2023年08月29日

男性の育休取得の現状-「産後パパ育休」の2022年は17.13%、今後の課題は代替要員の確保や質の向上

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~2021年10月の「産後パパ育休」創設や育児・介護休業法改正の効果は?

昨年10月に「出生時育児休業制度(産後パパ育休)」が創設された。近年、働き方改革が進められる中で男性の育休取得も促進されてきたが、この制度によって更なる向上が期待される。

なお、「産後パパ育休」は、男性が従来の育休に加えて新たに取得可能となったもので、子の出生後8週間以内に4週間まで2回に分割して取得可能だ(図表1)。希望者は2週間前までに申し出ればよく(従来制度は1ヵ月前)、休業中も一定の範囲で就業可能であるなど柔軟な仕組みとなっている。また、同じ時期に従来の育児休業制度も改正され、育休を2回に分割可能となった。よって、男性は子が1歳になるまで最大4回に分けて育休を取得できるようになり、妻の入退院時や復職時に家庭を支えやすいように制度環境が整えられている。なお、事業主には対象者への周知義務が、従業員数が1,000名以上の企業には育休取得状況等の公表義務(年に1回)が課されている。

このような中、本稿では、厚生労働省「雇用均等調査」等を用いて、民間企業勤務の男性の育休取得状況について、産業や事業所規模の違いに注目しながら捉えていく。
図表1 男性の育児休業に関わる「育児・介護休業法」の主な改正点(2022年)

2――育休取得率

2――育休取得率~2022年の男性の育休取得率は17.13%、引き続き「金融・保険」が首位で37.28%

1全体の状況~「産後パパ育休」創設の2022年の男性の育休取得率は17.13%で過去最高
民間企業勤務の男性の育児休業取得率は、8割を超える女性と比べれば格段の差はあるが、10年連続で上昇しており、2022年は過去最高の17.13%にのぼる(図表2)。
図表2 育児休業取得率(民間企業) なお、2019年以前は男性の育休取得率の上昇幅は前年比+1%pt前後にとどまっていた。一方で新型コロナ禍が始まった2020年は、+5%ptを超えて大きく上昇している(12.65%、2019年7.48%より+5.17%pt)。この背景には、近年の政府や企業等による男性の育休取得促進に向けた環境整備や継続的な働きかけという土台の上に、コロナ禍でテレワークが浸透することで働き方が変容するとともに、生活や家族を重視する志向が一層高まった影響があるのだろう1

一方、2021年の上昇幅は縮小しているが(13.97%、2020年12.65%より+1.32%pt)、「産後パパ育休」が創設された2022年は比較的大きく上昇している(2021年13.97%より+3.14%pt)。
 
1 内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(令和2年6月)にて、コロナ禍で家族の重要性をより意識するようになった割合は49.9%、就業者で生活を重視するようになった割合は50.0%、子育て世帯で家事・育児との向き合い方に変化のあった割合は男性55.9%(未就園児あり67.2%)、女性65.7%(同67.7%)。
2|産業別の状況~男性は「金融、保険」が首位で37.28%、「医療,福祉」や「情報通信」は男女とも上位
(1) 男性の状況
産業別に2022年の男性の育休取得率を見ると、首位は圧倒的に「金融業,保険業」(37.28%、2021年40.64%より▲3.36%pt)であり、全産業平均の2倍を超える(図表3・4)。次いで、2位「医療,福祉」(25.99%、同13.24%で+12.75%pt)、3位「生活関連サービス業,娯楽業」(25.53%、同11.34%で+14.19%pt)、4位「情報通信業」(24.58%、同19.11%で+5.47%pt)、5位「学術研究,専門・技術サービス業」(23.38%、同16.33%で+7.05%pt)までが2割を超えて続く。

一方、男性の育休取得率が低い(全産業平均を5%以上、下回る)のは「卸売業,小売業」(8.42%、同5.81%で+2.61%pt)や「宿泊業,飲食サービス業」(9.06%、同8.30%で+0.76%pt)、「サービス業(他に分類されないもの)2」(11.36%、同24.45%で▲13.09%pt)である。
図表3 産業別・男女別に見た育児休業取得率(民間企業、2022年)
図表4 産業別・男女別に見た2022年の育児休業取得率(%)の順位および2021年と比べた変化(民間企業)
また、前年と比べると、16業種中13業種で男性の育休取得率は上昇している。特に2022年で上位を占める「生活関連サービス業,娯楽業」や「医療,福祉」では1割以上上昇し、前年の約2倍にのぼる(値は前述)。また、「教育,学習支援業」(19.30%、2021年13.47%より+5.83%pt)でも比較的大きく上昇している。一方、「サービス業(他に分類されないもの)」では1割以上低下し、前年の半分に満たなくなっている(値は前述)。

なお、男性の産業別の就業者比率を見ると、育休取得率が首位の「金融業,保険業」は2.2%と僅かであり、上位5位までの合計は22.2%にとどまる(図表5)。一方、男性の産業別就業者比率が2位の「卸売業,小売業」(就業者比率14.9%)の男性の育休取得率は最下位で、就業者比率が3位の「建設業」(同11.8%)では育休取得率は全産業平均を下回り、就業者比率が首位の「製造業」(同18.6%)でも育休取得率は平均をわずかに上回る程度である。つまり、現在のところ、男性の育休取得に積極的な産業では就業者数が多い(規模のインパクトがある)わけではなく、規模のインパクトがある産業では男性の育休取得は必ずしも進んでいないことになる。よって、今後、男性の育休取得を一層、浸透させていくためには規模のインパクトがある産業での積極的な取り組みが求められる。
図表5 産業別・男女別就業者数(2022年)
なお、男性の育休取得率が高い産業では、過去にも述べたが3、(1)ダイバーシティ経営の強化に向けて戦略的に男性の育休取得を促進している企業等が多いこと、(2)育休等の両立支援制度を利用しやすい正規雇用者4が比較的多いこと5、(3)職場に女性が多いために従来から比較的制度環境等が整っている、あるいは利用しやすい雰囲気があること、(4)裁量労働制やフレックスタイム制など柔軟な勤務制度が浸透し、業務における個人の裁量の幅が比較的大きいことなどがあげられる。
 
