2023年10月10日

1998年から続く企業の資金超過-マネーフローに変化は起こるか?

基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.319]

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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1―内部留保と設備投資

企業の設備投資は増加傾向が鮮明である[図表1]。最近では、デフレの定番であった更新投資に加えて、人手不足への対応、新商品の開発・製造に必要な設備投資などに踏み切る例が増えている。さらに、そこに経済安全保障に関わる動きも加わり、国内で大規模な設備投資が行われ始めている。

確かに建築資材などが高騰して、名目ベースの設備投資が膨れている面はあるが、物価影響を除いた実質ベースで見ても、来年度にはバブル期以降の最高水準を更新する。
[図表1]民間企業設備の推移

2―コストカット経営の限界、付加価値の創出に投資は不可欠

今年の賃上げは、約30年ぶりとなる上げ幅を記録した。問題は、来年以降。経営の在り方の変化に付いて行けるかが、賃上げを実現できる企業と、そうでない企業を分けることになる。

消費者は、値上げを嫌う。しかし、世界的な物価上昇が続く中、値上げを受け入れざるを得ない面も出始めている。ただ、値上げする以上は、付加価値の追加を当然求めてくる。企業も、これまで安過ぎた製品やサービスの価格修正に動くはずだ。次に投入される商品は、新機能を加え、高くても消費者に受け入れられるものを出して来るだろう。

企業はバブル崩壊以降、労働生産性(付加価値額/労働量)の向上に対し、「コストカット」で臨んできた。しかし、これから賃上げしなければ、人が雇えない時代がやって来る。経済安保や脱炭素化なども加わり、様々なコストが上がることで、分母のコントロールは難しくなっていく。

今後、企業がやるべきことは値上げや付加価値を生み、分子を拡大することである。そのためには、人的投資をきっちり行って、実際に付加価値を生み出した人材に賃上げで報いていくことが必要だ。分子を最大化する経営に転換し、コストを削る経営からは卒業する。それが、設備投資や人的投資の増加となって表れ始めている。

3―投資増加の先、企業の資金余剰に変化は起こるか

今のところ、企業には潤沢な資金がある。ただ、これだけ設備投資が出て来ると、将来的にマネーフローに変化が生じることも考えられる。

金融機関の貸出金伸び率は、コロナ危機やリーマン・ショックを除いて、現行統計で遡れる1992年以降、過去最高の水準にある。ただ、その中身をみると、半分近くが不動産業と個人向けである。ここに設備投資資金が加わってくるかが、今後の注目点である。

また、家計・法人・政府・海外など経済主体別に金融資産残高を記録した、日銀の資金循環統計にも変化が生じる可能性がある。資金循環統計では、各経済主体の資産から負債を控除した差額を「資金過不足」として、各主体の資金過剰(貯蓄超過・投資不足)と、資金不足(投資超過・貯蓄不足)を表している[図表2]。
[図表2]部門別資金過不足の推移
今から思い起こすと、企業部門が資金余剰主体に転じた1998年以降、日本経済はおかしくなった。企業は資金を設備投資に回さなくなり、借金をどんどん返す経営を続けて経済不況に陥った。マネーフローが変化することで、今まで良くなかった面が変わることもあるはずだ。企業が活性化することで家計の所得が増加し、税収も増えて財政が改善する。そうした好循環も描くこともできる。

ただ、企業が資金不足になれば、政府の財政赤字も簡単には許容されなくなる。国債を中心としたマネーフローは転換を迎え、金利にも上昇圧力が加わりやすくなる。今後の構造変化には、より大きな注目が集まるだろう。
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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

(2023年10月10日「基礎研マンスリー」)

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