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- 日米欧のコロナ禍後の資金循環
2023年05月19日
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( 企業の貯蓄投資バランスに景気減速感は見られず )
次に、米国の企業の資金過不足を詳細に見ていく。
まず、米国の企業部門の資金過不足を「資金過不足=貯蓄-投資」と分解して、コロナ禍後の資金過不足の変動を確認すると(図表11)、貯蓄(企業利益・内部留保に相当)がコロナ禍でも(コロナ禍直後を除いて)大きく落ち込んでいないこと、投資の落ち込み幅が限定的であり、かつ迅速に回復したことが分かる(なお、GDP比で見ると世界金融危機時も企業の貯蓄は大きく落ち込まなかった)。また、足もとでも貯蓄は高水準にあり、投資は落ち込みを示しているが、水準としてはまだ高めの状態と言える。家計と異なり、企業の貯蓄投資バランスから読み取れる景気減速感はそこまで強くないように見受けられる。
次に、米国の企業の資金過不足を詳細に見ていく。
まず、米国の企業部門の資金過不足を「資金過不足=貯蓄-投資」と分解して、コロナ禍後の資金過不足の変動を確認すると(図表11)、貯蓄(企業利益・内部留保に相当)がコロナ禍でも(コロナ禍直後を除いて)大きく落ち込んでいないこと、投資の落ち込み幅が限定的であり、かつ迅速に回復したことが分かる(なお、GDP比で見ると世界金融危機時も企業の貯蓄は大きく落ち込まなかった)。また、足もとでも貯蓄は高水準にあり、投資は落ち込みを示しているが、水準としてはまだ高めの状態と言える。家計と異なり、企業の貯蓄投資バランスから読み取れる景気減速感はそこまで強くないように見受けられる。
ユーロ圏の資金過不足も同様の傾向が確認できる(図表12)。(GDP比で見た)貯蓄はコロナ禍の影響それほど受けておらず(むしろやや増加している)、投資もコロナ禍直後に低下したものの、すでにかなり回復している3。米国との比較感では、コロナ禍後におけるユーロ圏の貯蓄増と投資減は米国と比較して相対的に大きく、企業が手元資金を確保する動きが強かったと見られる。前章で述べたユーロ圏企業部門(非金融機関)の資金余剰はこの手元資金確保の動きを反映したものと考えることができるだろう。なお、足もとの状況についてはユーロ圏でも企業の貯蓄投資バランスから読み取れる景気減速はそこまで強くない。
(日本については、企業部門の貯蓄・投資バランスに関する四半期データは公表されていない)
3 ただし、データの制約上、図表12のユーロ圏の総貯蓄については、総投資と資金過不足から逆算して求めている点に留意が必要。
(日本については、企業部門の貯蓄・投資バランスに関する四半期データは公表されていない)
3 ただし、データの制約上、図表12のユーロ圏の総貯蓄については、総投資と資金過不足から逆算して求めている点に留意が必要。
そこで金融部門の資金過不足を、「資金過不足=金融資産の増加-負債の増加」として確認すると(図表13・14)、米国・ユーロ圏ともに、コロナ禍直後から金融機関が資産・負債を両建てで増加させていることが分かる。上述の通り、景気後退期には信用創造が悪化しやすいと見られるが、コロナ禍時には、中央銀行が市中銀行に対して積極的な金融緩和と流動性供給を行い、政府も融資に対して保証を行うなど信用補完を実施したため、市中銀行が企業支援の融資を積極化できており、信用創造が活性化したと見られる。
ただし、図表13・14は金融機関として中央銀行自身も含まれている点には留意が必要であり、資産のうち貸出の増加幅(≒企業や家計への与信)は資産全体の増加幅と比較して小規模にとどまっている。また、足もとの状況を見ると、中銀の金融引き締め転換を反映して貸出に減速感が見られるが、資産・負債の増加幅が急減しているのに対し、貸出の減速感は限定的であり、時系列で見た際の貸出の増加幅も高めの水準にある4。
ただし、図表13・14は金融機関として中央銀行自身も含まれている点には留意が必要であり、資産のうち貸出の増加幅(≒企業や家計への与信)は資産全体の増加幅と比較して小規模にとどまっている。また、足もとの状況を見ると、中銀の金融引き締め転換を反映して貸出に減速感が見られるが、資産・負債の増加幅が急減しているのに対し、貸出の減速感は限定的であり、時系列で見た際の貸出の増加幅も高めの水準にある4。