2 「廃棄物処理業」や「自動車整備業,機械等修理業」、「職業紹介・労働者派遣業」、「政治・経済・文化団体」、「宗教」、
「外国公務」などが含まれる。
3 久我尚子「男性の育休取得の現状~2021年は過去最高の13.97%、過半数は2週間未満だが長期化傾向も」、ニッセイ基礎研レポート(2022/12/14)
4 非正規雇用者も条件を満たせば育休を取得可能だが、女性非正社員が妊娠判明時に退職した理由は「会社に産前・産後休業や育児休業の制度がなかった」(44.4%)が多く、周知徹底が課題である(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 平成30年度厚生労働省委託事業 報告書」)。また、雇用環境が不安定であるために、企業規模や組織風土によって育休取得を申し出にくい状況はあるだろう。
5 総務省「労働力調査(2022年)によると、男性の育児休業取得率上位5位までの産業(「生活関連サービス業,娯楽業」を除く)では、男女とも正規雇用者の割合が高い(全産業平均を+5%以上、上回る)傾向がある。
(2) 女性の状況
同様に2022年の女性の育休取得率を見ると、首位は「不動産業,物品賃貸業」(99.69%、2021年91.50%より+8.19%pt)であり、次いで2位「情報通信業」(93.88%、同97.60%より▲3.72%pt)、3位「運輸業,郵便業」(91.88%、同83.50%より+8.38%pt)、4位「サービス業(他に分類されないもの)」(91.76%、同87.50%より+4.26%pt)までが9割を超えて続く。

一方、女性の育休取得率が低い(全産業平均を5%以上、下回る)のは「宿泊業,飲食サービス業」(59.89%、同63.70%で▲3.81%pt)や「生活関連サービス業,娯楽業」(69.00%、同77.90%で▲8.90%pt)、「卸売業,小売業」(71.53%、同83.20%で▲11.67%pt)である。

また、前年と比べると、16業種中12業種で女性の育休取得率は低下している。特に2022年で取得率が全産業平均を下回って比較的低い「建設業」(75.81%、2021年%より▲14.09%pt)や「卸売業,小売業」(71.53%、2021年%より▲11.67%pt)では1割以上低下している。一方、取得率上位を占める「運輸業,郵便業」や「不動産業,物品賃貸業」では約1割上昇し、「サービス業(他に分類されないもの)」でもやや上昇している(いずれも値は前述)。
(3) 男女の比較
男女の育休取得率の産業別順位を比べると、男女とも上位にあがるのは「医療,福祉」(男性2位、女性5位)や「情報通信業」(男性4位、女性2位)、「学術研究,専門・技術サービス業」(男性5位、女性6位)であり、これらは仕事と家庭の両立環境の整備を図る企業が増えている産業と見られる。

一方、「不動産業,物品賃貸業」(男性12位、女性1位)や「電気・ガス・熱供給・水道業」(男性13位、女性7位)、「サービス業(他に分類されないもの)」(男性14位、女性4位)、「金融業,保険業」(男性1位、女性11位)など男女の傾向が一致しない産業もある。

これらのうち「金融業,保険業」は、昨年に続き、男性の育休取得率が首位であり、男女の育休取得率の差(男性が女性より▲43.46%pt)が他産業と比べて小さいため(全産業平均では男性が女性より▲63.03%pt)、前述の「(1)戦略的な男性の育休取得の促進」による影響と見られる。

一方、「不動産業,物品賃貸業」(男性が女性より▲86.70%pt:16産業中で最も差が大きい)や「サービス業(他に分類されないもの)」(同▲80.40%pt:2番目に差が大きい)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(同▲75.92%pt:3番目に差が大きい)では男女の育休取得率に大きなひらきがあり、男性の育休取得が進まない何らかの要因があると見られる。この要因としては、例えば、業務における男女の役割分担が固定化している組織が多いことなどがあげられる。近年、仕事と家庭の両立環境の整備が進む中で、女性は育休を取得しやすくなっていても、男性は育休取得希望を申し出にくい雰囲気が根強く残っているなど、組織風土に課題がある可能性がある。

また、男女とも育休取得率順位の低い「卸売業,小売業」(男性16位、女性14位)や「宿泊業,飲食サービス業」(男性15位、女性16位)では、従来からパート・アルバイトなどの非正規雇用者が多い傾向がある6。図表1に示した通り、非正規雇用者も「子が1歳6か月までの間に契約満了することが明らかでない」という条件を満たせば育休を取得可能だ。一方で前頁の脚注4に示したように、正規雇用者と比べて育休を取得しにくい雰囲気や周知の徹底に課題がある。また、これらの産業ではコロナ禍の収束が見えて需要が増す中で、人手不足から休業を申し出にくいといった状況もあるだろう。
 
6 総務省「労働力調査(2022年)」によると、非農林業従事者の役員を除く雇用者で非正規雇用者の割合は、全体では男性22.1%、女性53.4%、「宿泊、飲食サービス業」では男性57.3%、女性85.34%。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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