2023年09月01日

米個人所得・消費支出(23年7月)-個人消費(前月比)は名目、実質ともに23年1月以来の高い伸び

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:個人所得は市場予想を下回る一方、個人消費は市場予想を上回る

8月31日、米商務省の経済分析局(BEA)は7月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比+0.2%(前月:+0.3%)と前月、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.3%を小幅に下回った(図表1)。個人消費支出は前月比+0.8%(前月改定値:+0.6%)と+0.5%から小幅上方修正された前月、市場予想の+0.7%を上回り、23年1月以来の伸びとなった。価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)は+0.6%(前月:+0.4%)と前月、市場予想の+0.5%を上回り、こちらも23年1月以来の伸びとなった(図表5)。貯蓄率1は3.5%(前月:4.3%)と前月から▲0.8%ポイントの大幅な低下となった。

価格指数は、総合指数が前月比+0.2%(前月:+0.2%)と前月、市場予想(+0.2%)に一致した。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数も前月比+0.2%(前月:+0.2%)と前月、市場予想(+0.2%)に一致した(図表6)。前年同月比は総合指数が+3.3%(前月:+3.0%)と前月を上回った一方、市場予想(+3.3%)に一致した。コア指数は+4.2%(前月:+4.1%)とこちらも前月を上回った一方、市場予想(+4.2%)に一致した(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:堅調な個人消費が持続した一方、貯蓄率は大幅に低下

(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 個人消費(前月比)は7月が+0.8%と堅調となった前月の+0.6%からさらに伸びた加速した(図表1)。足元2ヵ月はこれまで好調を維持してきたサービス消費に加えて財消費も堅調な伸びを示した(後掲図表4)。

個人所得(前月比)は7月が+0.2%と前月を下回った。労働需給の逼迫を背景にした賃金・給与の堅調な伸びは続いているものの、移転所得の減少が個人所得の伸びを鈍化させた。これらの結果、貯蓄率は7月が3.5%と22年11月以来の水準に急低下しており、7月は所得対比で個人消費が非常に強かったことが分かる。

一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数は、前月比で総合指数と物価の基調を示すコア指数ともに7月は前月並みの小幅な伸びに留まっており、物価上昇圧力が緩和してきていることを確認した。もっとも、前年同月比では総合指数、コア指数ともに22年6月が大幅な伸びとなった反動もあり、7月は前月を上回ったほか、コア指数は+4.2%とFRBの物価目標(2%)を大幅に上回る状況が続いており、インフレ抑制のためのFRBによる金融引締め政策が長期化するとの見通しを変更するものではない。

3.所得動向:賃金・給与は堅調を維持

7月の個人所得(前月比)は労働需給の逼迫を背景に賃金・給与が+0.4%(前月:+0.6%)と前月から鈍化も堅調な伸びが持続した(図表2)。また、自営業者所得が+0.5%(前月:+0.4%)と前月から伸びが加速したほか、利息配当収入が横這い(前月:▲0.3%)となり、小幅ながらプラスに転じた。一方、移転所得は▲0.6%(前月:▲0.3%)と2ヵ月連続のマイナスとなったほか、マイナス幅が拡大した。

個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、7月の名目が横這い(前月:+0.2%)と前月から伸びが鈍化した(図表3)。一方、価格変動の影響を除いた実質ベース(前月比)は▲0.2%(前月:横這い)と22年6月以来のマイナスとなった。
(図表2)名目個人所得(前月比寄与度)/(図表3)可処分所得(名目、実質)

4.消費動向:財、サービスともに前月から伸びが加速

7月の名目個人消費(前月比)は、財消費が+0.7%(前月:+0.6%)、サービス消費が+0.8%(前月:+0.6%)といずれも前月から伸びが加速した(図表4)。

財消費は、耐久財が+0.7%(前月:+0.8%)と前月から小幅に伸びが鈍化した一方、非耐久財が+0.7%(前月:+0.5%)と前月から伸びが加速した。

耐久財では、娯楽財・スポーツカーが+1.4%(前月:+0.8%)と前月から伸びが加速したほか、家具・家電が+0.9%(前月:+0.9%)と前月並みの堅調な伸びを維持した。一方、自動車・自動車部品が▲横這い(前月:+0.7%)と小幅ながら前月からマイナスに転じた。

非耐久財では、ガソリン・エネルギーが▲1.4%(前月:+2.8%)と前月からマイナスに転じた一方、食料・飲料が+0.8%(前月:+0.1%)、衣料・靴が+1.5%(前月:+0.3%)と前月から伸びが加速して非耐久財消費を押し上げた。

サービス消費は、娯楽サービスが+0.3%(前月:+2.0%)と前月から伸びが大幅に鈍化した一方、輸送サービスが+1.5%(前月:▲0.8%)と前月からプラスに転じた。さらに、住宅・公共料金が+0.9%(前月:+0.7%)、医療サービスが+0.4%(前月:+0.2%)、外食・宿泊が+1.2%(前月:+0.6%)、金融サービスが+2.7%(前月:+1.9%)と前月から伸びが加速してサービス消費を押し上げた。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)個人消費支出(名目、実質)

5.価格指数:エネルギー価格が前年同月比で5ヵ月連続のマイナス

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が+0.1%(前月:+0.6%)と2ヵ月連続でプラスとなったものの、前月からプラス幅が縮小した(図表6)。一方、食料品価格指数は+0.2%(前月:▲0.1%)とこちらは前月からプラスに転じた。

前年同月比は、エネルギー価格指数が▲14.6%(前月:▲18.9%)と5ヵ月連続のマイナスとなったものの、前月からマイナス幅が縮小した(図表7)。食料品価格指数は+3.5%(前月:+4.6%)とこちらは73ヵ月連続のプラスとなったものの、前月から伸びは鈍化した。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年09月01日「経済・金融フラッシュ」)

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