2023年08月29日

シングル高齢者の住宅と生活~未婚女性の6割は1日60分以上歩くアクティブ層、未婚男性と離別・死別男女の1割弱は殆ど歩かない不活発層

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

前稿では、65歳以上で配偶者がいないシングルの高齢者が国内で増えている状況を説明し、その経済面について分析、整理した。本稿では、シングル高齢者は誰と、どのような住宅に住み、どのような暮らしを送っているのかという、生活面について探るため、前稿同様、公益財団法人「生命保険文化センター」(以下、文化センター)の「ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査」(2020年)の高齢者調査1のデータを用いて、住宅の状況や同居家族、親族との付き合い、社会参加といった側面について分析する。
 
1 2020年10~11月、全国の60歳から90歳以上の男女個人を対象に、留置聴取法にて実施。回収サンプルは2,083。本稿の分析では、その中から65歳以上の回答結果を使用した(有効回答数は1,730)。

2――シングル高齢者の住宅の状況

2――シングル高齢者の住宅の状況

まずは、シングル高齢者の住宅の状況からみていきたい。住宅は、結婚や子の誕生、離婚、子の独立など、ライフイベントがきっかけで住み替えることが多いことから2、配偶関係による差が大きいと予測できる。

まず男性についてみると、配偶関係間で差が目立つのは「賃貸住宅(借家など)」の割合である。「未婚」では全体の4割を占め、「離別・死別」でも2割を超えるが、「配偶者あり」では1割にも満たない。当然だが、年収が減る老後も賃貸料がかかり続けるため、家計の負担が長く続くことになる。

代わりに、戸建てマイホームと言える選択肢「戸建て(自分または配偶者名義、住宅ローン支払い中)」と「戸建て(自分または配偶者名義、住宅居ローン支払いなし)」の合計をみると、「配偶者あり」では8割を超えるのに対し、「未婚」では約5割、「離別・死別」では約6割となっている。未婚でも半数がマイホームを持つのは意外に思えるが、家族がいない人が、わざわざ戸建てを自ら購入するとは考えにくいため、親から相続して自身に名義変更したケースも多いのではないだろうか。

また、いずれの配偶関係でも、「戸建て(自分または配偶者名義、住宅居ローン支払いなし)」が最大になっているが、年金生活になっても、ローンの無い住宅を確保できているから安泰、とは限らない。老化して足腰が弱くなると、手すりをつけるなどのバリアフリー工事が必要になったり、家屋が老朽化すると修繕工事が必要になったりするからである。一般社団法人「住宅リフォーム推進協議会」の調査によると、住宅リフォームに実際にかかった費用(築10年以上)は、一戸建ての場合は約350万円、マンションの場合は約330万円に上るという3。要介護認定を受けていれば、バリアフリー工事には介護保険サービスを利用できる場合もあるが、いずれにせよ、イレギュラーな出費は発生する。

また、「戸建て(両親など配偶者を除く家族名義)」も「未婚」と「離別・死別」では1割弱いた。親名義の実家で、親と同居しているケースなどが考えられるが、名義人である親等が死亡すると、相続などが発生し、そのまま住み続けられるか、転居が必要になった場合、高齢になってから新たに賃貸住宅を確保できるか、という問題が発生する可能性がある。なお、数は少ないが、「その他」の内訳には、兄弟・姉妹と同居しているケースがある。

次に女性をみると、やはり配偶関係間で「賃貸住宅(借家など)」の差が目立つ。「未婚」では2割強、「離別・死別」では2割弱であるのに対し、「配偶者あり」では1割弱である。ただし、男性に比べると、いずれも割合は小さかった。

賃貸住宅の代わりに、シングル女性の方がシングル男性よりも割合が大きかったのが、「戸建て(両親など配偶者を除く家族名義)」である。「未婚」と「死別・離別」では、それぞれ2割弱に上った。上述したような相続等の問題は、シングル女性の方が、より多く発生しそうである。

戸建てマイホームと言える「戸建て(自分または配偶者名義、住宅ローン支払い中)」と「戸建て(自分または配偶者名義、住宅居ローン支払いなし)」の合計は、やはり「配偶者あり」(約8割)ほどではないが、「未婚」(約5割)と「離別・死別」(約6割)でも最多だった。こちらも、親から相続して名義変更したケースが多く含まれるのではないだろうか。
図表1 配偶関係別にみたシングル高齢者の住宅の状況<男性>
図表1 配偶関係別にみたシングル高齢者の住宅の状況<女性>
 
2 渡邊布味子(2021)「2020 年のマンション市場と今後の動向 コロナ禍で高まる需要、今マンションは買うべきなのか」(基礎研レポート)
3 一般社団法人「住宅リフォーム推進協議会」(2022)「住宅リフォームに関する消費者(検討者・実施者)実態調査結果報告書」。

3――シングル高齢者は誰と暮らしているのか

3――シングル高齢者は誰と暮らしているのか

2でも少し触れたように、シングルでも親元で暮らしているというケースもある。同居している家族がいるかどうかによって、日々の暮らしは大きく変わってくるため、次に、配偶関係別に家族構成について分析した(図表2)。

まず男性からみていきたい。やはりシングルでは「独居」が大部分を占めた。「未婚」では8割弱、「離別・死別」では約6割である。独居ではないシングル男性は誰と暮らしているのかというと、「未婚」では兄弟姉妹というパターンが約2割いた。親との同居も1割弱あった。「離別・死別」の場合は子、あるいは子+孫、というケースがそれぞれ1~2割いる。

次に女性についてみてみると、まず、独居の割合は男性よりも小さい。「未婚」で7割弱、「離別・死別」で約5割となっており、それぞれ、同じ配偶関係の男性よりも、10ポイント以上低い。独居ではないシングル女性が誰と暮らしているのかというと、「未婚」の約2割は兄弟姉妹と同居、1割弱は親と同居していた。「離別・死別」の場合は子、あるいは子+孫、というケースがどちらも約2割いる。また、男性の「離別・死別」に比べると、子+孫で同居する三世帯がやや多いようだ。

このように、シングル高齢者の家族形態は、配偶関係によって差が大きく、当然ではあるが、「未婚」が独居の割合が一番大きい(「独居」は「未婚」で7~8割、「離別・死別」で5~6割)。独居について、同じ配偶関係同士の男女を比べると、男性の方が女性よりも割合が大きい。

ところで、シングルで独居の高齢者となると、孤立・孤独や閉じこもりのリスクが発生する。特にコロナ禍では、高齢者全体で、孤立・孤独不安を抱える人が発生し、閉じこもりが増えた4。特にシングルで独居の高齢者については、現在の健康状態への注意が必要であろう。
図表2 配偶関係別にみたシングル高齢者の家族構成
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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