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南極の温暖化-南極では温暖化が遅延している?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
極域をみると、海洋で構成される北極のほうが、大陸のある南極よりも温暖化が進んでいるとされる。南極大陸においては、西部では南極半島を中心に急速に温暖化が進む一方、東部では気温が上昇傾向にあるわけではないといわれる。南極半島での氷河の融解がメディアで衝撃的に報じられる一方、南極大陸自体はあまり温暖化していないとの声もある。どうやら、話は、単純ではなさそうだ。
本稿では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のWG1(第1作業部会)が公表した第6次評価報告書をはじめ、いくつかの温暖化に関する資料をもとに、南極の温暖化の実態を見ていくこととしたい。
2――南極の特徴
1|南極大陸は広い
南極というと、雪氷に覆われた真っ白な大陸というイメージを持つ人が多いものと思われる。しかし、その広さについて意識することは少ないのではないだろうか。南極大陸は、ユーラシア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカについで、5番目に広い。面積は約1400万平方キロメートルで、陸地全体の約9%を占めている。ヨーロッパ大陸の約1.3倍、オーストラリア大陸の約1.8倍に相当する。
2|南極大陸は高い
南極大陸の約97%は、厚さが平均1800メートル以上の分厚い氷床・氷河に覆われている。その氷床・氷河を含んだ平均標高は約2000メートルで、最高地点のヴィンソン・マシフ山(標高4892メートル)をはじめ、3000メートル級の山脈が複数ある。南極点も標高約2800メートルの高い位置にある。緯度が高いうえに標高が高いことで、世界屈指の寒冷地域となっており、気候区分上、南極大陸のほぼすべてが氷雪気候1に属する。(各数値は、稿末に記載の参考資料による。)
1 ケッペンの気候区分で樹木の生育を許さない寒帯気候のうち、特に寒さが厳しく最暖月平均気温が0℃未満の気候。南極大陸のほか、グリーンランドの大部分、シベリアの極北部、北アメリカ大陸の北岸地方に分布。
南極海は、東西方向に陸地に遮られることなく地球を一周できる、世界で唯一の海である。南極大陸の周りには東向きに(時計回りに)一周する南極周極流がある。太平洋の黒潮や、大西洋のフォークランド海流のような大洋の西側に発達する海面に近い層の海流はないが、そのかわりに南極周極流は、鉛直方向に2000メートル以上の深い海流循環となる。つまり、海水が上下に混ざり合うこととなる。
3――南極の地域ごとの温暖化
1|南極は西部で温暖化が進んでいる
前章で見たとおり、南極大陸は広く、標高は高い。温暖化の進み具合は、地域ごとに異なっている。IPCC WG1の第6次評価報告書では、南極を東南極半島氷床(East Antarctic Ice Sheet, EAIS)、西南極氷床(West Antarctic Ice Sheet, WAIS)、南極半島(Antarctic Peninsula, AP)の3つの地域に分けたうえで、それぞれの地域で50年以上に渡り気象観測を続けている各国基地の平均気温のデータをもとに、気候変動の様子を下記のように図示している。
EAISでは、昭和基地を含む東部海岸沿いで、統計的に有意な傾向はないとされている基地が多い2。一方、WAISやAPでは、1957~2016年に気温の上昇傾向がある模様だ。特に、APでは大きな上昇が観測されている。南極大陸では、西部、特に南極半島を中心に温暖化が進んでいるものと見られる。
2 信頼係数は90%とされている。
温暖化の結果、氷床が融解して消失している。国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センターの資料によると、温暖化が進む西南極、特にアムンゼン海沿岸では、氷床の消失が大きい。一方、昭和基地のある東南極では、これまでのところ、あまり大きな氷床の変化は見られていない。
4――南極の温暖化
1|気候指数を見ても、昭和基地では温暖化はあまり進んでいない
筆者は、気候変動の慢性リスクを数量的に捉えるために、気候指数の作成に取り組んでいる。これは、1971~2000年の30年間を参照期間として、この期間の平均値から何標準偏差分乖離しているか、という乖離度を用いて気象の極端さを定量化しようとする試みだ。指数作成の詳細については、稿末に列挙している(筆者の過去の関連レポート)をご覧いただきたい。
この気候指数を南極の昭和基地について作成してみる。昭和基地では、最高気温、最低気温、平均風速、平均湿度が半世紀以上に渡って毎日計測されており、そのデータは気象庁のホームページ上で公開されている。今回、このデータをもとに、気候指数を作成した。
やや注目すべき点として、湿度指数の推移が挙げられる。同指数は、2000年代以降上昇傾向にあり、2020年には1.5に迫る時期もあった。直近(2022年秋季(9-11月))では、1を超えており、日本の湿度指数と比べて高い水準となっている。本来、南極は寒冷でかつ乾燥しているとされる。湿度の上昇という形で、乾燥が弱まることで、気候変動の端緒があらわれつつあると言えるのかもしれない。4
3 日本全体の気候指数の詳細については、「気候指数 [全国版] の作成-日本の気候の極端さは1971年以降の最高水準」篠原拓也著(基礎研レポート, ニッセイ基礎研究所, 2023年4月6日)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74427?site=nli をご参照いただきたい。
4 湿度に関する記載内容は、筆者の私見である。
(2023年05月19日「基礎研レター」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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