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ドブス判決と米国の分断-各州が中絶を禁止できる米国になって1年-
保険研究部 主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任 磯部 広貴
1)2022年に米国連邦最高裁はドブス判決を下し、女性の中絶の権利を認めた1973年のロー判決を破棄した。これにより現在、米国では各州が州法によって中絶を禁止することが可能となっている。
2)この問題は概ね以下の経緯をたどってきた。
(1) 英国からのコモン・ロー時代、胎動初覚より前の中絶は広く行われていたとされる。
(2) 中絶の広まりが社会問題化する中、19世紀後半より各州で中絶を禁止する州法が制定された。主導したのはWASPの男性医師であった。
(3) その後、ヤミ中絶の危険性が広く懸念されるようになり、1950年代後半からは合法化運動が展開されていった。
(4) 1973年に米国連邦最高裁はロー判決を下し、中絶の権利を憲法上保障されたものと位置付けた。
(5) これに対し中絶禁止派は、実質的に中絶へのアクセスを阻害する州法制定でロー判決破棄を目指し、また、暴力も含めた過激な社会運動を進めた。中核を担ったのはカトリックや福音派のキリスト教保守派であり、政治勢力化し共和党を支持するようになった。
(6) 約50年間、連邦最高裁の判事構成は基本的に保守化しつつもロー判決を維持してきたが、近年のトランプ大統領による任命を経て保守派6名リベラル派3名となった。
(7) 2022年に米国連邦最高裁はドブス判決によってロー判決を破棄した。中絶の権利は米国の歴史と伝統に根ざしておらず、その可否判断は立法機関に返還するとした。
3)ドブス判決を受け、中絶禁止派はますます勢いに乗り、一方の中絶支持派はバイデン政権をはじめ反転攻勢に出た。来年はドブス判決後初の大統領選挙があり、論戦の中で中絶問題が従前よりも大きな比重を占めることになろう。
■目次
1――はじめに
2――ロー判決以前
1)コモン・ロー 時代と中絶の急増
2)医師主導による中絶への法規制
3)合法化運動の展開
4)中絶禁止法撤廃要求
3――1973年 ロー判決
1)事案と概要
2)実体的デュー・プロセス論
3)3段階基準と医師の責任
4)併合審理されたドウ判決
4――中絶禁止派の反撃
1)主な動き
2)キリスト教保守派の政治勢力化
5――連邦最高裁判事の構成
1)一般的な事情
2)ロー判決以後の推移
6――2022年 ドブス判決
1)事案と概要
2)法廷意見の概要
3)反対意見の指摘
7――ドブス判決から1年
1)各州での攻防
2)医療・社会への影響
3)バイデン大統領のステートメント
8――おわりに
03-3512-1789
- 【職歴】
1990年 日本生命保険相互会社に入社。
通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。
【加入団体等】
日本FP協会(CFP)
生命保険経営学会
一般社団法人アフリカ協会
2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版
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