コラム
2023年09月20日

ラマスワミ氏に注目-米国共和党の新星となるか-

保険研究部 主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任 磯部 広貴

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1――38歳の実業家が共和党から大統領を目指す

次期大統領選挙が来年11月に予定される中、 8 月 23 日、保守系テレビネットワークのフォックスニュースが共和党の大統領候補者を招いて討論会を開催した。

登壇者8名には支持率に応じて中央から席が割り当てられるところ、中央右に立ったのは38歳1の実業家ラマスワミ氏(Vivek Ramaswamy)であった。フォックスニュースの調査で6月時点は5%に過ぎなかった支持率を11%まで上昇2させ、1位のトランプ前大統領(支持率53%)が欠席の中、2位のデサンティス氏(支持率16%)に次いで中央に陣取った形だ。

政治経験がないことを逆手に取り、「このステージで金をもらっていないのは私だけだ」と既に政治家である他の候補者を挑発する。ときに白い歯を見せて笑いながら、明確かつ理路整然と主張する姿には他の候補者から批判が相次いだ。ペンス氏(前副大統領)から「ルーキー」「トレーニングをしているときではない」、ヘイリー氏(元サウスカロライナ州知事)から「外交3の経験がない」、クリスティ氏(元ニュージャージー州知事)から「Chat GPTのようだ」「素人」と酷評されたのも、それだけ多くの議論に絡んだ証と言えるだろう。

現職バイデン大統領の続投には高齢を不安視する声がある中、対峙するには他の候補者も十分に若い4にも関わらず、若き挑戦者のイメージはすべてラマスワミ氏が持って行ったような印象である。討論会時のグーグル検索数はラマスワミ氏が最多であったと報じられている。
 
1 候補者の年齢はすべて討論会の時点。
2 トランプ前大統領支持者へ次の候補を訊ねる調査では、ラマスワミ氏は3月時点の0%から討論会前には2位となる22%を得た(1位はデサンティス氏の37%)。
3 ヘイリー氏は国連大使を務めた経験あり。
4 デサンティス氏44歳、ヘイリー氏は51歳である。

2――その経歴

ラマスワミ氏とはどのような人物なのか。ネット上には様々な情報5が出ており、この章(経歴)と次章(公約)では特段の注釈なき限り公式サイトに基づくこととしたい。

公式サイトにおけるラマスワミ氏の経歴は概ね以下の通りである。
 

・オハイオ州シンシナティで生まれ育つ。
・高校時代は全米レベルのテニス選手で卒業生総代(首席卒業)。
・ハーバード大学の生物学を最優等で卒業。
・ヘッジファンドで働きながらイェール大学で法学博士に。
・バイオテック企業Riovant Sciencesを立ち上げ、FDA(食品医薬品局)承認の薬5種の開発を統括。
・2022年に資産運用会社Striveを立ち上げ、多くの市民や資産家が同意しない環境や社会問題に資金を使うブラックロックなどと直接競合。
・妻は外科医かつオハイオ州立大学助教授、二人の息子あり。
・オハイオ州コロンバス在住。


前章のテレビ討論会では「40年前、両親が米国に移住したときには金を持っていなかった6」と始め、インドからの移民の子である自らの人生をアメリカンドリームと評した。

メディアの取材7には、自らはヒンズー教徒であるがキリスト教の価値観を共有していると答えている。
 
5 ラマスワミ氏の公式サイトにはTRUTH. Over Mythという自らに関する風説に回答する頁がある。風説の例としては「マスクの義務付けを支持している」「中国でビジネスを行ってきた?」「巨大製薬会社の仲間で、失敗したアルツハイマー治療薬で稼いだ」など。
6 2023.4.3 The Washington Postの記事(https://www.washingtonpost.com/climate-environment/2023/04/03/vivek-ramaswamy-2024-presidential-gop/)によれば、ラマスワミ氏の両親はインドからオハイオ州に移住した。本人が語ったところ、父親は学生ビザで入国しGeneral Electric社の技術者に、母親はグリーンカード(永住資格)で入国し精神科医になった。
7 NewsNationのインタビュー動画Ramaswamy on his Hindu religion: I share ‘same values’ as Christians(https://www.youtube.com/watch?v=lxJeGIOKW8E)など。

