2023年05月12日

物流市場は空室率が大きく上昇。J-REIT市場は調整が続く-不動産クォータリー・レビュー2023年第1四半期

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2022年第4四半期は前年比でシングルタイプが+1.2%、コンパクトタイプが+0.6%、ファミリータイプが+1.9%となった(図表-11)。住宅系REIT(主要5社)の運用実績を確認すると、テナント入れ替え時の賃料変動率は2022年上期をボトムに反転し足もとでは上昇率が拡大している(図表-12)。
図表-11 東京23区のマンション賃料
図表-12 住宅系REIT(主要5社)のテナント入れ替え時における賃料変動率
総務省によると、東京23区の転入超過数(2023年1-3月累計)は+39,026人(2019年同期比▲1%)となりコロナ禍前の水準を回復した(図表-13)。昨年は5月以降、月次ベースで微減の動きが続いたが、今後はコロナ禍前と同様に転入超過のトレンドを維持できるか注目される。
図表-13 東京23区の転入超過数(各年の月次累計値、2019年1月~2023年3月)
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、インバウンド消費が好調な百貨店を中心に売上が回復している。商業動態統計などによると、2023年1-3月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+14.5%、コンビニエンスストアが+5.0%、スーパーが+0.8%となった(図表-14)。3月単月では、百貨店が+9.9%(13カ月連続プラス)、コンビニエンスストアが+5.8%(13カ月連続プラス)、スーパーが+0.7%(6カ月連続プラス)となっている。
図表-14 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
ホテル市場は、昨年10月以降、全国旅行支援や水際対策緩和などを背景に急回復を示し、日本人の宿泊需要はコロナ前を上回って推移している。宿泊旅行統計調査によると、2023年1-3月累計の延べ宿泊者数は2019年対比で▲5.1%の水準まで回復し、このうち日本人が+1.0%、外国人が▲29.0%となった(図表-15)。また、STR社によると、3月のホテルRevPARは2019年対比で全国が+9.3%、東京が+12.2%、大阪が+4.2%と収益改善が進んでいる。
図表-15 延べ宿泊者数の推移(2019年同月比、2020年1月~2023年3月)
物流賃貸市場は、首都圏・近畿圏ともに新規供給の影響を受けて空室率が上昇した。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2023年3月末)は8.2%(前期比+2.6%)に上昇した(図表-16)。今期は新規供給が四半期ベースで過去最大の32.4万坪であったのに対して需要が15.4万坪となり、竣工時の稼働率は33%にとどまった。近畿圏についても空室率が4.6%(前期比+2.9%)に上昇した。来期は新規供給がなく第3四半期も4.5万坪に留まるため、近畿圏の空室率は今後低下に向かうとのことである。

また、一五不動産情報サービスによると、2023年1月の東京圏の募集賃料は4,510円/月坪(前期比▲4.0%)に下落した6
図表-16 大型マルチテナント型物流施設の空室率
 
6 J-REITが所有する物流施設は賃料の増額改定が続いている。GLP投資法人(2023年2月期)の賃料上昇率は+6.9%、日本プロロジスリート投資法人(2022年11月期)の改定賃料変動率は+3.6%であった。

4. J -REIT(不動産投信)市場

4. J -REIT(不動産投信)市場

2023年第1四半期の東証REIT指数(配当除き)は昨年末比▲5.7%となり、四半期ベースでは7四半期連続で下落した。セクター別では、オフィスが▲6.8%、住宅が▲2.3%、商業・物流等が▲5.6%下落した(図表-17)。昨年12月の日本銀行による金融政策の修正を受けて、金利上昇の影響を見極めるべく様子見姿勢が強まるなか、東証REIT指数は昨年来安値を更新する動きとなった。3月末時点のバリュエーションは、純資産11.5兆円に保有物件の含み益5.1兆円を加えた16.6兆円に対して時価総額は15.7兆円でNAV倍率7は0.90倍、分配金利回りは4.2%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.9%となっている。
図表-17 東証REIT指数の推移(2022年12月末=100)
J-REITによる第1四半期の物件取得額は3,674億円(前年同期比+2.0%)となった。アセットタイプ別では、オフィス(50%)・住宅(15%)・商業施設(14%)・物流施設(12%)・ホテル(8%)・底地ほか(1%)となり、オフィスの比率が高まる一方、これまで物件取得の牽引役であった物流施設の比率が大きく低下した(図表-18)。
図表-18 J-REITによるアセットタイプ別取得割合
J-REIT市場は、昨年12月の金融政策修正を受けて調整局面が続くが、今後の金利上昇リスクをどの程度織り込んでいるのか、一定の前提条件のもと確認したい(図表-19)。ニッセイ基礎研究所の推計によると、日銀が市場機能の回復に向けて現在の「長短金利操作(YCC、イールドカーブ・コントロール)」を撤廃した場合、10年金利の理論値は約1.0%となる8。これに、イールドスプレッドの過去平均値(3.5%)を加えた水準を適正利回りとした場合、分配金利回りは4.5%となり、東証REIT指数1680(3月末対比▲6%)がひとまずの下値目処となる。また、3月末時点の東証REIT指数(1786)は、10年金利が今後0.7%~0.8%に上昇するリスクを既に織り込んだ水準だと考えられる。もっとも、将来の金利上昇を見込んでREIT指数が下値を切り下げるなか、J-REITが保有する不動産価値に基づいて算出されるNAV倍率は1倍を下回り、割安感が強まっている。

4月に入り、植田日銀新総裁の就任会見(4/10)での発言を受けて、J-REIT市場は早期の金融緩和修正が遠のいたとして反発に転じている。このようにしてみると、現在の市場は、金利上昇リスクを重視するのか、それともNAV倍率を重視するのか、先行きの見方に強弱感が対立しており、今後の日銀の金融政策を睨んで適正水準を模索する過程にあると言えそうだ。
図表-19 J-REIT市場のバリュエーション表(10年金利別)
 
7 NAV倍率は、市場時価総額がリートの解散価値(NAV:Net Asset Value)の何倍で評価されているかを表わす指標。
8 福本勇樹『YCCを撤廃した際の長期金利水準を推定する~日銀の金融緩和政策による長期金利の下押し効果の測定』(ニッセイ基礎研究所、基礎研レター、2023年3月13日)
 
 

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年05月12日「不動産投資レポート」)

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