2023年10月24日

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3新型コロナに関連する情報を集めた特設サイトの公開は高い志に基づく社会貢献活動
同社グループが2020年2月12日に公開した、新型コロナに関連する情報を集めた特設サイト「新型コロナウイルスに関するグループの取り組みと関連リンク集」23では、「これから事業継続計画(BCP)の立案を検討される企業や事業者の一助となるべく、在宅勤務体制の施行を含む、一連のGMOインターネットグループの対応状況を紹介する他、今後はGMOインターネットグループの在宅勤務体制における社内アンケートの結果や、実際の事業継続計画の公開も予定している」24と、同サイトの公開目的や掲載内容について当時のニュースリリースに記載されている。因みに、前述の2回の社内アンケートの結果の詳細は、実際に同サイトにて2020年2月28日および3月16日に各々公開されている。

これは、BCP先進企業である同社がそのノウハウの一端をコロナ禍の初期から公開するものであり、極めて高い志に基づく社会貢献活動である、と言えよう。

なお、後述するように、同社グループは今年2月6日にコロナ感染対策を完全撤廃したため、現時点での同サイトの冒頭には、「GMOインターネットグループは、新型コロナウイルス感染対策を2023年2月6日(月)をもって完全撤廃しました」との赤字での記載があるが、続けて「※以下は、2020年1月~2023年2月6日までにおける弊社グループの事業継続計画(BCP)などの記録となります」と赤字で記載され、同サイト自体はそのまま公開されている。
 
23 同サイトのURLは、https://www.gmo.jp/coronavirus/
24 GMOインターネットグループPRESS RELEASE 2020年2月12日「新型コロナウイルス(COVID-19)感染症に関する特設サイトを公開」より引用。
4テレワーク制度の稼働による「2つの重要性」の同時実践
2020年5月25日に1回目の緊急事態宣言が解除されると、同社グループは、同年5月26日より在宅勤務を継続しながら出社勤務を再開するのに合わせ、新型コロナの感染防止と持続的な経済・企業活動の両立を目指す、ウィズコロナ時代の経営スタイルとして「新しいビジネス様式byGMO」を策定し、勤務体制、オフィス環境(社内の感染予防対策)、行動様式(従業員向け行動ガイドライン)、ビジネスの各方面から具体的な体制・行動を定めた(図表3)。

例えば、勤務体制としては、2020年4月10日に意思決定して以降、準備を進めていた在宅勤務でのテレワークを恒常的なものとする「テレワーク制度」を同年6月上旬頃からグループ各社において準備ができ次第、順次稼働させていくことを決めた。ここでのテレワーク制度は、週1~3日を目安(推奨は2日)に在宅勤務とする体制を指す25。この「テレワーク制度の稼働後は、最終的にグループ全体の40%が常時在宅勤務(テレワーク)となることを見込んでいる」26とされていた。
図表3  GMOインターネットグループ:withコロナ時代における「新しいビジネス様式 byGMO」
熊谷代表は当時、このテレワーク制度について「ただし、これはあくまで現段階での施策。最終的な勤務体制や行動様式をどうするかは、コロナが収束するまで決めない。それが私の方針です」27「業種や職種によっても異なるが、現在グループの大きな指針としては週5日のうち『3日出社、2日在宅』にしている。人類が経験する初めての在宅勤務なので、この比率は組織の状態を見ながら柔軟に変えていきたい」28と述べ、グループ推奨としての勤務体制である「3日出社、2日在宅」は、コロナが収束するまでのウィズコロナ期のその時点(2020年5月)での暫定的な判断であって、今後も恒常的にFIXするわけではなく、組織の状態や環境の変化により出社・在宅の比率は柔軟に見直していくし、その最終判断はコロナ後に行う、ということを明確に示唆していた。実際、今年2月にコロナ感染対策の完全撤廃に伴い、この週2日の在宅勤務推奨を廃止し出社勤務を原則とする方針へ見直した(後述)。

また熊谷代表は、「今回リモートワークを経験した企業の中には、『100%在宅勤務にして、オフィスは解約する』とか『地方に移転する』といった意思決定をするケースが出てきていますが、私は今決めるべき話ではないと思っています。現時点で極端なアクションを起こしてしまうと、アフターコロナの動きに対応できず、取り返しがつかなくなる可能性があるからです」29とも述べている。

