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アメリカでの新たな年金の普及-第4の年金は、変額年金にとって代わるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
そのような中で、2010年に登場した新たな年金であるRILA(Registered Index-Linked Annuity, 登録指数連動型年金)が、年々販売量を伸ばしている。伝統的年金としての定額年金、指数連動型年金、変額年金に対して、RILAは、第4の年金と呼ばれるまでに存在感を高めつつある。
本稿では、この新たな年金を中心に、アメリカの個人年金について見ていくこととしたい。その動向は、日本の貯蓄性商品市場でも参考になることが期待される。
2――アメリカにおける年金販売
1|アメリカでは2022年に金利が上昇
一般に、アメリカの金利推移をみる際、代表的なものは財務省証券金利やフェデラルファンドレート(FFレート)とされる。フェデラルファンドは、連邦準備銀行に預金を持つ金融機関の間で資金融通を行う市場で、無担保コール市場だ。そこで形成される金利がFFレートとなる。アメリカの金融政策の方針を決める連邦公開市場委員会(FOMC)は、政策金利として、FFレートの誘導目標を示している。
最近の2年・5年・10年の財務省証券金利と、FFレートの誘導目標の推移をみると、2022年に急ピッチで上昇してきたことがわかる。その背景には、インフレ対策があった。2023年に入り、インフレの勢いがやや弱まったこともあり、政策金利の引上げペースも緩んでいる。現在は、物価の落ち着きとともに、政策金利引上げの打ち止めが見通される局面となっている。
アメリカでは、変額年金の販売が2000年代に拡大した。しかし、2010年代以降は減少傾向にある。2022年以降は販売量がさらに減少した。
一方、定額年金の販売はほぼ横ばいで推移していたが、2022年には急増した。2023年も前年を上回る勢いで販売が進んでいる。それとともに、指数連動型年金の販売も伸びている。
2022年以降、RILAの販売も増加傾向にある。アメリカでは、変額年金からRILAへ販売がシフトしつつあると言え、2023年には両者の販売量は拮抗するものと予測される。将来的には、貯蓄性の変額商品として、RILAは変額年金にとって代わる可能性があるものと見られる。
3――RILAの特性
1|第4の年金の呼び方は定まっていない
実は、第4の年金RILAには、保険会社によって、いくつかの呼び方がある。RILAの他に、「構造化年金(Structured Annuity)」、「指数連動型変額年金(Indexed Variable Annuity)」、「バッファ年金(Buffer Annuity)」といった呼び方である。いずれも、同じ年金商品を意味している。本稿では、LIMRAの統計等で一般的に用いられている、RILAと呼ぶことにする1。
1 「構造化年金のアメリカでの普及-第4の年金は、どういう特徴を持っているのか?」篠原拓也(基礎研レター, 2020年6月9日)では、タイトルにもある通り、「構造化年金」としているが、本稿では、名称として、RILAを用いることとする。
伝統的年金に対して、RILAは、リスク・リターン特性でどのような位置にあるのか? それを簡単にまとめたのが、つぎの表だ。契約者のリターンが何に基づくか、という点では、指数連動型年金と同様、あらかじめ定められた株価等の指数に基づくことが一般的だ。ただし、指数が上昇した時に契約者が受け取るリターンは、変額年金のようなフルリターンではないが、指数連動型年金よりも大きくなりうる。逆に、指数が下落したときのリスクとして、指数連動型年金のような元本保証はないため元本割れとなることもあるが、変額年金のようにすべてのリスクを契約者が負うわけではない。
RILAは、顧客のリスクを限定的な水準にとどめながら、リターンを増加させる、ミドルリスク・ミドルリターンの商品と位置づけられる。
そして、RILA(赤色)は、指数連動型年金の元本保証と上限に変更を加えたものとなる。RILAが、変額年金と指数連動型年金の間のリスク・リターン特性をもつことがわかる。
4――RILAの細部設定
1|運用成果を判定するまでの期間は、1年や2~3年、6年とするなど商品によりさまざまRILAの運用は、一定期間ごとに運用成果を顧客価格に反映して、これを繰り返していく形式をとる。そこで、運用期間を何年にするか、という問題が出てくる。各社の商品をみると、運用期間1年のタイプを用意しているものが多い。そのうえで、2年、3年、6年などの期間で運用するタイプを提供している保険会社もある。
2|指数は株価指数を用いるものが中心
資産運用の指数として、代表的な株価指数であるS&P 500や、小型株指数のRussell 2000を用いることが一般的となっている2。このほかに、一部の保険会社の商品では、金地金や不動産をベースとした上場投資信託の価格指数を用いるものもみられる3。
2 S&P 500に連動する商品は、多くの保険会社で採用されている。
3 SPDR Gold Shares ETFや、iShares U.S. Real Estate ETFに連動する商品を提供している保険会社もある。
RILAは、運用が不調な場合には、ある程度、そのしわ寄せが契約者にいく仕組みとなっている。契約者保護の方法として、大きくバッファ方式と、フロア方式がある。
(1) バッファ方式
運用成果がマイナスの場合でも、それが一定範囲にとどまる場合は、元本を保証する。一定範囲を超えるマイナスの場合は、一定範囲だけ会社が保証し、超過分は契約者が負担する。
たとえば、10%バッファに対して、運用成果が-8%の場合は、元本保証されるため契約者負担はない。一方、運用成果が-18%の場合は、10%を超過した8%分が契約者負担となり、-8%の利回り(資産は92%に目減り)となる。
(2) フロア方式
運用が不調の場合でも契約者の負担が際限なく大きくならないよう、契約者の価格に反映する運用成果の下限を設けるもの。運用成果が下限を下回る場合、契約者のマイナスは、下限までにとどめる。
たとえば、10%フロアに対して、運用成果が-8%の場合は、フロアに達していないのですべて契約者負担となり、-8%の利回り(資産は92%に目減り)となる。運用成果が-18%の場合は、フロアに達しているため、契約者負担は-10%分だけとなり、-10%の利回り(資産は90%に目減り)で済む。
バッファ方式の場合は、10%~30%の範囲内でバッファ水準が設定されることが多い。フロア方式の場合は、10%の範囲内で水準が設けられることが一般的。2010年のRILA登場時はバッファ方式のみであったが、2013年よりフロア方式の導入が始まり、近年は、両方式の導入が拮抗している。
(2023年10月03日「保険・年金フォーカス」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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