コラム
2020年07月02日

ディズニー再開初日に感じたエンタメ業界の今後‐ウィズ・コロナのエンタメ界と我々にできること‐

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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はじめに

東京ディズニーリゾートが再開した。実に123日ぶりのオープンであった今回の再オープンに当たり、運営元である株式会社オリエンタルランドは、チケット販売方法としてネットでの先着順による形式をとった。販売当日は多くの熱心なファンによってアクセスが集中し、人によっては24時間試したがサイトに繋がらないという苦難を強いられた。チケットは取り急ぎ7月分の販売で、開園から閉園まで楽しめるワンデーパスポートと時間指定(11時と14時)のチケットが併せて販売されていた。販売されたチケットは15,000枚ほどと言われている。筆者はコロナによる一時休園前最後の開園日であるが2月28日に訪れていた。そして再オープン初日に当たる7月1日にもチケットを購入して入園できたので、筆者自身にとっても123日ぶりのディズニーランドであった。本コラムでは実際に筆者が現地で体験した東京ディズニーランドの徹底したコロナ対策について、お伝えしたいと思う。

-日本遊園地協会による運営のための3つのガイドライン-

日本遊園地協会の制定した「遊園地・テーマパークにおける新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」によると、遊園地・テーマパークにおける来場者と従業員の健康と安全を最優先事項と定めて、新型コロナウイルスによる感染防止に向けて、

(1) 来場者と従業員を含む、遊園地・テーマパークに関わる全ての人の健康管理に留意する事
(2) 衛生的な施設・設備を提供できるように清掃・消毒を強化実施する事
(3) 身体的距離と十分に換気された空気環境を確保するように運営する事

の3点が基本原則として示されている。身体的距離とはいわゆるソーシャルディスタンスのことで、他の来園者との距離を1m(2m以上が望ましい)とることを指している。国内最大のテーマパークであるディズニーリゾートは、どのようにコロナと向き合っていくのだろうか。

‐アトラクションとショー‐

ディズニーランドにおいては「密」が予測されるパレードやショー、キャラクターとゲストが触れ合う交流は当面休止とアナウンスがされている。その代わりに、挨拶するという形式で一日に数回不定期にキャラクターがパレードルートを巡回したり、シンデレラ城の前に登場する予定としており、ゲスト(入園者のこと)が集まることを避けるよう努めている。パレードルートや城前においては、他のゲストとの距離を保つために目印がつけられており、それに従ってゲストが行動すれば、形式上はソーシャルディスタンスが保たれてはいるが、実際はシンデレラ城の前で行われる挨拶の後にキャラクターたちが退出してくると思われるルートにゲストが固まってしまい、運営が予期しない形で密が生まれてしまった。このような主催者(運営)が予期することができないような消費者の動きをコントロールすることが、今後のエンターテインメント業界においてより必須となるだろう。

アトラクションやシアターショーにおいては、キュー(待機列)に1m以上の間隔をとるための目張りがされている。乗り物自体も一席ずつ間隔をあけて乗車させたり、シアターにおいては一列分席を閉鎖することで「密」を避ける対応をしている。乗り物が狭く、換気がしにくいアトラクションによっては(例えば東京ディズニーシーの海底2万マイル)、稼動を休止しているものもある。乗り物の手すりやセーフティーバーは、定期的に拭き上げることで消毒している。

‐レストラン‐

レストランでは、ゲストとキャスト(働いている人)との物理的な接触が生まれがちである。例えば、従来ではディズニーリゾートではテーブルサービスのレストランにおいては、席の人数や予約の時間が書かれた案内カードをゲストに配布していたが、キャストが一度接触したものをゲストに渡すという行為を避けるために、発券された案内カードをゲストのスマートフォンに撮影させて記録するように呼び掛けている。また、メニューも紙媒体のモノから、テーブルの上においてあるQRコードを読み取る方式へと変更されている。

