- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 欧米保険事情 >
- アメリカでの新たな年金の普及-第4の年金は、変額年金にとって代わるか?
アメリカでの新たな年金の普及-第4の年金は、変額年金にとって代わるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
運用成果がプラスの場合、契約者価格への反映方式として、キャップ方式、組入割合方式、運用トリガー方式が考えられる。現在販売されているRILAでは、主に、キャップ方式が採用されている。
(1) キャップ方式
フロア方式の反対で、契約者が受け取るリターンに上限を設定するもの。たとえば、10%キャップに対して、運用成果が8%の場合は、キャップに達していないのですべて契約者のリターンとなり、8%の利回りとなる。運用成果が18%の場合は、キャップに達しているため、契約者のリターンは10%分だけとなり、10%の利回りとなる。
(2) 組入割合方式
運用成果の一定割合を契約者のリターンとするもの。運用が好調なほど、契約者のリターンが増える。たとえば、90%の組入割合に対して、運用成果が8%の場合、契約者リターンは7.2%(=8%×90%)となり、7.2%の利回りとなる。
(3) 運用トリガー方式
運用がプラスもしくはゼロである場合、その多寡によらず、契約者は一定率の利回り(パフォーマンス利率)を得るというもの。たとえば、パフォーマンス利率8%の場合、運用成果が10%の場合でも、1%の場合でも、契約者のリターンは8%となり、8%の利回りとなる。
RILAは、保険商品である以上、契約管理や販売管理等の諸費用がかかる。保険会社によっては、その費用を手数料として、契約者リターンから差し引くケースもあるが、大半の会社では手数料をゼロとしている。これは、手数料をゼロとすることで、運用成果と契約者リターンの関係を単純化して、顧客のわかりやすさを高めることを狙ったものとみられる。
なお表向きは手数料をゼロとしていても、保険会社はバッファやフロア、キャップ等の設定において、諸費用を織り込んでいるものと考えられる。たとえば、過去の運用実績からバッファを15%と設定できる場合でも、あえて10%と設定して、差の5%分を諸費用の負担に充てるといった方法である。
5――RILAへの保証特約の付加
1|GLWBの保証内容は高度化する傾向
GLWBはアカウント・バリューの増減に応じて、引出可能額が変化する“アカウント・バリュー給付型”が基本となる。近年は、アカウント・バリューが減少した場合にも、引出可能額が減らない“ステップアップ型”や、引出可能額が切り上がる“ロールアップ型”のGLWBも出現している。一般に、保証の内容が充実すると、保証コストが上昇して、特約の料金(フィー)に反映されることとなる。
2|保険会社はGLWBに関するリスクを負う
保険会社側からすると、保証内容の充実は、さまざまなリスクが高まることにつながる。例えば、保証に係るキャッシュフローを複製するヘッジ等の金融商品が市場で枯渇するリスク。引出給付の設定に伴う負債デュレーションの長期化により、資産と負債でデュレーションのミスマッチが生じるリスク。契約者の解約行動が想定と異なることによる動的解約リスク、などが考えられる。
このため、確率的モデリングを行うなど、複数のシナリオでのシミュレーション計算をして、その結果をもとに、これらのリスクを定量化して、リスク管理を強化することなどが行われている。
6――おわりに (私見)
ただ、RILAは取り扱い保険会社数が増えつつある。GLWBのような変額年金向けの保証特約をRILAに付加することにより、RILAの販売促進を図る動きも出ている。今後、一層、貯蓄性商品としての認知度が高まれば、保険会社にとっての収益・リスクが高まることも考えられる。
今後、RILAに対する市場動向や保険会社の動きが注目される。日本でも、同様の貯蓄性商品の開発について、検討が始まる可能性がある。引き続き、RILAを巡る動きをウォッチしていくこととしたい。
(参考文献)
「投資環境データ」(野村総合研究所)
“U.S. Individual Annuity Yearbook”(LIMRA)
“Annuity Sales Estimate”(LIMRA)
“Intro to Structured Annuities”Andrew Phillips(2019 SOA Annual Meeting, Session 175)
“RILA and VA GMxB U.S. Statutory Reporting Offsets: Implications to Pricing and In-force Management” Nicholas Carbo, Carson Cook, and David Elliott (Product Matters!, SOA, February 2023)
“RILA GLWB Designs and Market Risk Analysis”Matt Heaphy, Nicholas Carbo, and David Elliott
(Product Matters!, SOA, June 2023)
(筆者の過去の稿)
「構造化年金のアメリカでの普及-第4の年金は、どういう特徴を持っているのか?」篠原拓也(基礎研レター, 2020年6月9日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64693?site=nli
(2023年10月03日「保険・年金フォーカス」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/05/27 | 気候指数 2024年データへの更新-日本の気候の極端さは1971年以降の最高水準を大幅に更新 | 篠原 拓也 | 基礎研レポート |
2025/05/20 | 「次元の呪い」への対処-モデルの精度を上げるにはどうしたらよいか? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/05/13 | チェス盤を用いた伝心-愛情と計算力があれば心は通じる? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/05/09 | 国民負担率 24年度45.8%の見込み-高齢化を背景に、欧州諸国との差は徐々に縮小 | 篠原 拓也 | 基礎研マンスリー |
新着記事
-
2025年07月10日
企業物価指数2025年6月~ガソリン補助金の影響などで、国内企業物価は前年比3%を割り込む~ -
2025年07月10日
ドイツの生命保険監督を巡る動向(2)-BaFinの2024年Annual ReportやGDVの公表資料からの抜粋報告(生命保険会社等の監督及び業績等の状況)- -
2025年07月09日
バランスシート調整の日中比較(後編)-不良債権処理で後手に回った日本と先手を打ってきた中国 -
2025年07月09日
貸出・マネタリー統計(25年6月)~銀行貸出の伸びが回復、マネタリーベースは前年割れが定着 -
2025年07月09日
景気ウォッチャー調査2025年6月~気温上昇で夏物商材の売れ行きが好調、現状判断DIは2ヵ月連続の上昇~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【アメリカでの新たな年金の普及-第4の年金は、変額年金にとって代わるか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
アメリカでの新たな年金の普及-第4の年金は、変額年金にとって代わるか?のレポート Topへ