コラム
2023年05月16日

分数について(その5)-学校で学んだ分数を巡る話題-

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はじめに

分数という概念は、小数の概念とは異なり、古代エジプトの時代から使用されていた。ただし、その使用のされ方は、現在とは必ずしも同様なものにはなっていない。

今回は、分数を巡る話題について、5回に分けて報告しているが、第1回目は、その定義、起源、表記法等について、第2回目は、連分数について、第3回目は、既約分数に関係する話題について、第4回目は、分数が日常生活や社会でどのように使われているのかについて、述べた。今回は、小中学校で学ぶ分数を巡る話題について述べることで、改めて分数とは何かについて考えてみたい。

分数の読み方-分母と分子の順番

以前の研究員の眼「分数について(その1)-分数の起源等はどうなっているのか-」(2023.3.28)において、分数の読み方として、中国語や日本語では分母を先に分子を後に読むのに対して、英語では分子を先に分母を後に読んでいる(ドイツ語やフランス語においても同様で、これが世界の主流になっている)、と紹介した。繰り返すと、例えば「2/5」の読み方について、日本語では「5分の2」という読み方をするが、英語では「two fifths」又は「two over five」という読み方をする。

分数(a/b)というのは、その名称が表しているように、基本的には、対象となるものの全体に相当する「分子a」の数をいくつに等しく分けるのかを示す「分母b」の数で割った値、を示している(後に説明する「分数が持つ意味」からすれば、必ずしもこのような考え方だけに基づいているわけではないかもしれないが、それらについてはここでは考慮していない)。その意味では、「分子を主」にして先に読み、「分母を従」にして後に読むという英語の方式は、ある意味で自然な読み方といえるものと考えられる。

我々は、分母や分子という名称に左右されて、どうしても「分母が主」であるかのように感じてしまう(この場合には、分子が分母よりも小さい「真分数」をイメージしているものと思われる)。ただし、よくよく考えてみると、そもそもの分数の考え方の由来ともいえる「対象となるものの全体をいくつに分割するのか」という意味合い(この場合には、むしろ分子が分母よりも大きい「仮分数」をイメージしていることが多いものと思われる)からすれば、全体に相当する「分子を主」と考える方が自然といえることになる。加えて、そもそも、実際の場面においては、分子のaは何らかの単位(重量、距離等)を有する数値であることが多いのに対して、分母のb自体はそうした数値ではないことが多い(もちろん、人数や箱の個数等の意味を有しているかもしれない)ことから、この観点からも「分子が主」という方が適切といえることになると考えられることになる。

なお、

a/b =a÷b

であり、英語では右辺の割り算について「a divided by b」という読み方をしている(因みに左辺の分数についても、先に紹介した2つの方式に加えて、このような読み方もする)が、日本語でもこれを「a割るb」という読み方をしており、分子が先に読まれている。

さらには、日本語の読み方は、上から下の順番に読むのが通常なので、この観点からも分子を先に読む方が日常感覚にフィットしているともいえることになる。分数がわかりにくいことの理由の1つに、このような読み方に対する一種の違和感も関係しているといえるかもしれない。

一方で、中国語や日本語の方式は、分母の数が意味する人数等により焦点が当てられるものになっている。分母のbが全体を表して、分子のaはまさにその一部を表していて、分数のa/bは分子のaが全体のbに占める割合を示していることになる(この場合には、「分母が主」との考え方もできるのかもしれないが、一方でやはりこの場合でも分子の方がより重要な意味合いを有していることから「分子が主」と考えることもできることになる)。

あるいは、「分母の数を分母に持つ単位分数1/b」の「分子の数a」に相当する数を表すような形になっているとも解釈できる。これは、「分母の数を分母に持つ単位分数」が1つの単位の基準として作用する形になるので、「分母が主」になっていると考えられることになる。則ち、算式で示すと

a/b =a×(1/b)

というような感じとなる。

いずれにしても、現在の読み方やそもそもの分母や分子といった名称が広く定着しているので、これを変更するのは至難の業で、却って混乱を招く形になってしまう。しばらくは現在の方式が続いていく形にならざるを得ないということだろう。