テーマパークにおいて来園者はマスクをすることを要請されているが、食べるときは外す必要がある。レストランによっては、唾液の飛散防止やマスクを衛生に保つために、簡易なマスク入れをゲストに提供している。

‐ゲストを衛生に保つためのコントロール‐

ソーシャルディスタンスを保つための目張りに従うという点以外にも、ゲストが衛生を保つために運営はコントロールする必要がある。例えば、アトラクションや土産物ショップの外ではキャストが常に立っており、ゲストが建物内で滞留しないように指定の入り口と出口を設けて誘導しており、流動的にゲストが動くことができるような導線が作られている。入り口出口にはそれぞれ消毒液が設置されており、なるべく消毒するようにキャストが声掛けをしている。仮に隣同士の建物であっても、入退出の際には消毒することを勧められる為、筆者の体感では50回以上は手を消毒した。

グッズの陳列にも配慮しており、従来Tシャツは種類ごとに積み上げられていたが、サイズを探すためにむやみにゲストが触らぬように、サイズごとに分けて陳列されている。また、ディズニーではイベントごとに限定のグッズが販売される。グッズによっては買うために何時間も並ぶ必要があったり、店内を行き来できないほど混雑したりした。こういった「密」になる要素を避けるために、グッズの一部はオンラインで販売されるようになった。

マスクにおいても、テーマパークという非日常を演出するようなキャラクターをあしらったデザインのマスクが販売されている一方で、全てのゲストにマスクを着用することを求めるために100円で購入が可能なマスクも用意している。

‐世界のディズニーリゾート‐

アジアでは上海ディズニーランドが世界に先駆けて5月11日に、香港ディズニーランドがその1カ月後に再開していたため東京ディズニーリゾートの再開により、アジアの全パークが再開にこぎつけた。ディズニーランド・パリは7月15日以降、段階的に営業を再開する予定である。

一方、本国アメリカにあるフロリダ州のウォルト・ディズニー・ワールドでは7月11日からの段階的な再開計画に対し、延期を求める従業員ら約7000人の署名が集まっている。また、カリフォルニア州のディズニーランドリゾートでは、開園記念日にあたる7月17日に予定された営業再開を無期限での延期を決定している1

‐ウィズ・コロナのエンタメ界と我々にできること‐

東京ディズニーランドを運営する株式会社オリエンタルランドにとっても、まだまだ先行きの見えない手探りの運営になると思われる。前述した通り、ゲストによる想定外の動きによって「密」が生まれてしまうことが当面の課題であると筆者は考える。しかし、これは、消費者である我々の課題でもある。コロナ禍でエンターテインメントが制限されていた反動で、「我先に」、「周りがやっているから」、「わたしだけでも」といったつい自身の欲求を満たそうと行動してしまいがちである。筆者自身が様々なカテゴリーを嗜好するオタクだからこそ、その気持ちは痛いほどわかる。しかし、熱心なディズニーファンの一人とされるジャニーズ事務所の風間俊介が、6月29日に日本テレビ系の「ZIP!」で「夢と魔法の王国にコロナウイルスを持ち込まない」とコメントした通り、ディズニーに限らず多くのエンターテイメントが自粛を強いられ、少しずつ復活に向かって動いている中で、我々消費者の一人一人の意識もエンターテインメントを維持していくために不可欠なのである。

今後7月13日にはサンリオピューロランドのプレオープンも控えているなど、少しずつテーマパーク業界に明るい兆しが見えてきている。もう二度とエンターテインメントや娯楽を嗜好できない日々には戻りたくはない。日常通りとは言わないが、ウィズ・コロナとしてコロナと向き合っていくためにも、消費者である我々は、復興の兆しのある「今」に感謝し、エンターテインメントが継続できるように運営側のオペレーションに従う、熱があるのに無理しない等、自分たちが「今」できること(Do the next right thing)をするべきであると感じた1日であった。
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2020年07月02日「研究員の眼」)

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