2023年10月24日

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6コロナ感染対策は段階的緩和を経て2023年2月に完全撤廃へ
(1)コロナワクチンの職域接種をいち早く実施、接種対象を地域住民・取引先等にも拡大
同社グループでは、国内での新型コロナウイルス感染拡大に備え、既述の通り2020年1月26日(日)よりいち早く在宅勤務体制へ移行し、新型コロナウイルスワクチンの職域接種についても、2021年6月1日の政府による方針発表の翌日である6月2日にグループとしての職域接種実施方針を公表するなど、国内企業の中でもいち早くコロナ感染対策を進めてきた33

コロナワクチンの職域接種については、例年実施しているインフルエンザの職域接種のハウハウを活かしたという。2021年6月21日より、グループ第2本社(渋谷フクラス)のコミュニティスペースを職域接種会場として、東京拠点及び地方拠点(右記の九州拠点を除く)に勤務するグループの従業員を対象としたワクチン接種を開始した(福岡・北九州・下関・宮崎拠点に勤務する従業員は、福岡拠点にて接種)34。このように、国内企業の中でもいち早く体制整備を進め、2021年10月6日に国内18,136名へのワクチン2回接種を完了した35

さらに2022年1月21日には、同年2月下旬より、職域接種によるコロナワクチンの3回目接種を開始することを決定した。同社グループでは、2021年11月17日に公表された政府方針を受け、翌日の11月18日に職域接種によるコロナワクチンの追加接種(ブースター接種)を順次実施することを決定していたが、3回目接種に必要なワクチン納品の目途が立ったため、実施時期を確定することとした36という。熊谷代表は、2022年2月18日に「3回目の職域接種をスタートしました。1、2回を接種させて頂いた約18,000人のパートナー(※=従業員)、ご家族、恋人、お取引先、近隣の商店街の皆様が対象です」37とツイッター(現X)に投稿した。

無償接種の対象は従業員の家族・大切な人に加え、職域接種環境を整えることが困難な取引先企業、地域住民(近隣の商店街)にも拡大され、オフィスというファシリティ(CRE)を接種会場として活用することで、地域コミュニティの健康と安心・安全の確保に向けて、良き企業市民としての役割を果たした好例と考えることができる。
 
33 GMOインターネットグループPRESS RELEASE 2022年9月20日「GMOインターネットグループが『新型コロナウイルス感染対策緩和宣言』第一弾の取組として、社内でのマスク着用は任意に」より引用。口語体を文語体に変換するなど、一部筆者が修正を加えた。
34 GMOインターネットグループPRESS RELEASE 2021年6月21日「GMOインターネットグループ、新型コロナウイルスワクチンの職域接種をスタート 5日間で約8割(3,819名)のパートナーが接種」を基に記述した。
35 GMOインターネットグループPRESS RELEASE 2022年1月21日「GMOインターネットグループ、職域接種による新型コロナウイルスワクチンの3回目接種を2月下旬より実施」より引用。口語体を文語体に変換するなど、一部筆者が修正を加えた。
36 注35と同様。
37 熊谷正寿「#職域接種 #ワクチン3回目 #新型コロナワクチン」『ツイッター(現X)』2022年2月18日より引用。(※ )は筆者による注記。
(2)「新型コロナウイルス感染対策緩和宣言」を発表、パーテーション設置の執務室内でマスク着用を任意に
その後、ワクチン接種や国内における段階的な感染対策の緩和が進展していたことから、同社グループにおいても感染対策や付随する制度の見直しを検討することにしたという。

2022年9月13日~16日にグループの従業員を対象とした「新型コロナウイルス感染対策の緩和(解除)検討アンケート」を行った結果、パーテーションを設置した執務室内においては対策緩和を望む声が過半数に上ったという。このアンケート結果を詳細に見ると、パーテーションがある場合、「執務室内でのマスク着用は不要」と回答した人の割合は35.3%、「やや不要」が22.2%と、合計が57.5%に上り「マスク着用は不要」と回答した人の割合は過半数に達した(図表5)。一方、パーテーションがない場合、「執務室内でのマスク着用は必要」が45.1%、「やや必要」が26.1%と、合計7割超の人が「マスク着用は必要」と回答した。
図表5 GMOインターネットグループ:マスク着用ルールに関するアンケート結果(2022年9月13日~16日・従業員アンケートから抜粋)
このアンケート結果などから、同社グループは同年9月20日に「新型コロナウイルス感染対策緩和宣言」を発表し、段階的な対策緩和を行っていくこととした。

