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住宅ローンの固定金利利用率、アメリカが9割超に対して日本は1割未満にとどまる-日本では低金利が続いていたからなのか
基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.320]

金融研究部 客員研究員 小林 正宏
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1― 日米の住宅ローンの金利タイプ別利用状況
*1 アメリカでは日本の固定期間選択型に相当する商品はHybrid ARM(Adjustable Rate Mortgage)と呼ばれ、変動金利型に分類される。このため、図表1では日本の固定期間選択型は変動金利に含めてカウントしている。
2―日本の固定金利と日米比較
日米の金利水準自体や住宅ローンの延滞率等が相当違うので単純に比較はできないが、固定金利タイプの住宅ローン金利と10年国債の利回りのスプレッドを確認すると、住宅金融支援機構が設立された2007年以降、日本のスプレッドはアメリカよりも低く推移している[図表3]。機構MBSの発行利回りと長期・超長期の国債の利回りを比較しても、概ね安定的に推移している。
3―利用者のリスク認識と規制
ただし、アメリカでは説明内容がより具体的に指示されている。変動金利でも上限金利(キャップ)が設定されている場合は、その上限金利に達した場合の返済額を試算することが求められる(米国の専門家に聞くとこのケースが多いようである)。逆に、キャップがない場合は、1977年以降の金利変動を参照して15年分の返済額を試算しなければならない。日本ではキャップが設定されているケースはあまり聞かないが、図表2で示す通り、90年代に変動型の住宅ローン金利が一時的に8.5%に達したこともあった。
しかし、利用者の側からすると、現時点でここまで長期に亘り固定金利と変動金利のスプレッドが拡大すると、ある程度のリスクは認識しつつも、当初の返済額が低く抑えられる変動金利タイプを選択することになるのであろう。住宅ローンを実際に利用した人のうち、固定金利を選択した人は1割程度である一方、今後5年以内に住宅ローンを利用して住宅を取得する計画がある「利用予定者」に対する調査では、3割程度が固定金利を希望している[図表5]。
言い換えれば、最初のうちは支払額が一定となる固定金利を選択した方が良いと思った人も、いざ物件を購入してローンを組む段になると、毎月の返済額が当面は数万円単位で違う固定金利は避けてしまう人が2割程度存在するという計算になる。また、同調査からは、金利が上昇しても収入に余裕がある、あるいは繰上償還等で対応可能と考えている人が多い実態が見える。
4―借換にかかる成功体験の有無
しかしながら、アメリカでは基本的に住宅ローンは固定金利で借りて、金利が低下した場合は借り換えればよく、上昇した場合は低利で固定しておく*2という形で、固定金利を活用している。年収の数倍となる住宅ローンについて、アメリカでは相対的に高い金利変動のリスクを回避していると言える。
日本では90年代に市場金利が急低下するなか、低金利の恩恵を受けたい債務者は住宅金融公庫の固定金利から民間の変動金利へ借り換えていった。民間の変動金利に借り換えても本格的な金利上昇を経験しなかったことで、その後も固定金利から変動金利への借換が進んでいった。後に【フラット35】で借換も利用できるようになったが、その時点では既に低利の変動金利が長期に亘り継続していたため、固定金利から固定金利への借換のメリットが失われていた。このように、アメリカとは異なり、固定金利から固定金利への借換によるメリットがなかったことも、日米の消費者の行動パターンの違いの大きな要因と思われる。
日本では長らく金利が低下局面にあったため変動金利のリスクは顕在化しておらず、当面は短期金利の上昇もないと見る向きが多いと見られる。しかし、日本においても40年ぶりとも言われる物価高騰等で、これまでの30年余とは違って本当に金利上昇があるかもしれない。金融機関には変動金利の住宅ローンのリスクについて引き続き適切な説明が求められるとともに、借りる人も十分にリスク等を理解した上で、固定金利と変動金利のどちらが良いかを判断する必要があるだろう。
*2 このことが、足元で利上げが続くアメリカの住宅市場で影響が緩和される要因となっていると内閣府「世
界経済の潮流 2022年 II」は分析している(同61ページ)。
(2023年11月08日「基礎研マンスリー」)

- 【職歴】
1988年 住宅金融公庫入社
1996年 海外経済協力基金(OECF)出向(マニラ事務所に3年間駐在)
1999年 国際協力銀行(JBIC)出向
2002年 米国ファニーメイ特別研修派遣
2022年 住宅金融支援機構 審議役
2023年 6月 日本生命保険相互会社 顧問
7月 ニッセイ基礎研究所 客員研究員(現職)
【加入団体等】
・日本不動産学会 正会員
・資産評価政策学会 正会員
・早稲田大学大学院経営管理研究科 非常勤講師
【著書等】
・サブプライム問題の正しい考え方(中央公論新社、2008年、共著)
・世界金融危機はなぜ起こったのか(東洋経済新報社、2008年、共著)
・通貨で読み解く世界経済(中央公論新社、2010年、共著)
・通貨の品格(中央公論新社、2012年)など
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