(参考)分母や分子に変数xを含む算式や分数が含まれているような場合の読み方
分母や分子に変数xやyを含む算式や分数が含まれている(以下の例の)ような複雑な分数を考える。

(1+2/(x+3))/(4+(5+y)/6)

この分数の英語での読み方については、いくつか考えられるが、例えば以下の通りとなる(左から右へ、上から下への順番に従ったものとなっている)。

One plus two over x plus three divided by four plus five plus y over six  

なお、この読み方で表現される分数は、他にも思い浮かべることができるかもしれない。ただし、この問題は日本語でも同じことが起きている。

分数の読み方-帯分数

帯分数の読み方について、「k・n/m」をどのように読むのかについては、やや当惑される方もいらっしゃると思われる。以前は、「kかm分のn」と読んでいた(大分古い話かもしれない、少なくとも私の年代はそのように習った)。現在は、「kとm分のn」と読むようになっており、「か」から「と」になっている。

元々、明治や大正時代の教科書等でも「と」との読み方が指導されていたようだ。英語では「と」に当たる部分が「and」となっているので、「と」の方が、英語ともマッチしているようだ。

帯分数と仮分数と既約分数

小学校においては、計算途中ではともかくも、最終結果については、仮分数は帯分数に直し、しかも既約分数にするように指導されているようだ。

このような方式に統一することは、確かに分数表示を統一的に一意に定めることができるという意味において、意味があることになる。そもそも、英語でも、仮分数は「improper fraction(不適切な(正しくない、妥当でない)分数)」となっており、分数が部分を意味するという事実に由来していることを反映して、仮分数は本来的な分数ではない、ということを示すような用語になっているようだ。

一方で、帯分数は、英語では「mixed number又はmixed fraction)」(混合数又は混合分数)」となっているが、日本語では、整数を帯びている分数ということに由来して「帯」分数となっているようだ。

そもそも、仮分数は帯分数に直すことにより、ある意味で、分子が分母に比べてどの程度大きいのか(あるいは分数そのものの大きさ)が明確になる。また、何かを等分割する場合に、まずは個々の単体を分割せずに何個を割り当てることができるのか(整数部分)が明示され、その後残り(真分数部分)をどのように分割すればよいのかを考えることができることになる。ある意味で、以前の研究員の眼「分数について(その1)-分数の起源等はどうなっているのか-」(2023.3.23)において紹介した、エジプト式数学の(C方式)に近く、多くの人の納得感が得られる公平な等分割につながっていくことになる。さらには、加減算については、整数部分と真分数部分に分けることで、一般的に計算が楽になるとも考えられる。

一方で、帯分数は、その表記法によっては掛け算と混同される恐れがあり、積と和の混同を避けるためには、帯分数を用いないことが望まれることになる(明示的に整数部分と真分数を+記号で分ければ、そのリスクはなくなる)。さらには、乗除算を行う場合には、帯分数では計算が複雑になることから、結局は仮分数に直して計算を行う形になることが多い。従って、中学校以降は、帯分数は避けられてほとんど使われていないようだ。

既約分数化については、計算式としては、それが効率的で適正なものだということにはなる。ただし、そもそもの分数の分母と分子の持つ意味合いを考慮した場合には、必ずしも適切ではないケースも考えられることになる。具体的には 25/60 が時間に関係している場合には、これを既約分数化して 5/12とするよりも、元の分数のままの方が本来的な時間感覚の意味合いを適切に示していると言えることになる。

分数が持つの5つの意味

ここまで分数について述べてきたが、実は小中学校で分数を教える際には、分数が持つ以下の5つの意味合いに留意して指導することが必要だとされているようだ1

(1) 分割分数あるいは操作分数
全体を等しく分割する操作でできる分数(分割する操作を表す数という意味合いでは「操作分数」と呼ばれることになる)

(2) 量分数
長さや重さ等の単位の付いている分数

(3) 単位分数
分子が1である分数

(4) 割合分数
一方を1とした時に、他方の大きさの割合を表す分数(AはB「の」△/〇という形の表現)

