2023年07月07日

「著作権に厳しい」ディズニーがキャラクターを積極提供-どんなCSR活動をしているのか

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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6――ケース4「メイク・ア・ウィッシュ®(Make A Wish)」

また、ディズニー社は、このような医療施設以外での支援にも努めてきている。読者の皆さんは「メイク・ア・ウィッシュ(Make A Wish)」というボランティア団体をご存じだろうか。メイク・ア・ウィッシュとは英語で「ねがいごとをする」という意味で、当団体は3歳から18歳未満の難病と闘っている子どもたちの夢をかなえ、生きるちからや病気と闘う勇気を持ってもらうことを目的に1980年にアメリカで設立された。

きっかけは、7歳の男の子の夢を叶えることにあった。米国アリゾナ州に住む、クリス・グレイシアスという7歳の男の子は警察官になるのが夢だったが、白血病にかかり、学校に行くこともできなくなってしまった。この少年の話を聞いた警察官たちは、本物そっくりの制服とヘルメットとバッジを用意し、クリスを名誉警察官に任命した。これら警察官たちの協力により駐車違反の取り締まりや、ヘリコプターで上空からの監視をするなどクリスの夢がかなった瞬間だった。5日後、クリスは亡くなり、警察ではクリスのための葬儀が行われた。クリスの夢の実現に関わった人々は、他にも、大きな夢を持ちながら、難病のため夢をかなえることができない子どもたちがいるに違いないと考え、メイク・ア・ウィッシュが設立されたのだ9

メイク・ア・ウィッシュの活動は、「警察官になりたい」「野生のイルカと泳ぎたい」などの難病と闘う子どもたちの夢を実現するために、さまざまな手配や支援をすることである。43年以上前に米国カリフォルニア州・アナハイムにあるディズニーランド・リゾートで最初のメイク・ア・ウィッシュが叶えられて以降、ディズニーは世界最大のメイク・ア・ウィッシュの活動の協力者として、これまでに重い病気と闘う子どもたちとその家族のために、15万件という驚くべき数のディズニーに関する願いを叶えてきた。メイク・ア・ウィッシュは、設立されるきっかけとなった1980年4月29日を記念し、毎年同日を「ワールド・ウィッシュ・デイ」と制定し、活動を記念しているのだが、今年はワールド・ウィッシュ・デイに先立ち、4月28日にディズニーとメイク・ア・ウィッシュの両者の関係に敬意を表し、ディズニーランド内にあるメインストリートU.S.A.に特別な3つのウィンドウを設置した。メインストリートU.S.A.のウィンドウは、創設者のウォルト・ディズニーやその家族、アトラクションを建設するイマジニア10など、過去1世紀にわたりディズニーに多大な貢献をした人物に捧げられてきたが、非営利団体に捧げられた初めてのウィンドウは、ディズニーとメイク・ア・ウィッシュが長年にわたって築いてきたユニークで特別な関係を表わしている。今回設置された3つの窓は過去、現在、未来のウィッシュキッズ(メイク・ア・ウィッシュが支援する子供)に、前述したメイク・ア・ウィッシュ創立のきっかけとなったクリス・グレイシアス、そしてディズニーランドで最初のウィッシュキッズとなったフランク・サラザールにささげられた窓となっている11。セレモニー当日は2023年2月にメイク・ア・ウィッシュ・アメリカの全米理事に任命されたテーマパーク部門責任者ジョシュ・ダマロも参加した。

このような難病の子どもたちがディズニーパークスで楽しむことができるように、ディズニー社とメイク・ア・ウィッシュが支援する以外にも、ディズニーファンがメイク・ア・ウィッシュ活動を支援することができる取り組みも存在する。例えば、2016年2月、ディズニーランド60周年を記念し、最大100万ドルをメイク・ア・ウィッシュに寄付するプロジェクト「Share Your Ears」が行われた。このイベントでは、誰かがテーマパーク内で売っているミッキーの耳がついたカチューシャ通称「ミッキーイヤー」を身につけた写真をハッシュタグ「#ShareYourEars」を付けてTwitter、Facebook、Instagramに投稿するたびに、ディズニーから1枚につき5ドル、最大100万ドルをメイク・ア・ウィッシュに寄付される内容であった。ちなみに、このイベントは1か月足らずで100万ドルに到達したが、ディズニーの粋な計らいで当初予定の100万ドルから2倍の200万ドルが寄付されることとなった12。他にも2020年には世界中のディズニーテーマパーク内で“Wishes Come True Blue Color Collection”というグッズのシリーズがリリースされ、グッズ売上の25%がメイク・ア・ウィッシュに寄付されている。
 
9 公益財団法人 メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパンホームページ
https://www.mawj.org/about/make-a-wish-story/
10 ディズニーのテーマパークのデザインや設計をする人々のこと。“イマジネーション(想像力)”と“エンジニア(技術者)”を組み合わせた造語。
11 The Walt Disney Company Disney and Make-A-Wish® Celebrate Longstanding Relationship and 150,000 Disney Wishes Granted on World Wish Day® 2023年5月1日https://thewaltdisneycompany.com/disney-and-make-a-wish-celebrate-longstanding-relationship-and-150000-disney-wishes-granted-on-world-wish-day/#:~:text=The%20date%20marks%20the%20anniversary,kids%20and%20their%20loved%20ones.
12 Disney Parks Blog Disney Parks Doubles Make-A-Wish Donation to $2 Million, Thanks All Who Participated in #ShareYourEars 2016年3月18日https://disneyparks.disney.go.com/blog/2016/03/disney-parks-doubles-make-a-wish-donation-to-2-million-thanks-all-who-participated-in-shareyourears/

7――おわりに

7――おわりに

冒頭で述べた通り、ディズニー社の著作権に対する意識は、消費者に過度に「ディズニーは著作権に厳しい」という印象を構築してきたが、自社のキャラクターが意図していない所で勝手に商用的に使われていたり、キャラクターイメージを損ないかねない商品にイラストされてしまうリスクを考えると、それは当然のことと言えるだろう。特に老若男女幅広い層から支持されているからこそ、自社が想定する「キャラクターのイメージ」が外部組織の無断使用によって損なわれてしまうことは大きな損失を生みかねない。

一方で、本レポートで述べた通り、ディズニー社は自社のキャラクターが子どもたちに希望を与える存在だと認識しているからこそ、自社のIPを子どもたちに希望を与える手段として活用している。図3は、ウォルト・ディズニー・カンパニーが掲げるCSRの3つの目標13であるが、今回紹介した事例は3つの内、コミュニティに癒し、前向きな気持ち、楽しいひと時の提供、特に困難な状況にある子どもたちに希望や安らぎを届ける事を目標とする「World of Hope」に分類される。このようなCSR活動がより多くの消費者に認知され、一部の消費者の間で築かれてしまった歪んだ「ディズニーの著作権」に対するイメージが変わっていくことを一ファンとして望んでいる。
図3 ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社のCSRの目標
 
13 米国ウォルト・ディズニー・カンパニーもウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社も同じCSRの目標を掲げている。
 
 

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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2023年07月07日「基礎研レポート」)

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