2023年06月13日

物価高の家計への影響と消費者の要望-やむを得ず値上げを受け入れる素地の形成、企業には監視の目も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~生活必需品を中心とした値上げで家計負担増、現在の消費者意識は?

物価高で家計の負担が増す状況が続いている。総務省「消費者物価指数」によると、政府が電気代やLPガスなどの負担軽減策を講じたことで、生鮮食品を除く総合指数は2023年1月(4.3%)にピークを示した後、2月以降は一旦下落している(図表1)。一方、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は新年度に幅広い品目で値上げが実施されことで、4月も上昇傾向が継続している。また、消費者物価指数を購入頻度別に見ると、食パンや牛乳、ガソリンなど頻繁に購入する品目は2021年前半から上昇し始めており、購入頻度が高く生活必需性の高いものほど早期から上昇している(図表2)。一方、これまでの物価上昇の主要因である原油高や円安の状況は一服しており、川上段階の輸入物価はすでにピークアウトしている(図表3)。よって、今後は原材料価格を転嫁する動きが弱まることで消費者物価の上昇率は抑えられる見通しだ1
図表1 消費者物価指数(前年同月比)/図表2 年間購入頻度別消費者物価指数(前年同月比)
図表3 国内企業物価指数、輸入物価指数(前年同月比) 一方で消費者からすれば、商品の価格が下がるわけではなく高止まりすることになるため、物価の上昇を上回って可処分所得が増えない限りは家計負担が増した状況は続くことになる。

このような中、ニッセイ基礎研究所では定期的に消費者の意識調査を実施している。前稿2では昨年9月時点の物価高進行下の消費者意識や行動について属性別に捉えた結果を示した。本稿では3月末に実施した調査3を用いて、物価上昇の影響を感じた具体的な費目や支出抑制を工夫した費目、また、物価上昇に関わる事業者や政府、自治体への要望などについて報告する。
 
1 斎藤太郎「2023・2024年度経済見通し(23年5月)」、ニッセイ基礎研究所、Weeklyエコノミスト・レター(2023/5/18)
2 久我尚子「物価高と消費者意識や行動~低収入層や子育て世帯で負担感強、高収入層は海外ブランド品で実感」、ニッセイ   
基礎研レポート(2022/10/21)
3 ニッセイ基礎研究所「第12回新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」、調査時期は2023年3月29日~3月31日、調査対象は全国に住む20~74歳、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答2,558

2――物価上昇を感じた費目や支出額への影響

2――物価上昇を感じた費目や支出額への影響~支出抑制というより値上げをやむを得ず受け入れている

図表4 物価上昇による家計への影響(n=2,558) 1物価上昇の家計への影響~影響ありが80.8%
まず、物価上昇による家計への影響をたずねたところ、全体(20~74歳)で家計への影響がある(「とても影響がある」+「やや影響がある」)との回答は80.8%、影響がない(「ほとんど影響はない」+「あまり影響はない」)との回答は12.9%を占める(図表4)。

なお、影響があるとの回答は、属性別には男性より女性で、また、年齢が高いほど多い傾向があり4、日常生活での家計への意識や関心の高さの違いが影響している様子がうかがえる。
2全体の状況~生活必需品中心に物価高実感、支出抑制というよりやむを得ず値上げを受け入れている
物価上昇による家計への影響について「とても影響がある」・「やや影響がある」・「あまり影響はない」・「ほとんど影響はない」との回答者に対して、①物価上昇を感じたものについてたずねたところ(複数回答)、全体で最も多いのは「食料」(89.4%)であり、次いで「電気代・ガス代」(84.8%)、「ガソリン代」(52.2%)、「外食」(39.0%)、「水道料」(30.5%)までが3割を超えて続く(図表5)。

これらのうち、②物価上昇を最も感じたもの(単一回答)で最も多いのは「食料」(48.9%)、次いで「電気代・ガス代」(39.4%)であり、この2つに実に約9割(88.3%)の回答が集中する。
図表5 物価上昇を感じた費目や支出額への影響(n=2,398)
また、③物価上昇によって支出額が増えたもの(複数回答)で最も多いのは「食料」(75.5%)であり、次いで僅差で「電気代・ガス代」(74.0%)が7割を超えて続く。以下、「ガソリン代」(36.8%)、「水道料」(19.4%)、「外食」(18.1%)までが1割を超える。

さらに、調査では、④物価上昇を感じたものの支出額は変わっていないものについてもたずねているのだが、当設問を設定した目的は物価上昇で支出抑制の工夫をしている費目を捉えることである。例えば、これまで購入していた商品が値上がりしたため、より安い価格の商品へ乗り換えた費目、あるいは、これまでと比べて購入量や頻度を減らすことで支出額を増やさない工夫をしている費目などを捉えることを想定した。

その結果、④物価上昇を感じたものの支出額は変わっていないものでは、いずれも選択割合は5%未満であり、「特にない」(53.7%)や「わからない」(25.1%)との回答が目立った。つまり、この結果だけを見ると、支出抑制の工夫をしている費目は特に思い当たらない、ということになる。一方で、例えば、食料の中でもパン、牛乳といった具合に個別商品を設定し、それぞれの状況をたずねた場合には細かな支出抑制の工夫が見られる可能性があるため(今後の調査設計の課題としたい)、費目全体として見れば、当調査のような結果が得られたという理解が妥当だろう。

