2023年10月03日

アメリカでの新たな年金の普及-第4の年金は、変額年金にとって代わるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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4運用好調時に契約者に付与する利回りは、キャップ方式が多い
運用成果がプラスの場合、契約者価格への反映方式として、キャップ方式、組入割合方式、運用トリガー方式が考えられる。現在販売されているRILAでは、主に、キャップ方式が採用されている。

(1) キャップ方式
フロア方式の反対で、契約者が受け取るリターンに上限を設定するもの。たとえば、10%キャップに対して、運用成果が8%の場合は、キャップに達していないのですべて契約者のリターンとなり、8%の利回りとなる。運用成果が18%の場合は、キャップに達しているため、契約者のリターンは10%分だけとなり、10%の利回りとなる。

(2) 組入割合方式
運用成果の一定割合を契約者のリターンとするもの。運用が好調なほど、契約者のリターンが増える。たとえば、90%の組入割合に対して、運用成果が8%の場合、契約者リターンは7.2%(=8%×90%)となり、7.2%の利回りとなる。

(3) 運用トリガー方式
運用がプラスもしくはゼロである場合、その多寡によらず、契約者は一定率の利回り(パフォーマンス利率)を得るというもの。たとえば、パフォーマンス利率8%の場合、運用成果が10%の場合でも、1%の場合でも、契約者のリターンは8%となり、8%の利回りとなる。
5手数料をゼロとして、運用成果が契約者のリターンにダイレクトに反映する仕組みの商品が多い
RILAは、保険商品である以上、契約管理や販売管理等の諸費用がかかる。保険会社によっては、その費用を手数料として、契約者リターンから差し引くケースもあるが、大半の会社では手数料をゼロとしている。これは、手数料をゼロとすることで、運用成果と契約者リターンの関係を単純化して、顧客のわかりやすさを高めることを狙ったものとみられる。

なお表向きは手数料をゼロとしていても、保険会社はバッファやフロア、キャップ等の設定において、諸費用を織り込んでいるものと考えられる。たとえば、過去の運用実績からバッファを15%と設定できる場合でも、あえて10%と設定して、差の5%分を諸費用の負担に充てるといった方法である。

5――RILAへの保証特約の付加

5――RILAへの保証特約の付加

変額年金では、運用で損失が生じて資産(アカウント・バリュー)が減ってしまった場合でも、終身に渡り、引き出しを保証する終身引出額保証特約(Guaranteed Lifetime Withdrawal Benefit, GLWB)が付加される場合がある。2018年より、このGLWBをRILAに付加して、RILAの販売促進を図る動きが出ている。

1GLWBの保証内容は高度化する傾向
GLWBはアカウント・バリューの増減に応じて、引出可能額が変化する“アカウント・バリュー給付型”が基本となる。近年は、アカウント・バリューが減少した場合にも、引出可能額が減らない“ステップアップ型”や、引出可能額が切り上がる“ロールアップ型”のGLWBも出現している。一般に、保証の内容が充実すると、保証コストが上昇して、特約の料金(フィー)に反映されることとなる。

2保険会社はGLWBに関するリスクを負う
保険会社側からすると、保証内容の充実は、さまざまなリスクが高まることにつながる。例えば、保証に係るキャッシュフローを複製するヘッジ等の金融商品が市場で枯渇するリスク。引出給付の設定に伴う負債デュレーションの長期化により、資産と負債でデュレーションのミスマッチが生じるリスク。契約者の解約行動が想定と異なることによる動的解約リスク、などが考えられる。

このため、確率的モデリングを行うなど、複数のシナリオでのシミュレーション計算をして、その結果をもとに、これらのリスクを定量化して、リスク管理を強化することなどが行われている。

6――おわりに (私見)

6――おわりに (私見)

アメリカではRILAが、2010年の発売以来初めてとなる大きな金利上昇局面を迎えた。図表2で見たとおり、これまでのところ、金利上昇の影響は、変額年金から定額年金へのシフトという形で表れている。RILAの販売が急増する動きにはつながっていない。

ただ、RILAは取り扱い保険会社数が増えつつある。GLWBのような変額年金向けの保証特約をRILAに付加することにより、RILAの販売促進を図る動きも出ている。今後、一層、貯蓄性商品としての認知度が高まれば、保険会社にとっての収益・リスクが高まることも考えられる。

今後、RILAに対する市場動向や保険会社の動きが注目される。日本でも、同様の貯蓄性商品の開発について、検討が始まる可能性がある。引き続き、RILAを巡る動きをウォッチしていくこととしたい。

(参考文献)
 
「投資環境データ」(野村総合研究所)
 
“U.S. Individual Annuity Yearbook”(LIMRA)
 
“Annuity Sales Estimate”(LIMRA)
 
“Intro to Structured Annuities”Andrew Phillips(2019 SOA Annual Meeting, Session 175)
 
“RILA and VA GMxB U.S. Statutory Reporting Offsets: Implications to Pricing and In-force Management” Nicholas Carbo, Carson Cook, and David Elliott (Product Matters!, SOA, February 2023)
 
“RILA GLWB Designs and Market Risk Analysis”Matt Heaphy, Nicholas Carbo, and David Elliott
(Product Matters!, SOA, June 2023)

 
 
 
(筆者の過去の稿)
 
「構造化年金のアメリカでの普及-第4の年金は、どういう特徴を持っているのか?」篠原拓也(基礎研レター, 2020年6月9日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64693?site=nli
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2023年10月03日「保険・年金フォーカス」)

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