2023年08月17日

日本の少子化の原因と最近の財源に関する議論について

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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6月13日に「こども未来戦略方針」を閣議決定

政府は少子化の問題を改善するために、児童手当の拡充等「お金」の面で子育てを支える制度を次々と打ち出している。2023年1月からは「出産・子育て応援給付金」を施行し、妊娠期に「出産応援金」として5万円分、出生後にお子さま1人あたり「子育て応援金」として5万円分のクーポンを支給している。また、2023年4月からは出産育児一時金を既存の42万円から50万円に引き上げた。

さらに、政府は6月13日、こども・子育て政策の強化に向けた具体策を盛り込んだ「こども未来戦略方針」を閣議決定し、「若者・子育て世代の所得を伸ばさない限り、少子化を反転させることはできない」ことを明確に打ち出した。

政府は、次元の異なる少子化対策の基本理念として、(1)構造的賃上げ等と併せて経済的支援を充実させ、若い世代の所得を増やすこと、(2)社会全体の構造や意識を変えること、(3)全てのこども・子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援することを挙げており、今後抜本的に政策を強化する立場を明らかにした。

特に、全てのこども・子育て世帯を支援する対策の一環として、来年度から児童手当を大幅に拡充することにした。改革の主なポイントは、(1)所得制限の撤廃、(2)支給期間の延長、(3)第3子以降の加算額の拡大だと言える。

現在、児童手当は0~3歳未満は月1万5千円、それ以降は中学生まで月1万円が支給されている。また、第3子以降は「3歳~小学生」は加算され、月1万5千円が支給される。但し、児童を養育する人(夫婦のうち所得が高い方)の所得が一定基準以上になると、児童手当は一律月5千円に減り(特例給付)、養育者の年収が所得上限限度額以上の場合は児童手当が支給されないように所得制限が設けられている。

児童手当の所得制限に関しては、「所得制限を設けること自体が児童手当の制度趣旨に反している」、「世帯主の所得を基準とするのは不公平・不合理である」等の問題点が指摘されてきていた。そこで、「こども未来戦略会議」では「異次元の少子化対策」の一環として、児童手当の所得制限をなくすことにした。また、支給期間も現在の中学生までを高校生(18歳になった年度の3月31日まで)の年代まで延ばした。さらに、第3子以降は「3歳~小学生」は加算され、月1万5千円が支給されているが、この期間を「0歳~高校生」に広げた上で、月3万円に引き上げることにした。

少子化が急速に進んでいる現状を考慮すると、所得の多い子育て世帯にペナルティになる「所得制限」の撤廃は妥当な措置だと考えられる。また、異なる少子化対策の基本理念のように、社会全体の構造・意識を変え、社会全体で子育て世帯を支援する「子育ての社会化」を実現するために努力する必要もある。

少子化対策の財源に対する最近の議論

少子化対策の財源に対する最近の議論

「こども未来戦略会議」では児童手当の拡充等の子育て世帯を支援するための多様な政策を打ち出しているが、それを実現するためには安定的な財源を確保することが大事だ。政府は6月13日に「こども未来戦略方針」(以下、方針)を閣議決定したものの、今回の方針では少子化対策の費用をどう賄うか等の財源の詳細については明記していない。

少子化対策の財源確保案としては「消費税の引き上げ」、「国債の発行」、「社会保険料に上乗せした支援金制度の創設」、「歳出改革」、「事業者が全額負担する子ども・子育て拠出金の増額」等が議論された。

「消費税の引き上げ」については、世論の反発を受けやすいとの意見があり、早々に選択肢から外された。岸田首相は5月22日の記者会見で、少子化対策を巡る予算の財源について「消費税を含めた新たな税負担は考えていない」と言い切り、方針にも「消費税などこども・子育て関連予算充実のための財源確保を目的とした増税は行わない」と明記した。