一方筆者は、2021年拙稿にて「オフィスの現状の利用率(在席率)が極めて低いからといって、メインオフィスなどの座席数さらにはスペースを大幅に削減するなど縮小均衡型の施策を拙速に講じて、一時的な移行期間であるウィズコロナ期の低いオフィス利用率に合わせたオフィススペースに固定化してしまうことは、組織スラックを備えないリーン型の意思決定に他ならずリスクが極めて高い」「本来はアマゾンやグーグルのように、ウィズコロナ期にコロナ後を見据えた確固たる骨太のオフィス戦略を打ち出し実行すべきだが、さもなければアフターコロナを迎えるまでは、固定資産(不動産)としてのオフィススペースに関わる意思決定をペンディングにしておくことが、次善の策となるのではないだろうか。不動産の投資や削減に関わる意思決定には、中長期の設備投資計画や賃貸借契約などが関わるため、当然のことながら、短期的な目先の視点ではなく中長期の視点が欠かせず慎重さが求められるからだ」と指摘したが、筆者のこの主張は、上記の熊谷代表の考え方と全く整合的だ。「コロナ後への移行期であるウィズコロナに合わせた拙速な意思決定では、コロナ後の動きに対応できなくなる」との熊谷代表の考え方・方針は、経営者として極めて真っ当で合理的・定石的な判断であり、特筆される。一方、短期志向の経営の下では、このような定石的な経営判断を下すことが難しくなるとみられる。筆者は、このような定石的な経営判断の巧拙の積み重ねが、ボディーブローのように、中長期の企業競争力に大きく効いてくる、と考えている。

筆者は、2021年拙稿にて「オフィスワークとテレワークのベストミックスについては、企業は、固定的な数値のルール化により従業員に柔軟性の低い働き方を強いるのではなく、ガイダンスや推奨値の提示により組織スラック型の緩やかな運用を行うことを心掛けるべきだ」と指摘したが、同社が2020年5月に示した前述のテレワーク制度は、まさにそのお手本のようなやり方だ。同社は、後編にて詳述するように、筆者が提唱する「2つの重要性」の1つ目の「メインオフィスの重要性」を大切にしているため、テレワークの推奨は週2日(よって出社は3日)としてオフィスワークにやや重きを置くガイダンスを経営の意思として示しつつ、2つ目の重要性である「働く環境の選択の自由」をより一層担保すべく、テレワークの目安は週1~3日(よって出社は2~4日)とレンジで示すことで緩やかで柔軟な運用に努めようとしているとみられる。いずれも「推奨」や「目安」として示すことで、経営側から働き方を従業員に決して厳格に強いるのではなく、従業員の働き方の選択の自由をできるだけ尊重するとの経営思想がうかがえる。オフィスワークを大切にする経営方針の下でも、週の勤務日数が必ず「出社>在宅勤務」となるような勤務体制を従業員に強いるのではなく、従業員の個々の事情に応じて、例えば「出社2日、在宅勤務3日」など「出社<在宅勤務」を選択できる余地を残しているとみられる。メインオフィスをワークプレイスの中核に位置付けつつ多様な働き方の選択肢も提供して「2つの重要性」を同時実践しようとする、テレワーク制度の巧みな運用が特筆される。
 
25 グループ各社により在宅勤務実施日数は異なる。また、糖尿病などの持病を持っていたり、妊娠していたり十分な健康配慮が必要な従業員、および同居する家族が同様の場合は、健康状態を問わず対象外とする。
26 GMOインターネットグループPRESS RELEASE 2020年5月25日「withコロナ時代における『新しいビジネス様式 byGMO』へ移行」より引用。
27 熊谷正寿「GMO代表『最速で在宅勤務を始めても、オフィス縮小は急がない理由』」プレジデント2020年8月14日号より引用。
28 日経産業新聞2022年1月5日「週2在宅勤務で『未来家賃』抑制 GMO熊谷社長に聞く」より引用。
29 注27と同様。
5独自の明確なルールに基づくコロナ禍での勤務体制の機動的・弾力的な運用方針
同社グループでは、感染症などによるパンデミックの発生時における勤務体制について、従業員の身を守ることを最優先としたうえで、サービス・事業活動を継続していくために、社会状況(国や都道府県の定めるルール、感染規模、医療環境)から総合的に判断する独自の基準を設けている30。すなわち、「レベル1:出社(注意喚起)」、「レベル2:出社(各自、および職場環境の十分な予防措置を講じる)」、「レベル3:出社許可制(上長と協議の上、感染防止の対策を講じた上で出社可)」、「レベル4:出社禁止(サービスおよび会社の存続にかかわる最低限の従業員を除く(命を守るための感染防止対策を講じる))」、「レベル5:外出禁止(全従業員在宅勤務の上、勤務時間外も外出禁止)」というように、出社体制を5段階のレベルに設定し、外部環境に応じて独自の判断・意思決定により運用を行うものだ(図表4)。レベルが高まるほど、パンデミックの深刻度が増していることを表す。

