コラム
2023年03月28日

分数について(その1)-分数の起源等はどうなっているのか-

中村 亮一

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はじめに

分数という概念は、小数の概念とは異なり、古代エジプトの時代から使用されていた。ただし、その使われ方や表記法等は、必ずしも現在と同様なものにはなっておらず、その後の経緯を経て、現在のような表記法等に至っている。

今回は、分数を巡る話題について、5回に分けて報告することにするが、今回はまずはその定義、起源、表記法等について述べることとする。

分数とは

分数(fraction1は、2つの数の比で数字を表現する方法である。m(≠0)とnを整数とするとき、という形で表現される。

このとき、mを「分母(denominator」、nを「分子(numerator」と呼び、中央の線は、英語で「fraction(al) bar」と呼んでいる。これについては、日本語では「括線」とか「横線又は横棒」、さらには中国での呼び方や英語のそのままの翻訳として「分数線」というような呼び方がされているようだ1。なお、この線は、水平な線「-(horizontal bar)」だけでなく、斜めの線「/(slash/solidus)」や対角線「(fraction slash)」でも表現される(例えば、n/m、)。以下では、基本的には「n/m」方式で記載している。

正の整数 m に対し 、1/m のように分子が 1 である分数を「単位分数(unit fraction)」という。

正の分数の中でも、分子が分母より小さい分数を「真分数( proper fraction」という。真分数は 1 より小さいという性質を持つ。一方で、分子が分母より大きい分数を「仮分数(かぶんすう)(improper fraction」という1

また、自然数と真分数の和 k+n/mの + を省略して、k・n/m と書いた分数を「帯分数(たいぶんすう)(mixed number又はmixed numeral又はmixed fraction」という。なお、kが負の整数、m(≠0)とnが自然数の場合、k・n/m は-(|k|+n/m)を表し、k+n/mを表しているわけではない。

なお、分子と分母が1以外の公約数を持たない整数である分数を「規約分数(irreducible fraction」という。

また、分母や分子がさらに分数を含むような分数を「繁分数(compound fraction」という。

さらには、以下のように、分母が数と分数の和であり、さらにその分母が数と分数の和となる形のものを「連分数(continued fraction」という。
連分数
 
1 英語の「fraction」とは、「端数」、「断片」という意味を有しており、ラテン語の「fractus(壊れた)」に由来しており、全体の一部を指す言葉を表している。なお、分子が整数、分母が10のべき乗の分数(十進法による有限小数)のことを「decimal fraction」という。
2 これについては、各種の意見があるようなので、ここではそれらを全て掲げさせていただいた。「括線」というのは、分数の上下を1つに括る、と言う意味合い、「横線又は横棒」は見た目のストレートな言い方、「分数線」は、英語の直訳でもあり、中国での呼び方に倣う言い方ということになる。
3 負の分数の場合も、分数の絶対値が1未満であるか、1以上であるかによって、真分数や仮分数と呼ばれる。

分数の起源

分数の起源についても、何をもって、それを起源とするのかについての問題がある。

ただし、古くから、人間は、生活の場面において、例えば食料や土地等の1つのものをいくつかに分ける必要性に直面していたことから、分数の考え方が生まれやすかった。また、分数は2つの数字の関係を比で表していたので、一般的にも理解しやすかったようである。

古代バビロニアにおいては、以前の研究員の眼「小数について(その1)-小数の起源・記法はどうなっているのか-」(2023.1.23)で説明したように、楔(くさび)型文字を使用して、「60進法の位取り記数法」で数字が記述され、十進法以外で最古の小数の概念も存在していたとされる。それらの表現の中で、その楔型文字の中に分数を表すような特別な文字も使用されていたようである。

一方で、古代エジプトにおいては、象形文字の一種であるヒエログリフ(Hieroglyph)等4を使用して、「十進法」で数字を記述していたが、位取りの考え方はなかった。その代わりに、報酬の現物支給としての食糧配分や土地の分割等の計算のための必要性から、分数の考え方が幅広く使用されていたと考えられている。

以下では、この古代エジプトにおける分数について、述べることにする。
 
4 古代エジプトにおいては、紀元前4000年頃から、象形文字が使用されたが、時代を経るにつれて、ヒエログリフ(神聖文字)やヒエラティック(神官文字)、さらにデモティック(民衆文字)という文字が使用されていった。