(5) 商分数
整数の除法の商を表す分数

(3)以外の用語については、今まで聞いたことが無く、初めて耳にしたと思われる方も多いかもしれない。また、上記にこれらの用語の定義を述べているが、これらの具体的な意味合いとこれらの意味合いの間の関係を明確に説明するのはなかなか難しいとの印象を受けるかもしれない。

いずれにしても、分数の概念を把握する上では、時と場合によっては、こうした分数の持つ意味合いを十分に意識した上で考察していくことが重要になってくるようだ。こうした点を突き詰めて考えていくと、分数の概念がある意味では単純に思えても、改めて考えてみるとなかなか難しいものだと感じられることになるのではないだろうか。
 
1 単位分数を含めずに、分割分数と操作分数を2つに分けて、5つとする考え方もある。

分数の割り算

分数の割り算というのは、小学生の高学年で学ぶが、なかなか理解しがたいものと認識されているようだ。分数の計算ができない大学生がいるということも時々話題になっているが、この場合も割り算が問題になることが多いようだ。

「分数の割り算は、その逆数(分母と分子を逆にしたもの)を掛ければよい」と言われる(より一般的に、「割り算というのは逆数(元の数にかけると1になる数)を掛けること」であり、「分数の逆数は分母と分子を逆にしたもの」であることから、ということになる)。しかし、なぜそうなのかと言われると、その回答に、はたと困ってしまう人も多いと思われる。

これに対する回答としては、いろいろな説明が行われる。

1つの回答としては、「分母を1にするため」というのがわかりやすいものだと考えられているようだ。即ち、以下のような具合である。

a/b÷c/d=(a/b)/(c/d)=(a/b)×(d/c)/(c/d)×(d/c)
=(a/b)×(d/c)

あるいは、分数c/dはc×1/d と考えられるが、cで割るには分母にcを掛ければよく、1/dで割ることは単位を1/dにして測り直すことなのでd倍すればよい、ことになることから、

a/b÷c/d=(a/b)×(1/c)×d=(a/b)×(d/c)

となる、という説明がある(この考え方のベースには、分数を整数で割ることの意味合いを理解しておく必要があるといえるかもしれない)。

さらには、「割り算の定義に立ち戻って」、x=a/b÷c/d とすると、x×c/d­=a/b となる。ここで、両辺にb×d を掛けると、b×c×x=a×d  となり、これにより、

x=(a×d)/(b×c)=(a/b)×(d/c)

となるという説明がある。

皆さんは、これらの説明で十分に頭がクリアーになっただろうか。却って、頭が混乱してしまったと感じられる方もいらっしゃるかもしれない。結局は、「割る数を逆数にして掛ければよい」ということの証明をしているだけだという批判もありそうだ。かといってこれといったより良い代替案もなさそうだ。

それぞれの説明は数学の重要な考え方に基づいている。どういう考え方が根源にあって、どのような考え方をすればよいのか、一度は深く考えてみるのも大切かもしれない。

最後に

今回は、分数を巡る話題のうち、小中学校で学ぶ分数を巡る話題について、私個人が感じていることを述べることで、改めて分数とは何かについて考えてみた。この分野における専門の研究者というわけでもなく、思い違いをしている部分もあるかもしれないので、あくまでも数学愛好者の1つの意見だということでご理解いただければと思っている。

学生時代に学んだ数学における問題では、小数ではなく分数による表記のものが多かったと思われる(もちろん、√2のような分数表記できない無理数はそのまま使用されている)。これは、小数表記では必ずしも十分には表現できない数字も、分数表記では(有理数である限りにおいては)正確に表現されることから、例えば必要な答えを適切に導き出すことができるということも関係していると思われる。分数表記の算式も、一定のルールに従って、機械的(?)な計算によって解いていくことができることから、これに対して一種の心地よさを感じていた人もいたかもしれない。

ただし、今回のコラムの執筆を通じて、小中学校で学ぶ分数に関して、改めてその意味合い等について考えてみると、実はなかなか難しい問題も抱えているようだ、ということに気付かされた感じがしている。

今回の5回にわたる分数に関する話題のシリーズを通じて、日頃慣れ親しんでいる(?)分数とはいっても、結構興味深い、知的好奇心を刺激される話題が数多くあることを再認識していただければと思っている。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年05月16日「研究員の眼」)

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