4|で述べたように、同社グループでは、2020年6月から新たなテレワーク制度を順次稼働させる予定であったが、東京都における同年7月以降の新型コロナの感染者数の増加を受けて、同年7月15日より、「出社許可制で原則は在宅勤務とする体制」、すなわち「レベル3」へ再び迅速に移行した。その後も、この基準に則り出社体制の変更を行っていたという。因みに、「同グループの警戒レベル変更の意思決定に要する平均的な時間は、実に1分程度」31という。
図表4 GMOインターネットグループ:パンデミック時における対策発令・対応レベル(独自の危機管理レベルに応じた出社体制)
筆者は、2021年拙稿にてBCPについて「パンデミックの深刻度に応じた出社や外部顧客との対面面談の可否も、先進的なグローバル企業のように、予めきっちりとルールとして決めておくことが求められる」「新型コロナが終息するまでのウィズコロナ期では、常に感染再拡大のリスクを警戒せざるを得ない状況が続くとみられ、企業はその時々の感染状況を見ながら、ワークププレイスの利用・運用方針を臨機応変に変えざるを得ない。グーグルやアマゾンなどの米国先進企業では、これまで全米の感染拡大の深刻化に合わせて米国でのオフィス再開時期を随時後ろ倒しに変更するとともに、社内外に速やかに明らかにしてきた32。ここでは、経営者には、何よりも従業員の安全と事業の継続を最優先とし、環境変化に対応して柔軟かつ機動的に経営施策を変更するスタンスが求められる」と指摘したが、同社の5段階のレベルに基づくパンデミック時の勤務体制の柔軟な運用は、まさに海外の先進的なグローバル企業と同様のやり方だ。

日本企業の中で、このような先進的なやり方を実践する事例は未だ極めて少ないとみられる。「多くの大企業がBCPを導入している」とのアンケート結果は多いが、2021年拙稿にて指摘した通り、BCPについては、日頃からの準備・訓練が足りなかったり、迅速な振り返りや社内アンケートの継続的な実施によるブラッシュアップの繰り返しが不十分であったり、ルールが明確でないなど運用があいまいだったりすることが多いのではないだろうか。今年5月に新型コロナが5類感染症に移行したこともあり、オフィス回帰を進める日本企業が散見されるが、このうち、明確なBCPルールやオフィス・CRE戦略に基づいてそのような企業行動を取っているごく少数の先進企業がある一方で、そのような基準やルールを持たないままに、なし崩し的に単に出社頻度を増やした企業も多いのではないだろうか。
 
30 GMOインターネットグループPRESS RELEASE 2020年7月14日「新型コロナウイルスの感染防止のため出社許可制(原則在宅勤務)へ体制移行」より引用。
31 i4U 2022年5月30日「GMOインターネット・熊谷正寿流『ハイブリッド出勤』のススメ」より引用。
32 2021年夏以降はデルタ株、同年末以降はオミクロン株と、コロナの変異株による急激な感染再拡大を受けて、GAFAなど米国の巨大ハイテク企業の間で全面的なオフィス再開を遅らせる動きが続いた。同年夏にデルタ株の流行を受けて、本格的な出社再開を同年9月から2022年1月へ延期する企業が相次いだが、2021年末にはオミクロン株の流行を受けて、2022年の年明けからのオフィス再開を見合わせ再延期する動きが散見された。その後、早ければ2022年春以降、巨大ハイテク企業の間でオフィス勤務の再開へ向けた動きが広がり、例えばグーグルは、同年4月初めに本社を全面的に再開した。

(2023年10月24日「基礎研レポート」)

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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営

経歴
  • 【職歴】
     1985年 株式会社野村総合研究所入社
     1995年 野村アセットマネジメント株式会社出向
     1998年 ニッセイ基礎研究所入社 産業調査部
     2001年 社会研究部門
     2013年7月より現職
     ・明治大学経営学部 特別招聘教授(2014年度~2016年度)
     
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・(財)産業研究所・企業経営研究会委員(2007年)
     ・麗澤大学企業倫理研究センター・企業不動産研究会委員(2007年)
     ・国土交通省・合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会) ワーキンググループ委員(2007年)
     ・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会CREマネジメント研究部会委員(2013年~)

    【受賞】
     ・日経金融新聞(現・日経ヴェリタス)及びInstitutional Investor誌 アナリストランキング 素材産業部門 第1位
      (1994年発表)
     ・第1回 日本ファシリティマネジメント大賞 奨励賞受賞(単行本『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』)

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