2023年10月18日

サステナビリティに関わる意識と消費行動(2)-意識は成長段階・行動は途上段階、教育機会や情報感度、経済的余裕が影響

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3――属性別の状況~教育機会や情報感度、経済的余裕が意識の高さや行動の積極性に影響

1|性別の状況~消費生活の関心が高い女性で意識は高く、研修機会等の多い男性で行動はやや先行
性別に見ると、意識面については、そう思う割合が男性で最も高いのは「社会の一員として何か社会のために役立ちたい」(37.7%)、次いで僅差で「手間がかかっても、企業はサステナビリティを配慮すべきだ」(36.9%)、「お金がかかっても、企業はサステナビリティを配慮すべきだ」(35.8%)と続く(図表4(a))。一方、女性で最も高いのは「サステナビリティに関わる問題は他人事ではない」(52.0%)であり、次いで「サステナビリティに今すぐに取り組まないと手遅れになる」(50.3%)、「手間がかかっても、企業はサステナビリティを配慮すべきだ」(47.3%)と続く。

男女を比べると、そう思う割合は、いずれも女性が男性を上回るが、特に「サステナビリティに関わる問題は他人事ではない」(男性35.7%、女性52.0%、女性が男性より+16.3%pt)や「サステナビリティに今すぐに取り組まないと手遅れになる」(同35.2%、同50.3%、同+15.1%pt)、「手間がかかっても、消費者はサステナビリティを配慮すべきだ」(同34.1%、同45.4%、同+11.3%pt)で目立つ。

また、行動面については、男女とも上位は全体と同様であり、男女を比べると、意識面とは異なり、男性が女性をやや上回る項目が多く、「学校や組織等でサステナビリティについて学ぶ機会がある」(男性18.5%、女性12.5%、男性が女性より+6.0%pt)や「サステナビリティを意識してボランティア活動等をしている」(同13.0%、同8.2%、同+4.8%pt)で比較的目立つ。

なお、戸惑いや躊躇に関わる問いについては、いずれも女性が男性を上回り、特に「サステナビリティに興味はあるが何をしたらよいか分からない」(男性29.2%、女性41.6%、女性が男性より+12.4%pt)や「サステナビリティに関わる問題がよくわからない」(同25.2%、同33.3%、同+8.1%pt)、「サステナビリティに興味はあるがきっかけがない」(同26.7%、同34.2%、同+7.5%pt)では女性が男性を1割前後、上回る。

つまり、女性は日頃から消費生活全般への関心が高いこと3などから、サステナビリティに関わる意識も男性と比べて高い傾向があるが、男性と比べて就業率が低く(当調査では男性79.6%、女性55.2%)、サステナビリティに関わる研修等の教育機会が比較的少ないことなどから、具体的な取り組みへの戸惑いが大きく、意識を上手く行動へ移すことができておらず、行動面では男性の方がやや先行している様子がうかがえる。
図表4 性年代別に見たサステナビリティに関わる意識や行動(そう思う割合)
 
3 前稿でも「日常生活におけるサステナビリティに(も)関わる消費行動」にてエコバッグの持参やゴミの分別、詰め替え製品の購入といった取り組み状況について全体的に女性の方が男性よりも積極的な傾向が見られた。
2|年代別の状況~シニアで意識高く、教育機会に恵まれたデジタルネイティブで行動はやや積極的
年代別に見ると、意識面については、そう思う割合が最も高いのは、20歳代では「社会の一員として何か社会のために役立ちたい」(36.0%)、30~60歳代では「サステナビリティに関わる問題は他人事ではない」(30歳代:36.8%、40歳代:36.0%、50歳代:42.4%、60歳代:54.7%)、70~74歳では「お金がかかっても、企業はサステナビリティを配慮すべきだ」(68.6%)だが、いずれも2位以下と僅差である。

年代による違いを見ると、そう思う割合は、「サステナビリティに積極的に取り組む企業で働きたい」では若者ほど高まるが、それ以外では高年齢ほど高まるものが多く、特に「サステナビリティに関わる問題は他人事ではない」(20歳代30.7%、60歳代54.7%で20歳代より+24.0%pt、70~74歳64.6%で20歳代より+33.9%pt)や「手間がかかっても、企業はサステナビリティを配慮すべきだ」(同30.4%、同53.4%で同+23.0%pt、同65.9%で同+35.5%pt)で目立つ。また、60歳代以上では約半数の項目で支持率が50%を超えるが、20歳代では2~3割程度で低い傾向がある。

行動面については、意識面とは異なり、そう思う割合は40・50歳代を底に、若者やシニアで高まるものが多い。若者ほど高まるのは「学校や組織等でサステナビリティについて学ぶ機会がある」(20歳代が最多で29.0%、全体より+13.5%pt)や「サステナビリティを意識してボランティア活動等をしている」(同19.4%、同+8.8%pt)、「サステナビリティに関する情報を発信している」(同10.6%、同+3.7%pt)である。

また、40・50歳代を底に若者とシニアで高いのは「価格が安くても人権問題等のある製品を買わない」(20歳代27.6%で全体より+5.5%pt、70~74歳29.6%で同+7.5%pt)である。このほか20歳代では「価格が高くてもサステナビリティに取り組む企業の製品を買う」(24.7%、全体より+6.3%pt)や「サステナビリティについて学ぶ機会を積極的に得ている」(23.0%、同+7.5%pt)が、70~74歳では「価格が安くてもサステナビリティに影響のある製品は買わない」(30.5%、同+9.4%pt)や「サステナビリティを意識して行動している」(27.4%、同+5.9%pt)が高い。

なお、戸惑いや躊躇に関わる問いについては、70~74歳で高いものが多く、「サステナビリティに興味はあるが何をしたらよいか分からない」(48.2%、同+12.8%pt)では、そう思う割合が実に約半数を占める。