古代エジプトの分数

古代エジプトの分数は、基本的に単位分数しかない。その他の分数は、幾つかの異なる単位分数の和として表される。これを「エジプト分数」又は「エジプト式分数」と呼んでいる。この形式で分数を扱う方法は、紀元前17世紀頃の古代エジプトの数学文書「リンド・パピルス」(あるいは「リンド数学パピルス(Rhind Mathematical Papyrus」と呼ばれる)に記載されている。

ヒエログリフの数字は十進法で、以下のような数字を表す記号を使用している(以下の記号は、あくまでもイメージを把握してもらうために、一般的に広く知られているもの等に基づいて、筆者が作成したもので、実際には各種の形が見られることには留意しておく必要がある)5
ヒエログリフの数字
これらの記号が何を表しているのかについては、いろいろな解釈もあるようだが、例えば、1から9のそれぞれの垂直な棒は短い縄の一片、10はU字型の縄又は籠の取っ手、100は巻いた縄、1000は蓮の花又は睡蓮、10000は、葦かパピルスの草の芽又は指、を表しているようだ。なお、上記の図にはないが、10万はオタマジャクシ又は蛙、100万は星空に向かって手を挙げている神、1000万は太陽の形で神、を表していると言われている記号が使用されている。

具体的な数字を表す場合には、エジプト数字では桁の概念がなかったので、以下のように、1、10,100等のそれぞれの桁を表す文字を複数並べることで、各桁の数字を表していた。
エジプト数字
これに対して、分数は以下のように、分母を表す数字の上に、口を表す象形文字「」を用いて、表された6
エジプト分数
ただし、頻繁に使用する1/2や2/3 いった分数には、特殊な記号が使用されていたようだ。

また、分数が複数の位を有する場合には、最初の位(又は最後の位)の上にだけ口型の記号を書いて、後の数字を横に書いていた。
分数が複数の位を有する場合
なお、エジプト神話における太陽神である「ホルスの目」の各部を用いて表す方式もあった。
ホルスの目
上図の「ホルスの目」のパーツがそれぞれ違う分母の分数を表している。瞳の部分「●」が4分の1、瞳から向かって右側の白目の部分「」が16分の1、左側の白目の部分「」が2分の1、眉毛が8分の1、瞳から右下に向かって伸びている装飾部分が32分の1、瞳から下に垂れている装飾部分が64分の1、を表している。
 
5 あくまでも絵によって文字を表しているので、ここに掲げている図形も、書く人によって、左右が異なっていたり、長さが異なっていたり、さらには若干異なる図形になっていたりする等の違いがある。
6 ヒエラティックによる分数では、分母を表す数字の上に点を置いていた。

リンド・パピルスについて

リンド・パピルス」は、1858年にスコットランドの古物研究家ヘンリー・リンド(Henry Rhind)によって発見されたもので、書記アーメスによって紀元前1650年頃に書かれたことから「アーメス・パピルス」とも呼ばれている7。これには、多くの算術と計算の問題が記録されているが、この第1節には「2で奇数を割る表」として、(インド・アラビア数字で表現すると)2/n(nは5から101までの奇数)の単位分数への分解表が示されている。

具体的には、以下のような感じである。
リンド・パピルス
 
7 この資料は、紀元前約2000年から1800年の文書が筆写されたものとされ、ヒエラティックが使用されている。

任意の1より小さい分数は異なる単位分数の和に分解できる

任意の1より小さい正の分数は、異なる単位分数に分解する(これを「単位分数分解」という)ことができる。これは、有理数p/q(0<p<q)に対して、q=pa+r(rは余り)とすると、
単位分数分解
となることにより、単位分数と元の数よりも小さい分子を有する分数に分解できることから、これを繰り返していくことで、有限回で単位分数に分解できることによる。ただし、いくつの単位分数の和に分解できるのかは自明でない。

また、ある分数を(異なる)単位分数の和に分解する方法の数についても、一通りではなく、複数存在している(実は、単位分数自体もさらに単位分数分解できるので、単位分数分解の方法は無限通りあることになるようだ)。

例えば、

3/ 5=1/5+ 1/3+1/15
         =1/2+1/10

といような具合である。

因みに、先のリンド・パピルスの単位分数への分解が、数多くある分解方式の中から、どのような考え方に基づいて、特定の方式が選択されているのかについては、一定程度の法則が観測されているという分析等もあるようだが、必ずしも全てのケースに当てはまっているというわけでもなく、その意味では明確にはなっていないようだ。
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