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人生100年時代のシングル高齢者の不安と備え~未婚女性はポジティブで備えも進み、未婚男性はネガティブで備え不足

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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1――はじめに
1 2020年10~11月、全国の60歳から90歳以上の男女個人を対象に、留置聴取法にて実施。回収サンプルは2,083。本稿の分析では、その中から65歳以上の回答結果を使用した(有効回答数は1,730)。
2――「人生100年時代」への意識
世界的ベストセラーになったリンダ・グラットン氏らの著書『LIFE SHIFT』で「人生100年時代」の到来が指摘されてから、国内でも長寿化への認識が高まったが、現在の高齢者たちは、実際には何歳まで生きたいと願っているのだろうか。その意識を性・配偶関係別に分析したものが図表1である。
全体では、「80歳代」と「90歳代」が大部分を占めており、現在の日本人の平均寿命(令和4年「簡易生命表」によると男性81.05歳、女性87.09歳)と同程度か、それを超える寿命を希望している高齢者が多いといえる。ただし、性・配偶関係によって差があり、「未婚男性」では平均寿命より短い「70歳代」と回答した割合が全ての性・配偶関係の中で最も大きく(14.7%)、逆に、平均寿命を超える90歳以上と回答した人(「90歳代」と「100歳以上」の合計)の割合が最も小さい(17.6%)など、長寿への願望が相対的に弱い傾向が見られた。これに対し、「未婚女性」は、90歳以上と回答した人が唯一、過半数に達し、長寿への願望が相対的に強い傾向が見られた。90歳以上との回答が次いで多かったのは、「配偶者あり女性」だった(47.1%)。男性の中で、90歳以上との回答がいちばん多かったのは、配偶者ありだった(38.8%)。
これまでの筆者のレポートでは、未婚男性は、高齢者のすべての属性の中で、年金収入0円層が最も多いなど、経済状態が厳しいこと、逆に未婚女性は、女性の中では正社員比率が高いなど経済基盤が安定し、1日の歩行時間が最も長いなどアクティブであることを説明してきた。このような経済状態や社会参加状況が、「何歳まで生きたいか」という本人のポジティブさを測るような問いに対しても、影響していると考えられる。
ところで、孫やひ孫がいる既婚の高齢者が、その成長を見ることを楽しみにしているため、読者の中には、有配偶の方が、長寿への願望が強いのではないかと予想していた人もいるかもしれないが、分析結果はそれとは違った。高齢者だからと言って、生きがいは「孫・ひ孫」だけに限らず、本人のライフスタイルに合った様々な楽しみや喜び、人生のハリがあり、それが長生きへの意欲につながっているということだろう。
(1)主観的健康観
1|では、長寿への希望が、前稿までに報告した経済状況や生活状況と一定、関連している可能性があることを指摘したが、本人の健康状態とも関連しているかどうかをみるために、ここで、高齢者の主観的健康観と客観的健康状態について、性・配偶関係別に確認する。
まず、「あなたの今日の健康状態はいかがですか」という問いに対する本人の見方を答える主観的健康観からみていきたい(図表4)。性・配偶関係別にみると、「よい」と「まあよい」を合わせた「良好層」の割合が最も大きいのは、「配偶者あり女性」で、合わせて半数近く(48.8%)に上った。次に良好層の割合が大きいのは、「配偶者あり男性」(44.2%)だった。また、「あまりよくない」と「よくない」を合わせた「不調層」が最も小さいのも、同じように、配偶者あり女性(12.2%)と配偶者あり男性(14.8%)で、男女いずれも有配偶が、主観的健康観が高いという結果になった。
逆に、不調層の割合が最も大きいのは「未婚男性」(23.5%)で、唯一、2割を超えた。良好層の割合が最も小さいのも、やはり「未婚男性」(29.4%)だった。
主観的健康観については、高い人ほど生存率が高いことを示す先行研究もあるが、あくまで本人の意識であるため、必ずしも有病率や医学的な健康状態と一致しているわけではない。本人の体調や血圧、通院や服薬の状況といった医療面だけではなく、食欲や睡眠といった日常生活の健全さとの関連を示す報告もある2。とすれば、主観的健康観が相対的に高い有配偶であることが、食事や睡眠といった生活リズムのプラス効果につながっている可能性がある。
2 村松容子2019「『健康状態がよい』と思うのは、どのようなとき?~判断の理由に関する自由記述回答のテキスト分析」基礎研レポート)。
次に、客観的健康状態についてみていきたい。客観的健康状態の判定に当たっては、筆者の基礎研レポート「健康状態に差支えがあっても週1回以上運転する高齢者は推計約300万人~免許保有している/していた高齢者の約2割は運転を引退済」でも詳しく説明したように、「バスや電車を使って一人で外出できますか」、「日用品の買い物ができますか」、「請求書の支払いができますか」など、様々な日常生活機能を測ることで、IADL(手段的日常生活動作能力)等を評価する方法を用いている。文化センターの調査では、具体的な15の設問に対する「いいえ」の数によって、高齢者の客観的健康状態を「差し支えなし」、「ほんの少し差し支えあり」、「差し支えあり」、「大いに差し支えあり」の4段階に分けており、本稿でも踏襲する。
図表5が性・配偶関係別の分析結果である。性別に比較すると、女性全体は男性全体に比べて「差支えなし」の割合が10ポイント以上大きいなど、女性の方が、客観的健康状態が良好だった。さらに配偶関係別に細かくみると、「未婚女性」は「差支えなし」が6割を占め、すべての属性の中で最も良好だった。「配偶者あり女性」も、「差支えなし」が過半数を占めて良好だった。1|で述べたように、未婚女性は歩行時間がすべての属性の中で最も長く、身体をよく動かしていることが分かっており、客観的健康状態もそれに合致する結果となった。
逆に、客観的健康状態が悪い方を見てみると、「差支えあり」と「大いに差支えあり」の合計が最も大きいのは、離別・死別男性(33.3%)で、未婚女性に比べると、実に3倍以上だった。「差支えあり」と「大いに差支えあり」の合計が次に大きいのは、離別・死別女性(26.6%)で、全体の3割弱を占めた。また、「差支えなし」が最も小さいのは離別・死別男性(23/8%)、次が未婚男性(29.4%)で、いずれも男性全体より5ポイント以上低かった。
主観的健康観と客観的健康状態を比べてみると、傾向は必ずしも一致していない。例えば、「未婚男性」は、主観的健康観は最も悪かったが、客観的健康状態は最悪ではない。「未婚女性」は、客観的健康状態は最も良いパフォーマンスを示しているのに、主観的健康観は、特段優れているわけではない。
話を長寿との関連にまで戻すと、長寿への意識と、主観的健康観、客観的健康状態とは、傾向が一致する点もあった。例えば、最も長寿への希望が薄い「未婚男性」は、主観的健康観は最も悪く、客観的健康状態も男性全体に比べると悪い。最も長寿への希望が高い「未婚女性」は、客観的健康状態は最も良好だが、主観的健康観は目立って良好という訳ではない。
前稿までの分析も含めて大雑把に言うと、未婚男性は、社会参加や長生きへの意識は最も消極的で、健康状態も悪く、未婚女性は、社会参加や長生きへの意識はポジティブだが、自身の健康状態についてはやや悲観的な側面があるようだ。
(2023年09月05日「基礎研レポート」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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