4 図表13・14は10-12月期までのデータしか反映されていないが、銀行のバランスシートを別の統計で確認すると、23年以降も貸出伸び率は鈍化傾向が続いている。ただし、コロナ禍前の伸び率と比較して大きく鈍化している訳ではない状況にある。例えば、米国はFRED, Loans and Leases in Bank Credit, All Commercial Banks、ユーロ圏はEURO AREA STATISTICS, Banks balance sheet – Loansを参照。
5 日本の22年中盤以降の貸出増加について、円安が進んだために外貨建て貸出の円換算額が急伸を反映して拡大したという要因がある。例えば、上野剛志(2022)「貸出・マネタリー統計(22年7月)~銀行貸出の伸びが急回復、投信の増勢強まる」『経済・金融フラッシュ』2022-08-09を参照。また、図表15は10-12月期までのデータしか反映されていないが、23年入り以降の貸出は(伸び率は鈍化しているものの)堅調に推移している。例えば、上野剛志(2023)「貸出・マネタリー統計(23年3月)~貸出残高の伸びは堅調、長期貸出金利は日銀の政策修正を受けて上昇」『経済・金融フラッシュ』2023-04-13を参照。また、日銀に関しては、22年後半から国債の金利上昇圧力が高まった際に、長期金利を目標に誘導するために大規模に国債を購入したという経緯がある。
( 金融引き締めの波及は道半ば )
以上、欧米を中心に家計・企業・金融機関の資金循環を概観してきた。
いずれもコロナ禍後には積極的な財政政策で家計部門が貯蓄を増加させた後、こうした過剰な貯蓄は解消に向かっている(特に米国はコロナ禍前より貯蓄を減らしている)ことが分かった。また、足もとの金融引き締めを反映して家計・企業部門においては、投資に減速感が見え始めていること、金融部門でバランスシートの急拡大が止まっていることが分かった。ただし、企業投資や金融機関貸出に関して言えば、減速はそれほど鮮明になっていない。
本稿では確認しなかったが、欧米では急速な利上げに加えて3月に発生した米シリコンバレー銀行の破綻の影響もあり、貸出態度が厳格化している。したがって、今後、さらに資金調達環境が厳格化し、投資の減速が鮮明になっていく可能性がある。反面、前章で確認したように企業の貯蓄(利益)は底堅く推移しており、投資の減速もそこまで鮮明ではない。企業を取り巻く状況として、グリーン化や経済安全保障に関連した供給網の再構築への対応、デジタル化など人手不足に対応するための労働生産性向上への取り組みが求められているため、今後もこれらが投資の底堅さに寄与する可能性がある。この場合、利上げによる投資減速、需要の押し下げ効果があまり生じないということになり、インフレ率の鎮静化も遅れる可能性がある。今後、金融引き締めの効果がどのようなペースで波及するかが注目される。
以上、欧米を中心に家計・企業・金融機関の資金循環を概観してきた。
いずれもコロナ禍後には積極的な財政政策で家計部門が貯蓄を増加させた後、こうした過剰な貯蓄は解消に向かっている(特に米国はコロナ禍前より貯蓄を減らしている)ことが分かった。また、足もとの金融引き締めを反映して家計・企業部門においては、投資に減速感が見え始めていること、金融部門でバランスシートの急拡大が止まっていることが分かった。ただし、企業投資や金融機関貸出に関して言えば、減速はそれほど鮮明になっていない。
本稿では確認しなかったが、欧米では急速な利上げに加えて3月に発生した米シリコンバレー銀行の破綻の影響もあり、貸出態度が厳格化している。したがって、今後、さらに資金調達環境が厳格化し、投資の減速が鮮明になっていく可能性がある。反面、前章で確認したように企業の貯蓄(利益)は底堅く推移しており、投資の減速もそこまで鮮明ではない。企業を取り巻く状況として、グリーン化や経済安全保障に関連した供給網の再構築への対応、デジタル化など人手不足に対応するための労働生産性向上への取り組みが求められているため、今後もこれらが投資の底堅さに寄与する可能性がある。この場合、利上げによる投資減速、需要の押し下げ効果があまり生じないということになり、インフレ率の鎮静化も遅れる可能性がある。今後、金融引き締めの効果がどのようなペースで波及するかが注目される。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年05月19日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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