくなる。そう考えると、無意味なくじは平均10本以下ということになりそうだ。
◇ 確率をもとに正攻法で計算すると、無意味なくじの本数は約8.1個 ― 計算実行はかなり大変
通常、平均値は、確率をもとに計算される。今回の場合は、最後に赤球が残るケース、黄球が残るケース、青球が残るケースの3つに分けて考える。最後にどのように球が残るかが問題となるので、確率は1000回目、999回目、…と、抽せんの回数を反対側から考えると計算しやすい。
まず、最後に赤球が残るケース。1000回目が赤球となる、“残り物に福がある”ケースだ。
他の色の球が全て出たときに残る球が赤球1個の場合、つまり1000回目が赤球で、999回目が赤球以外の確率は、
10/1000 × 990/999 = 0.009909… ≒ 0.00991
他の色の球が全て出たときに残る球が赤球2個の場合、つまり1000回目と999回目が赤球で、998回目が赤球以外の確率は、
10/1000 × 9/999 × 990/998 = 0.00008936… ≒ 0.0000894
他の色の球が全て出たときに残る球が赤球3個の場合、つまり1000~998回目が赤球で、997回目が赤球以外の確率は、
10/1000 × 9/999 × 8/998 × 990/997 = 0.0000007170… ≒ 0.000000717
~~~~~
他の色の球が全て出たときに残る球が赤球10個の場合、つまり1000~991回目が赤球で、990回目が赤球以外の確率は、
10/1000 × 9/999 × 8/998 × … × 1/991 × 990/990 = 3.796…×10 -24 ≒ 3.80×10 -24
そして、赤球の個数と確率を掛け算して合計すると、赤球が残るケースの平均個数が計算できる。
1×0.00991 + 2×0.0000894 + 3×0.000000717 + … + 10×3.80×10 -24
= 0.0100… ≒ 0.010個
このような計算を、黄球が残るケースと青球が残るケースについても行う。そうすると、黄球が残るケースは平均0.111個の黄球、青球が残るケースは平均8.018個の青球が残る。
つまり、無意味なくじは、0.010 + 0.111 + 8.018 = 8.139となって、約8.1本と計算できる。
ただし上記の計算は、表計算ソフト等のツールを使わずに、紙と鉛筆と電卓だけで実行するのはかなり大変だ。
◇ 確率にこだわらなければ、平均値があっさり計算できることもある
最後の1個と合わせて、平均して1+9/991=1000/991個となる。
同様に、黄球が残るケースは平均して1000/901個。青球が残るケースは平均1000/111個となる。
最後の1個に、赤球が残るケース、黄球が残るケース、青球が残るケースが起こる確率は、それぞれ1%、10%、89%なので、無意味なくじの本数は、
1%×1000/991 + 10%×1000/901 + 89%×1000/111
= 10/991 + 100/901 + 890/111
= 8.1390… ≒ 8.1
と計算される。これならば、筆算で(もしくは電卓を使って)、簡単に計算できる。
◇ 抽せん会の列に並ぶときに計算して見るとよいかも
間もなく訪れる年末。
商店街の「福引大抽せん会」の列に並んで、ぼーっとしているとする。そんなときには、この抽せんには無意味なくじは平均何本くらいあるのか、を計算してみるのもよいだろう。
(参考文献)
“Mathematical Puzzles” Peter Winkler (CRC Press, 2021)
(2023年11月21日「研究員の眼」)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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