2023年03月02日

法人企業統計22年10-12月期-製造業の収益改善が足踏みとなるが、設備投資は堅調を維持

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.8四半期ぶりの減益

経常利益の推移 財務省が3月2日に公表した法人企業統計によると、22年10-12月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比▲2.8%(7-9月期:同18.3%)と8四半期ぶりの減益となった。非製造業は前年比5.2%(7-9月期:同5.6%)と増益を確保したが、製造業が前年比▲15.7%(7-9月期:同35.4%)と9四半期ぶりの減益となった。
製造業は、海外経済の減速を背景とした輸出の低迷を受けて、売上高の伸びが7-9月期の前年比12.1%から同9.2%に鈍化したことに加え、売上高経常利益率が21年10-12月期の8.4%から6.5%に悪化したことが収益の押し下げ要因となった。売上高経常利益率を要因分解すると、人件費が前年比0.2%と売上高の伸びを大きく下回り、売上高人件費率が改善したが、円安、原油高の影響で変動費が前年比13.6%の高い伸びとなり、利益率を大きく押し下げた。

非製造業は、売上高が7-9月期の前年比6.7%から同4.9%へと若干減速したが、売上高経常利益率が5.8%と2021年10-12月期と同水準となり、増益を確保した。製造業と同様に変動費要因がマイナスとなったが、人件費要因、金融費用要因のプラスがそれを打ち消した。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)

2.製造業は減益となるが、対面型サービス業の収益は改善

経常利益を業種別に見ると、製造業は、輸送用機械(前年比28.8%)、生産用機械(同28.0%)、業務用機械(同23.0%)は増益が続いたが、情報通信機械(同▲34.4%)、食料品(同▲24.8%)、化学(同▲26.9%)が大幅減益となったことに加え、石油・石炭が赤字(▲2,088億円)に転じた。

非製造業は、電気業が5四半期連続の赤字(▲5,024億円)、情報通信業(前年比▲22.9%)、サービス業(同▲11.8%)が減益となったが、建設業が6四半期ぶりの増益(前年比0.7%)となり、不動産業(同30.4%)、物品賃貸業(同17.2%)が高い伸びとなったことがそれをカバーした。非製造業の中で、コロナ禍の悪影響を強く受けた対面型サービス業についてみると、生活関連サービス業が3四半期連続、飲食サービス業が2四半期ぶり、宿泊業が4四半期ぶりの黒字となるなど、徐々に正常化しつつある。
経常利益(季節調整値)の推移 季節調整済の経常利益は前期比▲1.4%(7-9月期:同▲7.3%)と2四半期連続で減少した。非製造業は前期比16.5%(7-9月期:同▲15.3%)の高い伸びとなったが、製造業が前期比▲23.7%と大きく落ち込んだ。

22年10-12月期の経常利益(季節調整値)は22.5兆円となり、過去最高となった22年4-6月期から▲8.6%低い水準となったが、コロナ禍前の19年平均の水準は上回っている。企業収益の改善は足踏みとなったものの、依然として高水準を維持している。

22年10-12月期は、円安、資源高によるコスト増が続く中、非製造業は国内需要の持ち直しを受けて収益が改善したが、海外経済減速に伴う輸出、生産活動の落ち込みを主因として、製造業の収益は大きく悪化した。

先行きについては、個人消費を中心とした国内需要の増加が下支えとなるものの、金融引き締めに伴う欧米経済の減速を背景に輸出の低迷が続くことから、製造業の収益環境は厳しい状態が続くことが見込まれる。23年前半の企業収益は横ばい圏の動きとなることが予想される。

3.設備投資は底堅さを維持

設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比7.7%(7-9月期:同9.8%)と7四半期連続で増加したが、前期から伸びが鈍化した。製造業が前年比6.0%(7-9月期:同8.2%)と7四半期連続、非製造業が前年比8.6%(7-9月期:同10.7%)と2四半期連続で増加した。

季節調整済の設備投資(ソフトウェアを含む)は前期比0.5%(7-9月期:同2.3%)と5四半期連続で増加した。製造業が前期比0.4%(7-9月期:同▲3.7%)、非製造業が前期比0.5%(7-9月期:同5.6%)となった。

企業収益の改善は足もとで一服しているが、それまで増加が続いたことによる潤沢なキャッシュフローを背景に設備投資は堅調を維持している。

4.10-12月期・GDP2次速報は上方修正を予想

本日の法人企業統計の結果等を受けて、3/9公表予定の22年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.3%(前期比年率1.0%)となり、1次速報の前期比0.2%(前期比年率0.6%)から上方修正されるだろう。

設備投資は1次速報の前期比▲0.5%から同▲0.3%へ上方修正されると予想する。

設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比6.3%(7-9月期:同8.0%)と7四半期連続で増加したが、前期から伸びが鈍化した。法人企業統計ではサンプル替えや四半期毎の回答企業の差によって断層が生じるが、当研究所でこの影響を調整したところ、前年比7%台後半と公表値を上回る伸びとなった。また、金融保険業の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比▲3.4%(7-9月期:同65.2%)の減少となった。
2022年10-12月期GDP2次速報の予測 1次速報段階では、設備投資の需要側推計値は前年比6.4%となっていた。本日の法人企業統計の結果は設備投資の上方修正要因と考えられる。

また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映され、1次速報の前期比・寄与度▲0.5%から同▲0.4%へと上方修正されるだろう。

その他の需要項目では、公的固定資本形成は12月の建設総合統計の結果が反映され、前期比▲0.5%から同0.1%へ上方修正されると予想する。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2023年03月02日「経済・金融フラッシュ」)

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