第一弾の取組として、同日より、パーテーションを設置した執務室内においてマスク着用を任意とした(それまでは執務室内でのマスク着用は必須)。またもいち早い経営判断が注目を集めた。同社グループでは、今後も感染状況や従業員の意見を反映しながら、段階的で柔軟性のある感染対策・対策緩和を進めていくとした38

経営トップが明確な経営思想を持ちつつも、環境変化などに対応したその時々のBCPなどの方針・施策を定める際に、従業員の意向・意見・希望に丹念に耳を傾けようとするスタンスが特筆される。
 
38 注33と同様。
(3)2023年2月に新型コロナ感染対策を完全撤廃、いかなる場所でもマスク着用を任意に
コロナ感染対策緩和宣言発表の3か月後の2022年12月14日~20日にも、グループの従業員を対象とした「新型コロナウイルス感染対策の緩和に関する執務室内でのマスク着用状況と効果について」のアンケートを実施した。その結果、61%の従業員が、パーテーションのある執務室内では何らかの形でマスクを外して業務をしていることがわかったという。その内訳を詳細に見ると、執務室内でのマスク着用状況について、「常に外している」と回答した人の割合は7%、「主に外しているが、状況に応じて着用している」が17%、「主に着用しているが、状況に応じて外している」が37%と、合計61%の人が「パーテーションのある執務室内であれば、何らかの形でマスクを外している」と回答した(図表6)。「中でも『状況に応じて着脱している』従業員は54%であり、他の従業員と接する場合やパーテーションがない場所に移動する場合など、相手を気遣って着脱を判断している従業員が大多数であることがわかった。一方で、マスクを『常に着用している』という従業員も38%おり、感染者数が増えている状況などを心配する声も聞かれることも事実として認められた」39という。
図表6 GMOインターネットグループ:執務室内でのマスク着用状況(2022年12月14日~20日・従業員アンケートから抜粋)
マスクを外して業務をしている従業員からは、そのメリットとして、「声が聞き取りやすくなった」「表情や情報が伝えやすくなった、読み取りやすくなった」「コミュニケーションが活発になった」といった声が聞かれた40という。

また、このアンケートで、さらなる感染対策の緩和に前向きな声が多く聞かれたことなども受け、コロナ感染対策のさらなる見直しの検討を進めたという。検討の結果、2023年2月6日に、これまで実施してきた社内のパーテーションや床の整列シールの設置や、従業員に対する行動規制(社外の人との会食の禁止)、手洗い乾燥機の利用禁止などのコロナ感染対策を完全撤廃することとした。あわせて、マスク着用についても、パーテーションの有無にかかわらず、いかなる場所でも着用を任意とする方針に変更した。なお、手洗い・消毒・検温などは、基本的な感染症対策として継続実施とした41
 
39 GMOインターネットグループPRESS RELEASE 2023年1月4日「GMOインターネットグループ、『マスク着用の実態調査』を実施」より引用。口語体を文語体に変換するなど、一部筆者が修正を加えた。
40 GMOインターネットグループPRESS RELEASE 2023年5月11日「GMOインターネットグループ、新型コロナ5類移行に伴い感染症対策をすべて撤廃」より引用。口語体を文語体に変換するなど、一部筆者が修正を加えた。
41 GMOインターネットグループPRESS RELEASE 2023年2月6日「GMOインターネットグループ、新型コロナウイルス感染対策を完全撤廃」より引用。口語体を文語体に変換するなど、一部筆者が修正を加えた。
(4)コロナ対策完全撤廃に伴い原則出社勤務へ変更、コロナ以前のオフィス環境に戻す
(3)で述べたコロナ感染対策の完全撤廃に伴い、2023年2月22日より、それまで「原則、週3日出社・週2日在宅勤務」を推奨していた出社体制を廃止し、生産性を向上させより高い成果を出すことを目的とした「武器としての在宅勤務」42および、将来のオフィス賃料を削減し従業員へ還元するための計画的な在宅勤務の活用43を除き、出社しての勤務を原則とした44。その目的は、「『コロナ以前のオフィス環境』に戻すことで、従業員同士のコミュニケーションをさらに活性化させること」にあるという。