3――その公約

公式サイトの中では「アメリカ・ファースト2.0」と称して公約が記載されており、下記5項目となる。
 
<米国民のアイデンティティを復活させる>
<アメリカ経済を解き放つ: 5% を超える GDP 成長を達成する>
<共産主義中国から独立を宣言する>
<管理のための官僚制度を解体する>
<政府と金融市場の武器化に終止符を打つ>
 
これらはさらに25の小項目に分類されており、その中から特徴的と思われるものを下記に概述する。
 

・南の国境を守るためにドローンを含む軍隊を活用する。
・アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)を終了する。
・米国の子供たちを守る:16歳以下への中毒的なソーシャルメディアと未成年者への性転換に関するケアを禁じる。
・石炭を採掘し燃やす: 気候変動カルトを捨て原子力エネルギーへの束縛を解く。
・FRB(中央銀行)はドルを安定させるだけでそれ以上のことはしない。
・中国共産党関係者による米国の土地購入を防止する。
・中国共産党が不正行為をやめるまで米国企業の中国での事業拡大を禁止する。
・教育省、FBI(連邦捜査局)、IRS(内国歳入庁)などの有害な政府機関を閉鎖する(必要に応じてゼロから再構築)。
・トランプ前大統領など政治的に訴追された被告たちを赦免する。


アメリカ・ファーストはトランプ前大統領が使ったスローガンであるが、公式サイトでは「2016年に始まったのではなく1776年に始まった」8「トランプよりもさらに」と記述し、自らの「アメリカ・ファースト2.0」は単なる模倣ではなく進化系だとアピールすることも忘れていない。

 
8 2016年はトランプ前大統領が当選、1776年は米国が独立した年である。

4――今後の展望

ラマスワミ氏が急浮上してきたものの、トランプ前大統領が過半数の支持率で1位を独走しているのが現状である。

ラマスワミ氏は第1章のテレビ討論会でトランプ前大統領を「21世紀で最高の大統領」と持ち上げ、トランプ前大統領が法廷で有罪となっても共和党候補として指名を受けた場合に支持するかとの質問には真っ先に手を挙げた。しかし何らかの事情でトランプ前大統領が出馬を断念したとしても、ラマスワミ氏がその支持層である白人労働者の票を取り込める保証は今のところない。最近は距離を置いているとはいえ、支持率2位のデサンティス氏の政策もトランプ前大統領に近い。有色人種でヒンズー教徒であることも、白人労働者の支持を得るには不利ではないかとみられている。

ラマスワミ氏が共和党から大統領候補に選ばれるまでのハードルはまだ高いと言わざるを得ないし、本人の真の狙いは来年ではなく2028年の大統領選挙だという風説もある。

まず留意すべきは共和党の中でトランプ的発想、国際協調よりも米国第一の考え方が根強く、トランプ前大統領が出馬せずとも次のトランプが出現しうるということである。また、年齢が近いトランプ前大統領がバイデン大統領の高齢不安を突いても迫力に欠ける9ところ、若い候補者であるほど共和党が大統領選挙で勝利する可能性が高いとの見方もある。

ここに政治経験なし、38歳、実業家として華麗な経歴を持つラマスワミ氏が大統領候補として名乗りを上げた。超高性能の異分子が今後の共和党における論戦をどれほど活性化していくか、大統領選挙の動向に、そして米国の政治にどのような影響を与えていくか、日本からも十分注目に値するだろう。その活躍如何では、政治家への世襲批判が叫ばれて久しいわが国において、若者の政治への関心を高める効果も出てくるかもしれない。
 
9 次期大統領となった場合、就任時にバイデン大統領は82歳、トランプ前大統領は78歳。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

保険研究部   主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任

磯部 広貴 (いそべ ひろたか)

研究・専門分野
内外生命保険会社経営・制度(販売チャネルなど)

経歴
  • 【職歴】
    1990年 日本生命保険相互会社に入社。
    通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
    日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
    2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
    資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。

    【加入団体等】
    日本FP協会(CFP)
    生命保険経営学会
    一般社団法人アフリカ協会
    2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版

(2023年09月20日「研究員の眼」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【ラマスワミ氏に注目-米国共和党の新星となるか-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ラマスワミ氏に注目-米国共和党の新星となるか-のレポート Topへ