2023年09月15日

東南アジア経済の見通し~年内は輸出低迷で緩慢な成長が続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1.東南アジア経済の概況と見通し

(図表1)実質GDP成長率 (経済概況:輸出低迷による成長鈍化が継続)
東南アジア5カ国(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム)の経済は成長ペースが鈍化傾向にある。昨年は各種コロナ規制の緩和に伴う経済活動の正常化やインバウンド需要の回復、ペントアップ需要の顕在化により対面型サービス業を中心に回復して、景気は順調に推移したが、10-12月期以降は世界経済の減速や資源価格の下落により輸出の低迷が続いている。インバウンド需要の持続的な回復によるサービス業の雇用改善や政府のインフラ開発、そして足元のインフレ鈍化を受けて内需は底堅さを保っているが、金利上昇が家計や企業を圧迫しており輸出の落ち込みを相殺できず、各国の成長ペースは減速している。

2023年4-6月期の実質GDP成長率(前年同期比)をみると、インドネシア(同+5.3%)とベトナム(同+4.1%)の2カ国はが前期から上昇した一方、フィリピン(同+4.3%)とマレーシア(同+2.9%)、タイ(同+1.8%)の3カ国は前期から低下した(図表1)。コロナ禍前(2019年)の成長率と比べると、インドネシアだけが堅調さを保っているが、その他4カ国は期待外れの結果だった。経済の貿易依存度の高いタイとマレーシア、ベトナムは輸出低迷に苦しんでおり、フィリピンは物価と金利の高止まりにより民間消費の勢いが弱まり、3四半期連続で成長率が低下した。
(図表2)消費者物価上昇率 (物価:当面はエルニーニョ現象による食品価格上昇が上振れリスクに)
東南アジア5カ国の消費者物価上昇率(以下、インフレ率)は昨年後半から今年初にかけてピークをつけた後、鈍化傾向にある(図表2)。昨年はウクライナ危機によりサプライチェーンの混乱が悪化して商品価格が幅広く上昇、また米利上げ開始により東南アジア通貨が減価して輸入インフレが生じたほか、国内では経済活動の正常化が進み需要面からの物価上昇圧力が働いて各国インフレが加速した。しかし、昨年後半からはエネルギー価格の下落や各国中銀の金融引き締め、そして年明けからは国内経済の減速も加わりインフレが鈍化している。

先行きのインフレ率は、当面はエルニーニョ現象による干ばつの影響で食品インフレのリスクが残るが、各国中銀の金融引き締めにより落ち着いた水準で推移するだろう。その後はエネルギー価格の物価押し下げ効果が弱まると共に、サービス価格の上昇が続くなかで再び上向きに転じるものとみられる。来年は輸出の持ち直しや金融緩和により各国経済が回復に向かうなか、緩やかなインフレが続くと予想する。
(図表3)政策金利の見通し (金融政策:利上げ局面は終了、来年は利下げ局面へ)
東南アジア5カ国の金融政策は、昨年コロナ禍からの国内経済の回復とインフレの加速、米国の利上げによる自国通貨安を受けて金融引き締めを開始した(図表3)。直近の金融政策会合では、タイが8月の会合で先行きのインフレ加速を警戒して+0.25%の追加利上げを実施したが、各国中銀は概ね利上げ局面を終了している。ベトナムについては輸出低迷により経済の減速傾向が強まる中、今年3月から4カ月連続で政策金利を引き下げるなど周辺国に先行して金融引き締めに転換している。

先行きは景気下支えのための金融緩和を実施する国が出てくると予想する。足元の各国の景気・物価は鈍化傾向が続いており、年内はべトナムが成長目標の達成に向けて追加利下げを実施するだろうが、その他の国は先行きの食品インフレのリスクを警戒して金融政策を据え置くだろう。来年は米国の利下げ転換を受けて自国通貨の減価圧力が和らぐなか、昨年から積極的に金融引き締めを実施していたインドネシアとフィリピンが景気下支えのために段階的な金融緩和を進めると予想する。
(経済見通し:年内は輸出低迷で緩慢な成長、来年は輸出持ち直しにより回復へ)
東南アジア5カ国の経済は、年内は輸出低迷や金融引き締めの累積効果が景気の押し下げ要因となり昨年と比べて成長ペースが落ちるが、2024年は輸出の持ち直しと内需の堅調な拡大により回復に向かうだろう。

外需は年内はサービス輸出の堅調な拡大が続くものの、外需の鈍化と資源価格の下落により財貨輸出が低迷して成長率の押し下げ要因となるだろう。しかし、足元で半導体市況は底入れしており、2024年は東南アジア各国でも電気・電子機器の輸出が回復に向かうとみられる。サービス輸出はこれまでのような高成長は望めないものの、主に中国人観光客を中心としたインバウンド需要の回復により増加傾向が続くとみられる。
(図表4)実質GDP成長率の見通し 内需は堅調を維持すると予想する。当面は金融引き締めの累積効果が引き続き家計や企業活動を圧迫するため内需を下押しするとみられるが、民間消費は高インフレの沈静化や観光関連産業の持続的な回復に伴う雇用環境の安定により堅調な伸びを維持するだろう。また投資は当面は輸出型製造業の設備投資が停滞して伸び悩むだろうが、政府のインフラ整備計画の加速、そしてサプライチェーンの多様化による東南アジアへの直接投資の流入が下支えとなり底堅さを保つと予想する。そして2024年は輸出関連産業の設備投資が回復するだろう。またベトナムに続いてインドネシアとフィリピンも金融緩和に転じる予想しており、これら3カ国では借入コスト上昇による内需の下押しが次第に和らぐものとみられる。

以上の結果、輸出が低迷する2023年はコロナ禍の反動で高成長だった2022年から成長率が低下する国が多いが、2024年は外需の回復により成長率が上昇すると予想する(図表4)。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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