2023年10月25日

マンションと大規模修繕(4)~マンション管理は資産運用、所有者は積極的取り組むべき

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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【 分譲マンション所有者は管理に無関心な人が多い 】

東京都が2013年におこなったマンション実態調査結果のうち「日常管理の問題」では1位が「マンション管理に無関心な居住者が多い(43.1%)」、2位が「(マンション管理組合の)役員のなり手がいない(32.8%)」、4位が「役員の負担が増大している(18.6%)」となった(図表1)。

一般的にマンションの管理組合の役員は責任や負担が重い。また、管理組合員(役員ではないマンション所有者、以下組合員)の人数が多いほど、組合員間の調整役や意見のとりまとめ役となる役員の負担は増す。マンション所有者が役員になることを嫌がることも十分理解できる。
図表1 分譲マンションの日常管理の問題

理事会役員の負担は大きい

【 理事会役員の負担は大きい 】

マンションの資産価値の維持にはマンションの建物としての適切な管理や修繕が不可欠である。管理についての様々な意思決定は、戸建てのように1棟のマンションが一人の所有である場合はその人がその人の責任で判断すれば良い。一方、分譲マンションの場合は、大規模修繕の決定や規約の変更などの重要な意思決定に、一定割合以上の所有者の合意が必要である。一般的な分譲マンションは数十戸から数百戸程度あるため、重要な決定に際しての合意形成には時間を要することが多く、場合によっては合意形成できないこともある。
 
分譲マンションの場合、マンション所有者の管理組合への加入は義務であり1、マンション管理に関する意思決定は管理組合が行う。管理組合の運営の中心となるのが理事会とその役員であり2、役員(特に理事長)の負担は大きい。役員の負担の例として、理事会は月1回以上の開催が望ましいが各役員が参加しやすいように休日を割かなければならないこと等が挙げられる。また、特に負担が大きいのが、年1回以上開催しなければならない総会の議事にかけるための大規模修繕計画などを含む修繕計画等やそれに係る収支予算案の作成である。しかし、こうした負担があるにも関わらず、理事長等の役員は無報酬あるいは寸志程度である場合が多い。役員になる人の不満を平等に分散するために輪番制を取るマンションもあるようだ。
 
管理組合自体の運営の悩みや困りごとの解決などでも、理事会に負担が集中する。公益財団法人マンション管理センターによると、2022年度にあった管理組合の運営等に関する相談の相談者属性は、管理組合の関係者からが77.8%、うち組合員が29.3%と最も多く、次いで理事が17.4%、理事長が17.1%であった。ただし、分譲マンションは数十戸から数百戸の住戸からなるコミュニティであり、1棟のマンションに理事長は1人であるから、組合員からの問い合わせは母数から見ると少ないと言えよう(図表2)。
図表2 管理組合の運営等に関する相談の相談者属性(2022年度)
 
1 区分所有法第3条
2 理事長、副理事長、監事、理事などの役職がある

管理に無関心な組合員が多いと、

【 管理に無関心な組合員が多いと、マンションの資産価値に悪影響が生じる場合がある 】

しかし、多くの組合員が理事会に任せきりでマンション管理に無関心でいると、マンションの資産価値に悪影響が生じる可能性が高くなる。具体例をいくつか考えてみよう。

(1) 理事長等の役員の負担が増し、なってもよいという人がいなくなる
分譲マンションの管理では理事長は必ず選ばなければならない。理事長の権限は強い反面、マンション管理に無関心な組合員が多いほど、真面目な理事長や理事には多大な負担がかかる。こうした場合、理事長・理事に積極的になりたい、なってもよいという人は次第にいなくなる可能性がある。もし、管理組合の中心である理事長が仕方なくやっている場合、必要なマンションの修繕等がなされない等の問題が生じる可能性が高くなり、マンションの住民とのコミュニケーション等を含めてマンション管理もうまくいかなくなるかもしれない。また輪番制でも、自分の任期中は頑張る人もいるだろうが、運営管理の継続性確保は案外難しく、次に述べるように、任期中は積極的には何もしないという事態になりかねない。

(2) 問題が先送りにされる
マンション管理に無関心な組合員が多く、理事会も運営に消極的な場合は、問題が生じても問題解決が先送りにされてしまう可能性が高くなるかもしれない。マンション管理では時間をかけても構わない事象もあるが、エレベータ-の故障等、迅速な対応が求められる事象も少なくない。また必要な時期に大規模修繕実施の意思決定がなされない場合は、マンション全体の建物価値が十分に維持できず、長期的な劣化速度が早くなる可能性が高まるだろう。

