- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 保険計理 >
- 無理数について(その3)-無理数はどのようなところに現れてくるのか-
はじめに
無理数が現れてくる状況
√2は、1辺が1の正方形の対角線の長さである。πは、直径が1の円周の長さである。eは、自然対数の底として、指数関数に使用されている。
ところが、無理数は他にも数多くの場面で現れてくる。以下では、これらについて紹介する。
「独立な同一の分布に従う確率変数の算術平均の分布は、元の確率変数に標準偏差が存在するならば、元の分布の形状に関係なく、変数の数が多数になったとき、正規分布に収束する」という中心極限定理により、大標本の平均値の統計では、正規分布が仮定されることが非常に多くなる。従って、正規分布は統計学上極めて重要なものとして位置付けられ、大変有用なものとなっている。
正規分布を用いることで、各種の検定や推定が行われることになる。
三角関数に現れる無理数
指数関数・対数関数に現れる無理数
・0でない代数的数aに対するea (よって、en(nは整数)は超越数である)
・0でない代数的数a、bに対するe(aπ+b)
・代数的数α(≠0、1)に対するlogα
最後の例からわかるように、対数関数で表現される数にも、無理数が溢れている形になっている。
ギリシアの3大作図問題
そこで述べたことを繰り返すと以下の通りとなる。
「定規とコンパスによって作図可能となるには、作図のために必要な点が、(作図可能な数で表された)1次方程式や2次方程式を繰り返し解いて得られる範囲にあることが必要で、そのような条件を満たさない点がある場合には、作図不可能ということになる。」
以上を「ギリシアの3大作図問題」に当てはめてみると、以下の通りとなる。
問題1(円積問題)
半径1の円の面積はπ(円周率)なので、この円と同じ面積を持つ正方形の1辺の長さは√π となる。πは超越数で代数的数ではないので、上記の条件を満たしていない。
問題2(立方体倍積問題)
与えられた立方体の1辺の長さを1とすると、求めたい立方体の1辺の長さXは、X3=2 ということになるが、これは3次方程式であることから、上記の条件を満たしていない。
問題3(角の3等分問題)
与えられた角をθとすると、cos(θ/3)が分かれば、そこから直線を立てて、半径1の円との交点を求めることで、角を3等分できることになる。
A=cos θ、 X=cos(θ/3)とすると、cosの3倍角の公式(高校の数学で学んだ記憶がある人もあると思われる)により、4X3-3X-A=0 となる。これも3次方程式であることから、上記の条件を満たしていない。
このように、ギリシアの3大作図問題には無理数が現れてくることになっている。
先の研究員の眼で報告したように、問題2(立方体倍積問題)と問題3(角の3等分問題)は1837年に、フランス人数学者ピエール・ローラン・ヴァンツェル(Pierre Laurent Wantzel)によって解決され、問題1(円積問題)は、1882年にドイツ人数学者フェルディナント・フォン・リンデマン(Carl Louis Ferdinand von Lindemann)によって、πの超越性の証明が行われたことで解決した。古代ギリシアの時代に素朴に感じられた問題が、2000年の時を経て、やっと解決された形になっている。
最後に
無理数と言われると、何か難しいものでとっつきにくいものだと感じてしまうと思われる。ところが、無理数は社会の中に満ち溢れていて、それを多くの人が、それと認識することなく利用している。また、それらの無理数の利用により、多くの恩恵を受けている。
√2もπもeも、それらが無理数であることは、数学的には重要なことで、そのためにそれを表す特別な数学記号も存在していたりする。ところが、殆どの人にとっては、これらの数を厳密に知っている必要はなく、何となくこんなものだよね、というぐらいで、√2なら1.41ぐらい、πなら3.14ぐらい、eに至ってはそのおおまかな水準すらも十分に認識されているとは思われず、ましてやこれらが無理数であることは大きな意味を有していないものと思われる。
それでも基本的には何ら問題は起こっていない。理論的には厳密な分析が行われていく必要はあるが、現実世界においては近似値や、結果だけを知っていれば、それだけで十分である。
以上、今回は3回にわたって、無理数について報告してきた。今回のレポートを契機に、無理数に少しでも親しみを持っていただければと思っている。
中村 亮一
研究・専門分野
(2022年01月04日「研究員の眼」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年04月18日
サイレントマジョリティ⇒MAGAで熱狂-米国大統領選挙でリベラルの逆サイレントマジョリティはあるか- -
2024年04月18日
「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向【2023年】(1)~東京23区の新築マンション価格は前年比9%上昇。資産性を重視する傾向が強まり、都心は+13%上昇、タワーマンションは+12%上昇 -
2024年04月17日
IMF世界経済見通し-24年の見通しをやや上方修正 -
2024年04月17日
不透明感が高まる米国産LNG(液化天然ガス)輸入 -
2024年04月17日
英国雇用関連統計(24年3月)-失業率は増加し、雇用者数も減少
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【無理数について(その3)-無理数はどのようなところに現れてくるのか-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
無理数について(その3)-無理数はどのようなところに現れてくるのか-のレポート Topへ