前稿でシニアほどサステナビリティに関わるキーワードを認知していたように、本稿の問で見ても、意識はシニアほどより高い傾向があるが、行動は必ずしも同様ではなく、サステナビリティに関わる教育機会に恵まれ、情報発信やボランティア活動などに積極的なデジタルネイティブ世代である若者とは対照的である。ただ、見方を変えると、ボランティア活動などに取り組んでいるのは20歳代の2割以下にとどまること、また、他年代と比べて意識面と行動面の支持率の差が小さいことから、目先の伸びしろ(サステナビリティに関わる意識があるにも関わらず上手く投影できていない層が多い)という意味では年齢が高いほど期待しやすいとも考えられる。

一方、シニアでは、若者や就業者ほどサステナビリティに関わる教育機会に恵まれていないために具体的な取り組みへの戸惑いは大きいが、意識自体は高いため、価格よりサステナビリティを優先して製品を購入するといった日頃の消費生活で個人的に取り組める行動については、若者以上に積極的な傾向がある。なお、シニアで意識が高い理由としては、前稿でも述べた通り、人生経験が長く、社会課題等について幅広い知識を蓄えていること、また、過去に環境汚染などの公害を経験し、現在と比べることができる世代であるために危機意識が高まりやすいことがあげられる。
3|職業別の状況~公務員は時間のなさが足かせのようだが価格よりサステナビリティ優先傾向強い
職業別には、これまでに見た性年代による特徴が色濃くあらわれており、例えば、無職・その他(女性70.7%)では、女性と同様、そう思う割合が「サステナビリティに関わる問題は他人事ではない」(51.3%、全体より+7.4%pt)や「サステナビリティに今すぐに取り組まないと手遅れになる」(48.7%、同+5.9%pt)などで約半数を占めて高い。また、民間・正規(民間企業の正社員・正職員、20・30歳代37.3%、全体より+11.4%pt)では「サステナビリティに積極的に取り組む企業で働きたい」(23.6%、同+5.1%pt)や「学校や組織等でサステナビリティについて学ぶ機会がある」(23.8%、同+8.3%pt)などが多いが、前述の通り、これらの項目は若者ほどそう思う割合が高まる。

このほか特筆すべきこととしては、公務員では意識面で「時間的な余裕があれば、サステナビリティを意識したい」(41.2%、同+8.8%pt)が、行動面で「サステナビリティについて学ぶ機会を積極的に得ている」(23.7%、同+8.2%pt)や「学校や組織等でサステナビリティについて学ぶ機会がある」(22.7%、同+7.2%pt)、「価格が高くてもサステナビリティに配慮された製品を買う」(23.7%、同+6.4%pt)、「価格が高くてもサステナビリティに取り組む企業の製品を買う」(23.7%、同+5.3%pt)が高いことである。なお、当調査では公務員は男性(75.3%)、30歳代(20.8%、全体より+6.0%pt)や40歳代(28.6%、同+7.7%pt)が多い。つまり、公務員の特徴としては、時間的な余裕の無さがサステナビリティに関わる取り組みへの足かせになっているようだが、価格よりサステナビリティを優先して製品を購入する傾向が強いことが読み取れる。
図表5 職業・世帯年収別に見たサステナビリティに関わる意識や行動(そう思う割合)(a)職業別(b)世帯年収別
図表5 職業・世帯年収別に見たサステナビリティに関わる意識や行動(そう思う割合)(b)世帯年収別・行動(全体の上位6位まで)
4世帯年収別の状況~高年収ほど意識が高く、行動は正規雇用者の多い層を中心に積極的
世帯年収別に見ると、意識面については、世帯年収1,000万円未満では、そう思う割合が最も高いのは全体の上位3つのいずれかだが、世帯年収1,000万円以上1,200万円未満では「手間がかかっても、企業はサステナビリティを配慮すべきだ」(54.3%)、世帯年収1,200万円以上では「お金がかかっても、企業はサステナビリティを配慮すべきだ」(1,200万円以上1,500万円未満は56.5%、1,500万円以上2,000万円は61.1%)で半数を超えて高く、高年収世帯では企業に対する見方が厳しい(あるいは期待が大きい)傾向がある。ただし、いずれも2位以下と僅差である。

世帯年収による違いを見ると、そう思う割合は高年収世帯ほど高まるものが多く、世帯年収1,500万円以上2,000万円以下では半数を超えるものが多い。

行動面については、そう思う割合が最も多いのは、世帯年収800万円未満では「価格が安くてもサステナビリティに影響のある製品は買わない」であり、いずれも25%未満だが、世帯年収800万円以上1,000万円未満や世帯年収1,200万円以上では「サステナビリティを意識して行動している」、世帯年収1,000万円以上1,200万円未満では「サステナビリティについて学ぶ機会を積極的に得ている」であり、いずれも3割前後を占める。

行動面について世帯年収による違いを見ると、意識面と同様、そう思う割合は高年収世帯の方が高い傾向はあるが、必ずしも比例しているわけではない。「価格が安くても人権問題等のある製品を買わない」や「サステナビリティを意識して行動している」、「サステナビリティについて家族や友人と話すことがある」は高年収世帯ほど高まるが、「価格が安くてもサステナビリティに影響のある製品は買わない」や「学校や組織等でサステナビリティについて学ぶ機会がある」、「サステナビリティに関する情報を収集している」、「サステナビリティを意識してボランティア活動等をしている」では世帯年収1,000万円以上1,200万円未満がピークである。この理由としては、世帯年収1,000万円以上1,200万円未満では、民間・正規が多い影響があげられる(58.5%、全体より+26.5%pt)。なお、民間・正規では、これらの項目でそう思うとの回答が同様に多い。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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