(3) 理事会・理事長らの誤った判断を抑制できない
管理組合の重要な意思決定を行うのは総会であり、組合員である所有者全員で組織される。総会への参加は代理人でもよい3。マンション管理に無関心な組合員が多いと、招集状の出欠確認で「本人は欠席、理事長を代理人とする」という趣旨の選択肢を選ぶ人が多くなるだろう4

議決権の大半が理事・理事長に委ねられた場合、一般の組合員は反対する機会を失うことになり、理事会・理事長が全てを決めることが可能となる。仮に理事長や理事会が善意であり、最良だと判断した選択であったとしても、マンションの価値維持には良くない判断かもしれないし、一部の組合員には都合の悪い選択であるかもしれない。あとから、そんなはずではなかったと言おうとしても、実際に変更工事や修繕工事が始まってしまえば現実的には止める方法はないし、最悪の場合は修繕積立基金の残高に影響が出る可能性もある。さらに、長期間に亘って理事長に全てが一任されている場合、万が一、理事長に悪意があると、誰からも牽制されないので、修繕積立金の私的流用等のリスクも出てきてしまう。
 
3 組合員は、総会の議決権を代理で行使することができる。代理人となることができるのは(1)組合員の配偶者・実父母・子、(2)同じ住戸に同居する親族、(3)他の組合員(理事・理事長を含む)である 。
4 管理組合の運営が不適切で、そもそも総会が開催されない場合も考えられる。

役員以外の組合員も管理に積極的であるべきだ

【 役員以外の組合員も管理に積極的であるべきだ 】

資産運用において、一般の素人が運用のプロ等の他人に判断や運用を丸投げする場合は、そうした資産運用を任される運用会社等は、政府や自主規制団体による厳しい規制を受ける。そういう厳しい規制があっても投資信託等の運用商品を選ぶのは各個人であり、結果は自己責任となる。自分では何もせずに他人に丸ごと資産運用を任せるのは他人に通帳と印鑑を預けるのと同等のことであり、そのことのリスクの高さは論じるまでもない。
 
マンション所有では良好な管理をすることが、長期に亘り良い居住空間や環境を維持し、マンション自体の価値を守るためには不可欠であり、資産運用と同様にすべてを他人任せにすべきではない。役員でない組合員であってもマンション管理に積極的に関わるのは当然であると認識すべきであろう。最低でも、年に1度程度の総会への出席はもちろん、総会の開催時期ではなくてもマンションの共用部分の清掃や維持状況等には気を配るべきだ。はじめは専門的なことでなくてもいい。各所有者が普段住んでいてマンションに不便なところはないか、今ある設備に不具合はないかなどに気を付けるなど、簡単なところからはじめればよい。
 
また、マンション管理においてはなるべく多くの組合員が今の状況を理解し、話し合い、合意形成するのが望ましい。理事会の役員は皆の意見のとりまとめ役であって意思決定者にしてはならない。あくまでも、管理をどうするかは大半のマンション所有者の意思表明による多数決によるべきである。確かにマンション内の住戸数が多いほどそれぞれの住戸所有者の意見や立場は多様となり、意見を1つに集約する作業は大変で、理事長等の役員方の負担も大きなものになるが、マンションの良好な管理を維持するためには避けては通れない。こうした役員方には、それ相応の感謝や報酬があってしかるべきなのかもしれない。しかし、そうした場合であっても理事会の行動や意思決定はマンション所有者が我が事として十分な関心を持つべきであろう。
 
分譲マンションは戸建てに比べて維持管理が簡単だから選択したという人も多いと思うが、戸建てと同様に快適な居住空間や環境を維持するのは管理組合ではなく、同じマンションに住む住人や所有者であることを認識すべきである。戸建ては自己責任で自分が決断すればなんとか対応できるが、ある程度大きな分譲マンションでは実は自分だけでは何もできない。従って、日頃からマンション管理について住民同士でのコミュニケーションを良好にし、共通認識を醸成し、修繕計画と資金負担について合意形成しておくことがとても重要となる。大規模修繕が必要となってから、修繕計画や資金手当方法を慌てて議論し始めてももう遅いことが多い。住民の間での合意形成に時間がかかったり、合意自体ができなかったり、資金の手当てができなかったりするリスクが高くなる。
 
自分が現在役員でなかったとしても、楽をして他人任せにせずに、日頃から皆で負担を分け合うほうが、結果的に将来の合意形成が楽になり、長期的に円滑なマンション管理を実施することができる。そして、マンション管理を円滑に行うことができれば、各々の組合員が所有するマンションはより長期的に快適に暮らすことができ、それぞれの価値もより長く維持できることになるだろう。
 
 

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2023年10月25日「基礎研レター」)

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