2023年06月09日

ASEANの貿易統計(6月号)~4月の輸出は商品価格下落や季節要因で2桁減に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2023年4月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比17.7%減(前月:同9.3%減)の二桁減少となった(図表1)。輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍からの回復や商品市況の高止まりにより好調が続いたが、その後は欧米を中心とした外部環境の悪化や資源価格の軟化により増勢が鈍化し、11月以降は減少傾向が続いている。また4月はイスラム教の断食明け大祭の休暇時期がずれて稼働日が少なかったことも輸出の下振れに繋がった。輸出の先行きはサービス消費の拡大で景気回復の進む中国向けが持ち直して徐々に上向いていくものの、当面は物価高や金融引き締めの影響で世界経済が減速するため軟調に推移する可能性が高そうだ。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、東南アジア向けが同22.3%減(前月:同8.8%減)となり、イスラム教の断食大祭明けの休暇時期のずれの影響により大幅に減少した(図表2)。また物価高と金利上昇の影響で経済活動が鈍化している北米向けが同17.7%減(前月:同10.6%減)、EU向けが同15.3%減(前月:同10.8%減)となり、それぞれ低迷したほか、東アジア向けも中国向けが振るわず同16.1%減(前月:同7.7%減)となり減少幅が拡大した。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの4月の輸出額(通関ベース、確定値)は前年同月比16.2%減(前月:同14.5%減)の278億ドルとなり、2ヵ月連続で減少した(図表3)。輸出の基調は昨年後半までコロナ禍からの世界経済の再開や電子製品の需要拡大により増加傾向が続いたが、その後は世界経済の減速により主力のスマートフォンや電子製品、アパレル製品の出荷が振るわず減少傾向にある。また輸入額は前年同月比23.1%減(前月:同13.1%減)の252億ドルとなり減少幅が拡大した。結果として貿易収支は+26.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から12.7億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、輸出全体の約2割を占める電話機・同部品が前年同月比33.4%減(前月:同35.5%減)、コンピュータ、電子製品・同部品が同10.5%減(前月:同7.0%減)となり、それぞれ低迷した(図表4)。アパレル関連も、履物が同8.6%減(前月:同22.1%増)、織物・衣類が同19.5%減(前月:同11.9%増)となり、それぞれ減少した。農林水産物を見ると、水産物(同33.7%減)と天然ゴム(同13.9%減)は減少したものの、カシューナッツ(同4.9%増)と野菜(同22.0%増)、コメ(同98.0%増)、コーヒー(同10.0%増)が増加するなど、品目によってばらつきが見られた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同17.3%減(前月:同15.8%減)、地場企業が同13.3%減(前月:同10.8%増)となり、それぞれ減少した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの4月の輸出額(通関ベース)は前年同月比7.6%減の217億ドルとなり、前月の同4.2%減から減少幅が拡大した(図表5)。輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍で停滞した経済活動の再開や世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いたが、その後は海外需要の鈍化により主力の工業製品の出荷が振るわず、減少傾向で推移している。また輸入額も前年同月比7.3%減(前月:同7.1%減)の231ドルと減少した。結果として、貿易収支が▲14.7億ドルとなり、2ヵ月ぶりの赤字となった。

