2023年10月23日

新築マンション市場の動向(首都圏2023年9月)~様子見はじめた需要者も。供給は東京都心部へ集積が進む

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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【 新築マンション価格は高値が続くが、需要者が様子見をはじめたエリアも 】

不動産経済研究所によると、2023年9月の首都圏新築マンション平均発売価格は6,727万円(前年同月比+1.1%)、発売戸数は2,120戸(+4.1%)、初月契約率は67.7%(前月比▲0.9%、前年同月比+6.1%)であった。また、直近12ヶ月の移動平均では平均発売価格が7,426万円(前年同月比+16.8%、2013年同月比+56.4%)、平均発売戸数は2,236戸(▲17.0%、▲50.7%)となった。価格の上昇傾向と供給戸数の減少傾向は依然として続いている(図表1)。

ただし、2023年9月のエリア別の初月契約率では東京都下が89.5%(前年同月比+28.4%)、神奈川県が76.6%(+15.5%)と高水準である一方で、東京都23区が56.3%(▲12.6%)、埼玉県が39.6%(▲0.2%)となった。エリア別では需要者が様子見をはじめたところもあるようだ。
図表1 首都圏新築マンションの発売戸数と平均価格(月次、12ヶ月移動平均)

デベロッパーのマンション用地取得額

【 デベロッパーのマンション用地取得額は依然として減少傾向 】

またデベロッパーの用地取得額の減少が続いている。MSCIリアルキャピタル・アナリティクスによると、2023年10月18日までに判明した2023年1月1日以降の関東圏のマンション用地の取得額は約350億円1、2023年1-9月累計の前年同期比は▲72.3%(前期比+9.0%)となった(図表2)。
図表2 マンション用地の取得総額 (関東圏、前年比)
 
1 1,000万ドル(約15億円)以上の開発用地の取引のうち、マンション用地と判明しているもの。

マンション用地取得額減少の背景には建築費の高騰

【 マンション用地取得額減少の背景には建築費の高騰 】

マンション用地取得額減少の背景には建築費の高騰があると考える。国土交通省の建設工事デフレーター(2015年平均=100)によると、2023年7月は建設総合が123.1、住宅・鉄骨鉄筋コンクリート造が123.4、住宅・鉄筋コンクリート造が124.5となった(図表3)。資材価格の上昇、ドア・サッシ・壁紙などの部材の値上げ、人材不足や2024年問題による人件費増加など建設工事費高騰の要因は多く、更に上昇する可能性も高い。

マンション開発の予算を計画する時点では用地取得費用が最も柔軟に増減させることができるが、用地取得費用は建設に着手する前に支出される。その後の建築費が上昇し、上昇分を価格に転嫁できない場合はデベロッパーの利益が減少する2。需要が強いエリアでは価格への転嫁と利益の確保は比較的容易である。しかし、需要が相対的に弱く価格の変化に敏感なエリアでは、価格上昇に伴い需要が大きく減退する3。デベロッパーが価格への転嫁は難しいと考えるエリアへの投資を控え、全体としてはマンション用地の取得額が減少していると考える。
図表3 建築工事費の推移

【 建築費上昇を価格転嫁できる可能性が高い東京都心部のマンション用地購入が増加 】

図表4はMSCIリアルキャピタル・アナリティクスの公表から、関東圏内における2022年と2023年に取引されたマンション用地の立地を示したものである。2022年に取引されたマンション用地は神奈川県伊勢原市、埼玉県草加市、茨城県水戸市などの郊外部を含め、広く分布している。しかし2023年に取引されたマンション用地は東京23区へ集積している。デベロッパーは、建築費の増加を価格に転嫁しやすい東京都心部へ投資を集中させている。
図表4 取引された関東圏内のマンション用地の立地(2022年、2023年)

今後も、東京都心部へのマンション集積は高まる

【 今後も、東京都心部へのマンション集積は高まる 】

デベロッパーのマンション用地取得額は依然として減少傾向で、新築マンション供給は今後一層少なくなる見通しは変わらない。2023年の用地取得状況から、2025年頃に供給されるマンションは東京23区の高価格帯マンションが中心となり、首都圏新築マンションの平均発売価格は高値水準での推移が続くと考える。首都圏新築マンションの供給戸数の減少が高値水準の維持に貢献するだろうが、それでも需要の減少に対応しきれない場合は販売開始から完売までの期間が伸びることになるだろう。
 
また、ここ数年のマンション市況の活況と東京23区への集積により、同じ駅でも大型のマンション用地や駅至近のマンション用地が少なくなっている。東京23区内の新築マンションでも、中古マンションの立地よりも駅距離などが劣る立地が増えてくると考える。もともと、日本では多くの人が新築を買う。しかし、これからは「やや駅距離のある新築マンション」と「やや築年が経過しているが立地のよい中古マンション」のどちらにするかを検討するような時代が来るのではないだろうか。
 
 

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2023年10月23日「基礎研レター」)

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