2023年04月28日

2023年1-3月期の実質GDP~前期比0.1%(年率0.3%)を予測~

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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● 1-3月期は年率0.3%を予測~低成長が続く

2023年1-3月期の実質GDPは、前期比0.1%(前期比年率0.3%)とかろうじてプラス成長を確保したと推計される1

海外経済の減速を背景に輸出が前期比▲2.4%の減少となり、外需が成長率を押し下げた(前期比・寄与度▲0.3%、年率▲1.2%)ことに加え、設備投資(前期比▲0.1%)、住宅投資(同▲0.2%)も小幅な減少となったが、外食、旅行などの対面型サービスを中心に民間消費が前期比0.4%と高めの伸びとなったことから、かろうじてプラス成長を確保したとみられる。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が0.4%(うち民需0.2%、公需0.1%)、外需が▲0.3%と予測する。
 
名目GDPは前期比1.2%(前期比年率4.7%)と2四半期連続の増加となり、実質の伸びを大きく上回るだろう。GDPデフレーターは前期比1.1%(10-12月期:同1.1%)、前年比2.2%(10-12月期:同1.2%)と予測する。輸入物価の上昇を国内に価格転嫁する動きが広がり、国内需要デフレーターが前期比0.6%の上昇(10-12月期:同0.7%)となったことに加え、原油価格の下落や円安の一服を反映し、輸入デフレーターが前期比▲4.3%の低下となり、輸出デフレーターの伸び(前期比▲3.2%)を下回ったことがGDPデフレーターを押し下げた。
交易利得の推移 輸出入デフレーターの差によって生じる所得の実質額を表す交易利得(損失)は、原油高や円安の一服により、2022年10-12月期に8四半期ぶりの増加となった後、2023年1-3月期は前期差2.4兆円と2四半期連続で増加することが見込まれる。

この結果、実質GDPに交易利得を加えた実質GDIは、前期比0.5%(前期比年率2.0%)となり、実質GDPの伸びを大きく上回ることが予想される。
 
5/17に内閣府から2023年1-3月期のGDP速報が発表される際には、基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから、成長率が過去に遡って改定される。当研究所では、2022年10-12月期の実質GDP成長率は設備投資、外需の下方修正などにより、前期比年率0.1%のプラス成長から同▲0.4%のマイナス成長へと下方修正されると予想している。

この結果、2022年度の実質GDP成長率は1.1%(2021年度は2.6%)、名目GDP成長率は1.9%(2021年度は2.4%)といずれも2年連続でプラスとなることが見込まれる。2022年度のGDPの水準は名目では2019年度を上回るが、実質では2019年度に届かないだろう。

四半期ベースでは、2023年1-3月期の実質GDPは、コロナ前(2019年10-12月期)の水準を1.0%上回るが、消費税率引き上げ前のピーク(2019年7-9月期)を▲1.9%下回ることが見込まれる。経済の正常化にはまだかなりの距離がある。

2023年4-6月期は、欧米を中心とした海外経済の減速を背景に輸出の低迷が続く一方、経済社会活動の正常化に伴う民間消費の増加が続くことから、現時点では年率1%程度のプラス成長を予想している。
 
1 4/28までに公表された経済指標をもとに予測している。今後公表される経済指標の結果によって予測値を修正する可能性がある。

●主な需要項目の動向

● 主な需要項目の動向

・民間消費~物価高の逆風下でも底堅さを維持~
民間消費は前期比0.4%と4四半期連続の増加を予測する。消費者物価は高い伸びが続いているが、高水準の貯蓄や全国旅行支援による下支えもあって、消費は一定の底堅さを維持した。
消費関連指標の推移 2023年1-3月期の消費関連指標を確認すると、自動車販売台数は、供給制約の緩和を受けて、前期比5.7%(10-12月期:同9.9%)の増加となったほか、全国旅行支援の後押しもあり国内旅行が持ち直していること、水際対策の緩和を受けてインバウンド需要が急回復していることから、延べ宿泊者数が前期比7.2%(10-12月期:同6.0%)の高い伸びとなった。

