2023年06月07日

物流市場は空室率が大きく上昇。J-REIT市場は調整が続く-不動産クォータリー・レビュー2023年第1四半期

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.315]

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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日本経済は、約2年にわたってプラス成長とマイナス成長を繰り返す一進一退の状態から抜け出せずにいる。2023年1-3月期の実質GDPは3四半期ぶりにプラス成長となった。住宅市場は引き続き価格が上昇している。東京オフィス市場は調整局面が継続している。東京23区のマンション賃料は前年比でプラスとなった。ホテル市場は1-3月の延べ宿泊者数が2019年対比で▲5.1%の水準まで回復した。物流市場は、首都圏・近畿圏ともに新規供給の影響を受けて空室率が上昇した。第1四半期の東証REIT指数は▲5.7%下落した。

1―経済動向と住宅市場

1-3月期の実質GDP(1次速報)は前期比年率+1.6%となった。海外経済の減速を背景に輸出が低迷し外需が成長率を押し下げる一方、外食や旅行などの対面型サービスを中心に民間消費がプラスに寄与した。

1-3月期の鉱工業生産指数は前期比▲1.8%と2四半期連続の減産となった[図表1]。

業種別では、世界的な半導体関連需要の低迷を反映し、電子部品・デバイスが前期比▲3.7%と4四半期連続の減産となった。
[図表1]鉱工業生産(前期比)
住宅市場では、価格が上昇するなか、マンションの新規発売戸数や成約件数は低調に推移している。1-3月の首都圏のマンション新規発売戸数は前年同期比▲15.9%、1-3月の首都圏の中古マンション成約件数は▲0.5%減少した。

また、2月の首都圏の中古マンション価格の1年間の上昇率は+6.1%となった[図表2]。
[図表2]不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2―地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2022年第4四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「71」、横ばいが「9」、下落が「0」で、2019 年第4 四半期以来3年ぶりに下落地区がゼロとなった[図表3]。

同レポートでは、「住宅地はマンション需要に引き続き堅調さが認められたことから上昇が継続。商業地は人流の回復傾向を受け店舗需要の回復が見られたことなどから上昇地区が増加し下落地区がゼロとなった」としている。
[図表3]全国の地価上昇・下落地区の推移

3―不動産サブセクターの動向

1|オフィス
三鬼商事によると、3月の東京都心5区の空室率は6.41%(前月比+0.26%)、平均募集賃料(月坪)は32カ月連続下落の19,991円となり、約5年ぶりに2万円の大台を下回った。他の主要都市をみると、空室率は新規供給の影響で横浜(6.40%)と福岡(5.89%)が前年対比で大幅に上昇した一方、札幌・仙台・名古屋・大阪は概ね横ばいで推移している[図表4]。また、募集賃料は大阪と仙台を除いて前年比プラスを確保している。
[図表4]主要都市のオフィス空室率
また、成約賃料データに基づく「オフィスレント・インデックス(第1四半期)」によると、東京都心部Aクラスビル賃料は27,479円(前期比▲3.9%)に下落し、空室率は4.7%(前期比+1.1%)に上昇した[図表5]。東京オフィス市場は、オフィス出社率が70%を超えてオフィス回帰の動きが緩やかに進んでいるものの、オフィスの大量供給局面を迎えるなか、アフターコロナを見据えた企業のオフィス戦略や外資系企業のオフィスニーズなど、需要サイドの動向を注視したい。
[図表5]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
2|賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。2022年第4四半期は前年比でシングルタイプが+1.2%、コンパクトタイプが+0.6%、ファミリータイプが+1.9%となった[図表6]。
[図表6]東京23区のマンション賃料
総務省によると、1-3月の東京23区の転入超過数は累計で+3.9万人(2019年同期比▲1%)となりコロナ禍前の水準を回復した[図表7]。今後はコロナ禍前と同様に転入超過のトレンドを維持できるか注目される。
[図表7]東京23区の転入超過数(各年の月次累計値)
3|商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、インバウンド消費が好調な百貨店を中心に売上が回復している。商業動態統計などによると、1-3月の小売販売額( 既存店、前年同期比)は百貨店が+14.5%、コンビニエンスストアが+5.0%、スーパーが+0.8%となった。ホテル市場は、昨年10月以降、全国旅行支援や水際対策緩和などを背景に急回復し、日本人の宿泊需要はコロナ前を上回っている。宿泊旅行統計調査によると、1-3月の延べ宿泊者数は2019年対比で▲5.1%の水準まで回復し、このうち日本人が+1.0%、外国人が▲29.0%となった[図表8]。
[図表8]延べ宿泊者数の推移(2019年対比、2020年1月~)
また、CBREの調査によると、首都圏の大型物流施設の空室率(3月末)は8.2%( 前期比+2.6%)、近畿圏の空室率は4.6%(前期比+2.9%)となり、新規供給の増加を受けて空室率が大幅に上昇した。

4―J-REIT(不動産投信)市場

2023年第1四半期の東証REIT指数は昨年末比▲5.7%下落した[図表9]。昨年12月の日本銀行による金融政策の修正を受けて、金利上昇の影響を見極めるべく様子見姿勢が強まるなか、東証REIT指数は昨年来安値を更新する動きとなった。

J-REITによる第1四半期の物件取得額は3,674億円(前年同期比+2.0%)となった。アセットタイプ別では、オフィス(50%)・住宅(15%)・商業施設(14%)・物流施設(12%)・ホテル(8%)・底地ほか(1%)となり、オフィスの比率が高まる一方、これまで物件取得の牽引役であった物流施設の比率が大きく低下した。

J-REIT市場は、将来の金利上昇リスクを反映して下値を切り下げるなか、J-REITが保有する不動産価値に基づいて算出されるNAV倍率は1倍を下回り、割安感が強まっている。現在の市場は、今後の金利上昇リスクを重視するのか、それとも割安なNAV倍率を重視するのか、先行きの見方について強弱感が対立し、適正な水準を模索する過程にあると言える。
[図表9]東証REIT指数の推移(2022年12月末=100)
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年06月07日「基礎研マンスリー」)

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