一方、内閣総理大臣の諮問機関である税制調査会は6月30日に岸田首相に手渡した「わが国税制の現状と課題―令和時代の構造変化と税制のあり方―」で、「日本の社会保障制度においては、社会保険制度が基本であり、それを賄う財源は、原則として社会保険料になりますが、それを補完する財源としては、特定の世代に偏らず幅広い国民が負担を分かち合うことができ、税収の変動が少ない消費税がふさわしいものと言えます。更なる増加が見込まれる社会保障給付を安定的に支える観点からも、消費税が果たす役割は今後とも重要です。」と社会保障給付における消費税の重要性を強調した。報告書では消費税の引き上げについては特に言及していないが、消費税を引き上げて少子化対策の財源にすべきだと主張する専門家等が少なからず存在していることを考慮すると、今後も消費税引き上げやその活用に関する議論は続くと考えられる。

次は「国債の発行」であるが、日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準であることを考慮すると、少子化対策のために国債を追加的に発行することはなかなか厳しい状況である。

このような状況の中で、「社会保険料に上乗せした支援金制度の創設」が有力な財源確保案として浮上した。日本政府は2024年度から「こども・子育て支援加速化プラン」を段階的にスタートする予定であり、児童手当の拡充、育児給付金の引き上げなどを実現するための予算として毎年約3兆円の追加予算が必要だと見込んでいる。「支援金制度」はこの必要な財源の一部を社会保険料に上乗せして、社会全体で子育て費用を負担していこうという考えだ。政府の試算では社会保険料への上乗せ額は国民1人あたり月500円程度になると推計された。

しかしながら「社会保険料への上乗せ」に対して国民は冷たい反応を見せている。日本経済新聞社が5月26~28日に実施した世論調査によると、政府が調整している医療保険料などに上乗せする案について「反対」が69%で「賛成」の23%を大きく上回った。また、専門家や経済界、さらに自民党内でも「社会保険料への上乗せ」について反対する声が出た。

予想以上に反対する人が多いこともあり、「こども未来戦略方針」では、「2028 年度までに徹底した歳出改革等を行い、それらによって得られる公費の節減等の効果及び社会保険負担軽減の効果を活用しながら、実質的に追加負担を生じさせないことを目指す。」と、「社会保険料への上乗せ」については直接的な言及をしていない。しかし、小倉将信内閣府特命担当大臣は7月4日の記者会見で、少子化対策の財源を巡り企業を含めて幅広く負担を求める新たな支援金制度を検討する準備室を設置したと発表した。年末までに結論を出し、来年には法案を提出する方針であり、今後は「社会保険料に上乗せした支援金制度の創設」を中心に少子化対策の財源が議論されていく可能性が高い。

むすびにかえて

むすびにかえて

今後、少子化問題を解決し、出生率を引き上げるためには子育て世帯に対する対策だけではなく、未婚率や晩婚率を改善するための対策により力を入れるべきであり、そのためには何よりも安定的な雇用と賃上げが必要であると考えられる。特に、男女間における賃金格差、出産や育児による経歴断絶、ガラスの天井4など結婚を妨げる問題を改善し、女性がより安心して長く労働市場に参加できる環境を作ることが大事だ。また、若者が結婚して子育てができるように負担が少ない公営住宅や民間の空き家を活用する支援も欠かせない。さらに、多様な家族を認めて社会保障制度の恩恵が受けられる社会をより早く構築する必要があると考えられる。政府、企業、個人が一つになり、少子化の危機を乗り越えていくことを望むところである5
 
4 「ガラスの天井」とは、英語のGlass Ceilingの訳で、組織内で昇進に値する十分な素質や実績をもつ人材が、性別や人種などの要因により昇進を阻まれてしまう不当な状態を意味する。キャリアアップを阻む“見えない天井”になぞらえた比喩表現である。
5 本稿は、金 明中(2023)「日韓比較でみる少子化対策(5)日本でも進む未婚化・晩婚化/子育て世帯への給付拡充(達人が伝授)」『日経ヴェリタス』2023年7月9日と金 明中(2023)「日韓比較でみる少子化対策(6) 財源確保、負担増に反対多く/意識改革や賃上げが重要に(達人が伝授)終」『日経ヴェリタス』2023年7月16日を加筆・修正したものである。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

(2023年08月17日「基礎研レポート」)

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