2023年07月28日

米国消費者は、老後のための資金準備についてどう考えているのか-インフレに対する先行き不安多くが計画的な準備の必要性を認識

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1―はじめに

ACLI(American Council of Life Insurers:米国生命保険協会)では、2023年5月10日から同15日にかけて実施した、45-65歳の被用者(当調査では、これらの人々を退職後に向けて貯蓄に取り組む層として「リタイアメントセーバー」と定義している。)を対象とした老後の資金準備に関する調査結果を2023年5月22日に公表した1

そこでは、退職後に向けて回答者の多くは計画的な資金準備が必要と考えている一方、現在の経済状況の中で、退職後のための資金準備について、多くの人が不安を感じていること、また、年金のような終身にわたり給付が受け取れる商品への加入に関心を持つ人は多いが、実際に加入している人は比較的少ないこと等が示されている。

当レポートでは、当調査におけるデータを中心に、米国消費者の老後のための資金準備に対する意識や状況等について紹介したい。
 
1 2023年5月22日付ACLI「Economic Climate Has Retirement Savers Eyeing Guaranteed Lifetime Income and Financial Planning Options, Morning Consult Survey Finds」、MORNING CONSULT,ACLI「RETIREMENT PLANNING」(MAY 2023)。なお、当調査は、45~65歳の被用者1003名を対象にオンラインで実施された。

2―米国消費者

2―米国消費者は、退職後のための資金計画についてどう考えているのか

当調査によれば、退職後のための資金計画を持つことは、回答者全員に近い95%が「重要」(うち71%が「非常に重要」)と回答している。一方、実際に退職後のための資金計画を立てているのは、回答者のうちの約3分の2(63%)であった。

なお、回答者の3分の2(66%)が、退職後に向けた資金計画は複雑であり、将来は何が起きるかわからないので、多くの選択肢を持つことがベストである、と考えている(図表1)。
【図表1】退職後に向けた計画の複雑さとオプションについて(自分の意見に近いものを選択)

3―米国消費者は、退職後のための貯蓄

3―米国消費者は、退職後のための貯蓄が十分だと考えているのか

当調査によれば、「退職後のための貯蓄が十分であることについて不安を感じるか」との質問に対し、回答者の81%(「とても不安」(43%)、「やや不安」(38%))が、不安を感じている(図表2)。
【図表2】退職後のための貯蓄が十分であることついて不安はあるか
また、上記の不安に対して、最も大きな影響があるのは、「インフレ」(85%)、「高い住居費用」(67%)、「仕事が見つけられるかどうか」(43%)の3つであった。インフレの割合が非常に高くなっており、現在の経済情勢が将来の不安を感じさせる大きな要因となっていることが推察される。

なお、上記の「とても不安」、「やや不安」と回答した人のうち、約半数は、「退職後も(パートタイムでも)仕事が継続できる」(53%)、「退職後も貯蓄ができる」(50%)ことがわかれば安心する、と回答している2

一方、生命保険文化センター「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」(2023(令和5)年3月)によれば、日本の消費者の「老後保障に対する充足感」(現在の備えに公的年金や退職金などをあわせると老後に対する準備は十分だと考えるか。)についての調査結果は、「充足感なし」65.5%(「全く足りない」、「どちらかといえば足りてない」の合計)、「充足感あり」26.2%(「どちらかといえば足りている」、「十分足りている」の合計)、「わからない」8.3%となっている(図表3)。この調査結果からみれば、退職後のための資金準備の十分さに関する意識について、日米消費者とも十分ではないと思っている人が多い点では共通していると考­­えられるが、米国消費者の方がより不安感が高いことが推察される。
【図表3】(参考:日本)老後に対する準備は十分だと考えるか
また、生命保険文化センターによる上記調査には、「老後生活への不安」についての調査結果も取り上げられている。それによると、「不安感あり」が82.2%、「不安感なし」は15.9%となっており、大多数の日本の消費者は、老後生活に対して不安を感じていることが示されている。

なお、不安の内容としては、「公的年金だけでは不十分」が79.4%と最も高く、以下「日常生活に支障が出る」(57.3%)、「自助努力による準備が不足する」(36.3%)、「退職金や企業年金だけでは不十分」(31.4%)、「仕事が確保できない」(29.2%)、の順となっている。
 
2 一方、「(退職後の貯蓄が十分であるかについて)不安はない」と回答した人が、不安を感じない理由としては、「退職後の生活は、貯金や資産で賄える自信がある」(60%)、「退職後も、パートタイムでも仕事をするつもりだ」(25%)、「退職後生活費は、社会保障をあてにしている」(21%)等となっている。

4―米国消費者は、年金

4―米国消費者は、年金のような生涯給付が保証されている商品への加入についてどう考えているのか

回答者の約4分の3(73%)の人が、IRA3や401(k)含めた会社が提供している年金とは別に、自分で、年金のような一生涯にわたり給付を保証されている商品に加入することについて、関心を示している(図表4)。
【図表4】生涯給付が保証されている商品への加入についての関心
一方で、そのようなタイプの商品に実際加入している人は、26%に留まっており(図表なし)、現在の経済状況等による不安を背景に、年金タイプ商品への加入ニーズが高いものと推察される。
 
3 IRA(Individual Retirement Account:個人退職勘定)は、1974年、米国のエリサ法により、企業年金制度がない企業の従業員に対し、税制優遇措置により貯蓄を奨励する目的で創設された。その後、企業年金に加入している者も含めて全勤労者に適用範囲が拡大されている。拠出額は所得控除され(年間6000ドルまで。50歳以上は+1000ドル。)、運用収益も給付時まで課税を繰り延べることができる。企業年金制度の加入者は、年間所得水準に応じて上限が段階的に引き下げられる。

5―おわりに

5―おわりに

以上、ACLIが公表したデータを中心に、米国消費者の老後のための資金準備に対する意識や準備状況等について、見てみた。

インフレをはじめとする現在の経済状況等の中、退職後のための資金準備状況について不安を抱えている人も多く、備えるためのニーズが高いことを示しているものと考えられる。
米国においては、現在、個人年金の販売が非常に堅調であり、ここ数年はこの好調が続くことが予想されている4が、今回の調査結果から読み取れる消費者の意向とも整合しているといえよう。

インフレの状況も先行きが不透明な中、米国の生保・年金マーケットの今後の状況については、引き続き注視していきたい。
 
4 米国における個人年金の販売状況については、中期見通しも含め、磯部広貴「定額年金を中心に米国個人年金市場は絶好調」『保険・年金フォーカス』(2023年6月21日)にまとめられている。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2023年07月28日「保険・年金フォーカス」)

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【米国消費者は、老後のための資金準備についてどう考えているのか-インフレに対する先行き不安多くが計画的な準備の必要性を認識】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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