2023年07月10日

米雇用統計(23年6月)-雇用者数が市場予想を下回る伸びに留まった一方、時間当たり賃金は予想を上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を下回った一方、失業率は市場予想に一致

7月7日、米国労働統計局(BLS)は6月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+20.9万人の増加1(前月改定値:+30.6万人)と+33.9万人から下方修正された前月、市場予想の+23.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を下回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.6%(前月:3.7%、市場予想:3.6%)と前月から▲0.1%ポイント低下した一方、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.6%(前月:62.6%、市場予想:62.6%)と前月、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用の伸び鈍化も労働需給の逼迫を背景とした賃金上昇圧力は継続

6月の非農業部門雇用者数は市場予想を下回ったほか、後述するように過去2ヵ月分も合計で▲11.0万人の大幅な下方修正となった。この結果、4-6月期の月間平均増加ペースは+24.4万人増と1-3月期月期の同+31.2万人増からは明確に鈍化したものの、新型コロナ流行前の1年間(19年3月~20年2月)の同+19.0万人は上回っており、依然として堅調な雇用増加が持続していることを確認した。

一方、労働参加率は62.6%で4ヵ月連続横這いとなり、新型コロナ流行前(20年2月)の63.3%を下回っているものの、年齢別では働き盛りの25-54歳の労働参加率が83.5%と02年5月以来の水準となるなど、働き盛りの層では労働供給の順調な回復が続いている。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.4%(前月改定値:+0.4%、市場予想:+0.3%)と+0.3%から上方修正された前月に一致、市場予想を上回った。前年同月比も+4.4%(前月改定値:+4.4%、市場予想:+4.2%)と+4.3%から上方修正された前月に一致、市場予想を上回った(図表1)。このため、6月は前月比、前年同月比ともに時間当たり賃金の伸びの鈍化傾向が一服した。

このようにみると、6月の雇用統計は非農業部門雇用者数の伸びが鈍化したものの、3.6%の低水準となった失業率にみられるよう労働需給の逼迫が続く中、時間当たり賃金が高止まりしていることを確認する結果となった。このため、7月のFOMC会合では政策金利が引上げられる可能性が高まったと言えよう。

3.事業所調査の詳細:広範なサービス部門で雇用の伸びが鈍化

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+12.0万人(前月:+23.6万人)と前月から雇用の伸びは鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、医療・社会扶助サービスが前月比+6.5万人(前月:+6.5万人)と前月並みの伸びを維持した一方、専門・ビジネスサービスが+2.1万人(前月:+6.1万人)、娯楽・宿泊業が+2.1万人(前月:+2.6万人)と前月から伸びが鈍化した。さらに、小売業が▲1.1万人(前月:+2.3万人)、運輸・倉庫が▲0.7万人(前月:+1.7万人)、卸売業が▲0.4万人(前月:+0.4万人)と前月から減少に転じた。

財生産部門は前月比+2.9万人(前月:+2.3万人)と前月から小幅ながら伸びが加速した。建設業が+2.3万人(前月:+2.3万人)と前月並みの伸びを維持したほか、製造業が+0.7万人(前月:▲0.3万人)と増加に転じた。

政府部門は前月比+6.0万人(前月:+4.7万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+0.1万人(前月:+0.3万人)と小幅ながら前月から伸びが鈍化した一方、州・地方政府が+5.9万人(前月:+4.4万人)と伸びが加速して政府部門全体を押し上げた。
前月(5月)と前々月(4月)の雇用増加数(改定値)は前月が+30.6万人(改定前:+33.9万人)と▲3.3万人下方修正されたほか、前々月が+21.7万人(改定前:+29.4万人)と▲7.7万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲11.0万人の大幅な下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って7月6日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+49.7万人(前月改定値:+26.7万人、市場予想:+22.5万人)と+27.8万人から小幅下方修正された前月を大幅に上回ったほか、前月からの低下を見込んだ市場予想も大幅に上回った。この結果、ADP社の統計は前月から伸びが鈍化した雇用統計とは不整合で両者の乖離が大きくなった。

6月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が33.58ドル(前月:33.46ドル)となり、前月から+12セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.3時間)とこちらは前月から+0.1時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,155.15ドル(前月:1,147.68ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は4ヵ月連続横這い

家計調査のうち、6月の労働力人口は前月対比で+13.3万人(前月:+13.0万人)とほぼ前月並みの増加となった。内訳を見ると、就業者数が+27.3万人(前月:▲31.0万人)と前月から大幅な増加に転じた一方、失業者数が▲14.0万人(前月:+44.0万人)と減少に転じた。非労働力人口は+5.0万人(前月:+4.5万人)と3ヵ月連続の増加となった。これらの結果、労働参加率は62.6%と4ヵ月連続で横這いとなった(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率6月が83.5%(前月:83.4%)とこちらは前月から+0.1%ポイント上昇し、02年5月以来およそ21年ぶりの水準に回復した。男女の内訳は、男性が89.2%(前月:89.1%)と前月から+0.1%ポイント上昇したほか、女性が77.8%(前月:77.6%)と+0.2%ポイント上昇した。

失業率は6月が3.6%と1969年以来の低水準を維持しており、引き続き労働需給が逼迫していることを示した(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
6月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は110.5万人(前月:118.8万人)と前月から▲8.3万人の減少となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは18.5%(前月:19.8%)と前月から▲1.3%ポイント低下した(図表7)。平均失業期間は20.7週(前月:21.2週)と前月から▲0.5週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(143.5万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(419.1万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、6月が6.9%(前月:6.7%)と前月から+0.2%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.3%ポイント(前月:+3.0%ポイント)と前月から+0.3%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年07月10日「経済・金融フラッシュ」)

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