輸出を品目別にみると、全体の約7割を占める工業製品が同13.5%減と、前月の同3.4%減から減少幅が拡大した(図表6)。製造品の内訳を見ると、家電製品(同6.0%増)は増加したものの、石油化学製品(同27.3%減)や金属・鉄鋼(同27.9%減)、機械・装置(同6.7%減)、電子製品(同4.6%減)、自動車・部品(同2.9%減)など減少した品目が多かった。また鉱業・燃料も同14.8%減(前月:同2.8%減)と低迷した。一方、農産物・同加工品は同5.7%増(前月:同3.3%増)となり、3ヵ月連続で増加した。農産物・同加工品の内訳をみると、天然ゴム(同40.2%減)や加工食品(同14.3%減)、ゴム製品(同11.7%減)が減少した一方、ドリアン(同152.8%増)やコメ(同3.5%増)、畜産物(同35.7%増)が増加するなど、品目によってばらつきが見られた。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの4月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比20.3%減(前月:同7.3%減)の238億ドルとなり、2ヵ月連続の前年割れとなった(図表7)。輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍で停滞した経済活動の再開や電気電子製品、石油ガス製品の需要拡大を追い風に増加してきたが、その後は世界的な需要減退により伸び悩み、足元では減少に転じている。また輸入額も前年同月比14.2%減(前月:同7.7%減)の209億ドルと減少した。結果として、貿易収支が+29.0億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から30.7億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同12.2%減(前月:同8.5%減)となり、主力の電気・電子製品(同9.8%減)を中心に減少した(図表8)。また鉱物性燃料は同3.8%減(前月:同8.7%増)と約2年ぶりに減少、石油製品(同27.8%増)が増加したものの、天然ガス(同16.6%減)と原油(同47.7%減)が落ち込んだ。このほか、コロナ特需が終息したゴム手袋(同65.3%減)や化学製品(同38.1%減)、動植物性油脂(同32.5%減)なども減少が続いた。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの4月の輸出額(通関ベース)は前年同月比29.4%減(前月:同11.6%減)の192億ドルとなり、2ヵ月連続の前年割れとなった(図表9)。輸出は昨年半ばまでコロナ禍で停滞した経済活動の再開や商品市況の高止まりにより好調が続いたが、その後は海外経済の減速やパーム油、石炭、ニッケルなどの主要商品の価格下落により輸出の勢いが弱まっている。また今年のレバラン(断食明け大祭)の休暇時期が4月にずれて稼働日が少なかったことも輸出の下振れに繋がった。また輸入額は前年同月比22.3%減(前月:同6.3%減)の153億ドルとなり、減少幅が拡大した。結果として、貿易収支が+39.4億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から11.1億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の9割を占める非石油ガス輸出が同30.3%減(前月:同12.0%減)、石油ガス輸出も同12.2%減(前月:同4.8%減)と、それぞれ減少幅が拡大した(図表10)。化学製品(同44.8%減)や織物類(同44.1%減)、動植物性油脂(同41.4%減)、機械類(同39.2%減)、プラスチック・ゴム製品(同38.5%減)、自動車・同部品(同27.2%減)、鉄・鉄鋼(同24.3%減)、鉱産物(同23.0%減)、電気機械(同15.9%減)などほとんどの品目で大幅な減少となった。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの4月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比7.4%減(前月:同7.1%減)の115億ドルとなり、8カ月連続で減少した(図表11)。輸出の基調は昨年半ばまで世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いたが、その後は中華圏向けやマレーシア向けを中心に電子製品、非電子製品がそれぞれ振るわず減少が続いている。なお、総輸出額は同16.0%減(前月:同5.2%減)の370億ドル、総輸入額が同17.5%減(前月:同9.8%減)の339億ドルとなり、それぞれ減少幅が拡大した。結果として、貿易収支は+31.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から23.1億ドル縮小した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別にみると、まず全体の約2割を占める電子製品は同21.3%減(前月:同21.2%減)と低迷した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同19.6%減)やディスクメディア(同40.1%減)、PC(同49.0%減)が揃って減少した。一方、全体の約3割を占める化学品は同17.7%増(前月:同0.5%減)と8カ月ぶりに増加した。化学品の内訳を見ると、石油化学製品(同31.1%減)が低迷したものの、医薬品(同132.5%増)が大幅に増加した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの4月の輸出額(通関ベース)は前年同月比20.2%減の49.0億ドルとなり、前月の同9.1%減から減少幅が拡大し、5ヵ月連続の前年割れとなった(図表13)。輸出の基調は昨年後半に電子製品を中心に増加傾向がみられたが、その後は世界的な需要が軟化するなかで主力の電子製品の出荷が落ち込み、減少している。また輸入額も前年同月比17.7%減(前月:同1.2%減)の94億ドルとなり、2桁減少だった。結果として、貿易収支は▲45.3億ドルの赤字となり、赤字幅が前月から5.7億ドル縮小した。

輸出シェア上位10品目をみると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同17.9%減(前月:同12.1%減)となり、5ヵ月連続で減少した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同14.5%減)と電子データ処理機(同39.3%減)の大幅な減少が続いた。その他9品目については、金(同25.2%増)とイグニッションワイヤーセット(同24.9%増)、生鮮バナナ(同8.0%増)は増加したが、その他鉱業品(44.8%減)や製錬銅(同37.5%減)や化学品(同31.8%減)、電子部品(同11.2%減)、機械・輸送用機器(同10.3%減)、金属部品(同6.2%減)、その他製造品(同5.8%減)が減少するなど、総じて減少した品目が多かった。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年06月09日「経済・金融フラッシュ」)

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