⑤物価上昇を感じたことで支出額を減らしたものについても、設問を設定した目的は同様であり、商品の値上げが相次ぐ中で、他の費目と比べて優先度が低いために支出を抑制している費目を捉えることを想定した。その結果、「外食」(5.8%)以外の選択割合は5%未満であり、「特にない」(56.3%)や「わからない」(23.6%)との回答が目立った。

以上より、消費者は食料や電気代・ガス代など生活必需性の高い費目を中心に物価上昇を感じており、冒頭に示した通り、消費者物価指数が生活必需性の高い費目ほど早期から上昇している傾向と一致する。一方、物価上昇を感じたものの支出額は変わっていない、あるいは支出額を減らした費目については目立つものはなく、約8割が「特にない」、あるいは「わからない」と回答している。繰り返しになるが、個別商品を設定してたずねれば支出抑制の工夫が見られるものもあるだろうが、全体としてみれば、消費者は、生活必需性の高い費目を中心に値上がりが相次ぐ中で、支出抑制の工夫をするというよりも、値上げをやむを得ず受け入れており、家計負担が増している様子がうかがえる。
 
3属性別の状況~子育て世帯は多方面で物価高実感・支出増、高収入層は娯楽関連で実感・支出増
性別や年代別、ライフステージ別、世帯年収別、個人年収別などいずれの属性においても、全体と同様に、「食料」や「電気代・ガス代」を中心に物価上昇を感じ、支出額が増えている一方、支出額が変わったものや減らしたものは「特にない」や「わからない」との回答が多い(図表略)。図表6に属性別に見て特徴的だった結果の一部を示す。

物価上昇を感じたものについて、ライフステージ別には「電気代・ガス代」や「ガソリン代」などのエネルギー関係の費目は第一子大学入学以降の比較的年齢の高い世帯と第一子中学校入学で多い一方、「外食」は第一子小学校入学を中心とした若い家族世帯で多い傾向がある(図表6(a))。

また、第一子中学校入学や小学校入学では「子どもの教育費」(第一子中学校入学は28.0%で全体より+24.5%pt、小学校入学は19.1%で同+15.6%pt)や「習い事」(同16.0%で同+12.4%pt、同14.0%で同+10.4%pt)、「外食」(同49.3%で同+10.3%pt、同53.7%で同+14.7%pt)で全体を10%pt以上上回る。このほか、第一子中学校入学では「ガソリン代」(65.3%で全体より+13.1%pt)や「水道料」(40.0%で同+9.5%pt)、「レジャー」(17.3%で同+9.1%pt)、「被服や履物」(21.3%で同+7.1%pt)でも全体を約10%pt上回る。

つまり、子育て世帯では生活必需性の高い費目や教育費、娯楽費など、他の世帯と比べて多様面から物価上昇を感じている様子が見てとれる。この背景には、前稿でも見た通り、子育て世帯は経済的に厳しい世帯が多いために物価上昇を感じやすいことに加えて、子どものいない世帯と比べて、従来から日常的に多方面に渡って出費がかさんでいることがあげられる。

世帯年収や個人年収別には、高年収層では「食料」など生活必需性の高い費目では全体を下回る費目がある一方で、「外食」や「レジャー」、「旅行」、「趣味」など娯楽性の高い費目では全体を上回る傾向がある。つまり、高年収層では経済的な余裕から生活必需性の高い費目の物価上昇に対する負担感は相対的に弱い一方、日頃から消費意欲が旺盛な娯楽関連の費目で物価上昇を強く感じている様子がうかがえる。

また、物価上昇で支出額が増えたものについても同様に、子育て世帯では生活必需性の高い費目や教育費、娯楽費が、高収入層では娯楽費が他と比べて増えている(図表6(b))。
図表6ー1 属性別に見た物価上昇を感じた費目や支出額への影響
図表6ー2 属性別に見た物価上昇を感じた費目や支出額への影響
また、物価上昇で支出額が増えたものについても同様に、子育て世帯では生活必需性の高い費目や教育費、娯楽費が、高収入層では娯楽費が他と比べて増えている(図表6(b))。

一方、物価上昇を感じたことで支出額を減らしたものについては、全体と同様、いずれの属性でも「特にない」や「わからない」との回答が多い(図表6(c))。また、年収別に見ると、これらの回答は必ずしも年収に比例(あるいは反比例)しているわけではなく、「特にない」・「わからない」の合計は、世帯年収1,500万~2,000万円未満(87.1%)で約9割を占めて多い一方、世帯年収200万円未満(80.9%)でも約8割を占めて全体と同程度を占める(わずかに上回る)。つまり、いずれの年収階級でも値上げをやむを得ず受け入れる傾向は共通しつつも、低収入層では、やむを得ずという色合いが濃い一方、高収入層では余力があるために受け入れられるという状況があることも考えられる。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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【物価高の家計への影響と消費者の要望-やむを得ず値上げを受け入れる素地の形成、企業には監視の目も】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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