筆者は、2021年拙稿にて「メインオフィスの重要性を熟知し実践してきた米国の先進的なハイテク企業では、コロナ後に従業員の安全性が確認されれば、速やかに躊躇なくメインオフィスでの業務を全面的に再開する、すなわちコロナ前の体制に積極的な意味で『戻す』だろう。コロナ後には平時の体制に戻すのであって、コロナ禍での気付きをBCPや働き方・オフィス戦略の改善に活かすことはあったとしても、基本的には、最先端のワークスタイルやワークプレイスを活用したこれまでの戦略に大きな変更は生じないはず」といち早く予想していたが、代表格のGAFAはまさにそのような経緯を辿っているとみられる。同社がコロナ感染対策の完全撤廃に伴い、コロナ前のオフィス環境に躊躇なく戻したことは、米国の先進的な巨大ハイテク企業と同様のやり方であり、大変心強く感じる。

一方、日本企業の中で「新型コロナの脅威が後退し従業員の安全確保が確認できれば、あるいはコロナ後の平時に戻れば、自信をもってコロナ前の体制に戻す」と明確に言い切って公表できる企業は極めて少ないとみられる。2021年拙稿にて指摘した通り、多くの日本企業では、導入・実践が遅れている大本のCRE戦略をしっかりと取り入れた上で、それに基づく創造的なオフィス戦略を新たに構築することが急務であるため、確かにコロナ前の体制にそのまま戻すことが正解にはならないだろう。その正解を追求する際に留意すべきは、コロナ後には、人々の生活や働き方が何でもかんでも大きく変わるニューノーマルが訪れると思い込むのではなく、米国の先進企業が実践してきた「オフィス戦略の定石」や筆者が提唱する「メインオフィスの重要性」を「ブレない軸=原理原則」として取り入れることこそが重要である、と捉えることだ。

さらにGMOインターネットグループでは、2023年5月8日に新型コロナの感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザなどと同じ5類に移行したことに伴い、翌日の5月9日に検温機の撤去を実施したことで、オフィスで実施していた感染対策をすべて撤廃し、「コロナ以前のオフィス環境」に戻した45。検温は、同年2月時点では前述の通り、消毒・手洗いとともに基本的な感染症対策として継続実施としていた。消毒・手洗いの励行については、5月以降も通常の衛生対策としてそのまま維持するとした。
 
42 熊谷代表は、「リモートワークの有効性がコロナで確認できたので、これを続け武器にしていくのが重要だ」(日経産業新聞2022年1月5日「週2在宅勤務で『未来家賃』抑制 GMO熊谷社長に聞く」)、「ビジネスが『戦(いくさ)』なら、オフィスは『武器』であり、テレワークもまた『武器』」(東急不動産ホールディングス2020 統合報告書)と述べている。
43 在宅勤務の計画的な活用により発生するオフィススペースの余裕(これまでの週3日出社・週2日在宅勤務の体制の下では4割のスペースの余裕が生まれる)を将来のオフィス増床に充てることで、将来のオフィス賃料の増加を抑制することができ、その利益留保分を従業員と株主に還元するという、当社独自の考え方を指す。詳細は後編にて記述する。
44 GMOインターネットグループPRESS RELEASE 2023年5月11日「GMOインターネットグループ、新型コロナ5類移行に伴い感染症対策をすべて撤廃」より引用。口語体を文語体に変換するなど、一部筆者が修正を加えた。
45 注44と同様。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営

経歴
  • 【職歴】
     1985年 株式会社野村総合研究所入社
     1995年 野村アセットマネジメント株式会社出向
     1998年 ニッセイ基礎研究所入社 産業調査部
     2001年 社会研究部門
     2013年7月より現職
     ・明治大学経営学部 特別招聘教授(2014年度~2016年度)
     
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・(財)産業研究所・企業経営研究会委員(2007年)
     ・麗澤大学企業倫理研究センター・企業不動産研究会委員(2007年)
     ・国土交通省・合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会) ワーキンググループ委員(2007年)
     ・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会CREマネジメント研究部会委員(2013年~)

    【受賞】
     ・日経金融新聞(現・日経ヴェリタス)及びInstitutional Investor誌 アナリストランキング 素材産業部門 第1位
      (1994年発表)
     ・第1回 日本ファシリティマネジメント大賞 奨励賞受賞(単行本『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』)

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【コロナ後の働き方とオフィス戦略の再考(前編)-日本の先進企業、GMOインターネットグループに学ぶ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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