また、外食産業売上高は物価高の悪影響を受けながらも、経済活動の正常化が進む中で前期比0.9%(10-12月期:同1.0%)と堅調を維持した。(いずれもニッセイ基礎研究所による季節調整値、外食産業売上高、百貨店売上高は消費者物価指数で実質化)。
・住宅投資~資材価格の高騰が下押し要因に~
住宅投資は前期比▲0.2%と7四半期連続の減少を予測する。
新設住宅着工戸数の推移 新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2019年10月の消費税率引き上げ後に90万戸を割り込んだ後、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した2020年度入り後に80万戸程度へと水準を大きく切り下げた。2021年度以降は80万戸台半ばで一進一退の推移が続いているが、資材価格の高騰が住宅投資の下押し要因となっている。
 
・民間設備投資~輸出、生産の低迷から弱めの動き~ 
民間設備投資は前期比▲0.1%と2四半期連続の減少を予測する。

設備投資の一致指標である投資財出荷指数(除く輸送機械)は2022年10-12月期の前期比▲5.8%の後、2023年1-3月期は同▲4.8%と2四半期連続で低下した。また、機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は2022年10-12月期に前期比▲4.7%と2四半期連続で減少した後、2023年1、2月の平均は10-12月期を4.7%上回っている。

日銀短観2023年3月調査では、2022年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が前年度比11.5%の高い伸びとなった。また、2023年度の当初計画は前年度比5.6%となり、2022年度の当初計画(同3.4%)を上回った。

設備投資は、高水準の企業収益を背景に、基調としては持ち直しの動きが続いていると判断されるが、2022年度後半は輸出、生産活動の停滞を受けて足踏みとなった。
設備投資関連指標の推移/設備投資計画(全規模・全産業)
・公的固定資本形成~2四半期ぶりの増加~
公的固定資本形成は前期比1.8%と2四半期ぶりの増加を予測する。
公共工事請負金額、出来高の推移 公共工事の先行指標である公共工事請負金額は2020年10-12月期から減少が続いていたが、2023年1-3月期は前年比14.7%と10四半期ぶりに増加した。また、公共工事の進捗を反映する公共工事出来高(建設総合統計)は、2022年10-12月期に前年比1.8%と6四半期ぶりの増加となった後、2023年1、2月の平均は同7.6%と伸びを高めている。

公的固定資本形成は、補正予算の効果などから増加している。
・外需~2四半期ぶりのマイナス~ 
外需寄与度は前期比▲0.3%(前期比年率▲1.2%)と2四半期ぶりのマイナスを予測する。海外経済の減速を背景に財貨・サービスの輸出が前期比▲2.4%と5四半期ぶりに減少した。水際対策の緩和に伴う訪日客数の増加からサービス輸出が前期比6.3%の増加となったが、財輸出の落ち込み(前期比▲4.5%)をカバーするには至らなかった。財貨・サービスの輸入は前期比▲1.0%と2四半期連続で減少したが、輸出の落ち込みが大きかったため、外需は成長率の押し下げ要因となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 2023年1-3月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比▲0.8%(10-12月期:同▲5.4%)、EU向けが前期比▲7.5%(10-12月期:同▲0.2%)、アジア向けが前期比▲4.4%(10-12月期:同▲7.0%)、うち中国向けが前期比▲9.9%(10-12月期:同▲13.3%)、全体では前期比▲3.9%(10-12月期:同▲3.5%)となった。

海外経済の減速を受けて、主要国・地域向け全ての輸出が低迷している。品目別には、自動車は持ち直しの動きが見られるが、世界的な半導体関連需要の低迷を受けて、半導体等電子部品、通信機などのIT関連の減少が続いている。

先行きの輸出は、ゼロコロナ政策終了後の景気回復が期待される中国向けが持ち直すものの、金融引き締めの影響で景気減速がより鮮明となることが見込まれる欧米向けを中心に低迷が続く可能性が高い。
日本・月次GDP 予測結果
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2023年04月28日「Weekly エコノミスト・レター」)

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