2023年04月27日

少子化進行に対する意識と政策への期待(1)-経済要因は共通認識だが、子育て中の女性で身体・精神的負担が上回る、若者ほど経済面以外の負担も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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(2) ライフステージ別~子育て世帯と高齢世帯で懸念強く、子の年齢が低いほど身体・精神的負担が強い
ライフステージ別には、第一子小学校入学や中学校入学、また、第一子独立以上で多方面に渡って懸念は強い傾向がある(図表4(a))。

各要因の順位を見ると、いずれも経済的要因が首位あるいは2位にあがる(図表4(b))。また、子どもの年齢が低い子育て世帯ほど「身体・精神的負担」が上位にあがる傾向がある。なお、ライフステージ別の結果を性別に見ると(図表略)、「身体・精神的負担」について、そう思う割合は、特に第一子小学校入学の女性(70.1%)で高く(男性は50.8%)、前項で30歳代を中心とした女性で「身体・精神的負担」の順位が高かった傾向と一致する。
図表4 ライフステージ別に見た少子化の原因に対する意識
(3) 職業別~管理職層などは相対的に経済面の懸念が弱く、学生は経済・身体・精神的負担懸念が強い
職業別には、女性比率の高い専業主婦・主夫に加えて、比較的高齢者比率の高い嘱託・契約社員や経営者・役員で多方面に渡って懸念は強い傾向がある(図表5(a))。

また、各要因の順位を見ると、公務員(管理職)を除くと、いずれも経済的要因が首位あるいは2位にあがる(図表5(b))。一方、公務員(管理職)では首位は「未・非婚化」(57.9%)であり、次いで僅差で「価値観変容」(56.1%)が続き、経済的要因(各43.9%)を大幅に上回る。また、正社員・正職員(管理職)でも経済的要因が上位にあがるものの、首位は「価値観変容」(60.6%)である。 

つまり、安定した雇用環境にある高収入層では経済的要因への懸念が相対的に弱い傾向があるようだ。また、学生では経済的要因と同率で「身体・精神的負担」(58.1%)も首位を占め、現在の子育て世代に対して、経済面のみならず身体や精神的な負担の大きさも感じている様子がうかがえる。
図表5 職業別に見た少子化の原因に対する意識

3――結婚や子どもを持つ希望

3――結婚や子どもを持つ希望~女性は年齢とともに急激に減退、30歳代で子を持つ希望は男性を下回る

未婚者で子どものいない回答者に対して、「いずれ結婚したいと考えている」かどうかについてたずねたところ、そう思う層は男女とも20歳代(男性41.0%、女性46.1%)で最も高くなっている(図表6(a))。30歳代以降は、男性では20歳代から30歳代にかけて大幅に低下(30歳代25.5%で20歳代より▲15.5%pt)した後は横ばい・微増で推移し、50歳代で29.0%を占める。一方、女性では年齢とともに大幅に低下し、50歳代(8.6%)では1割未満となる。

また、「いずれ子どもを持ちたいと考えている」かどうかについては、そう思う層は、結婚と同様、男女とも20歳代(男性28.7%、女性36.6%)で最も高くなっている(図表6(b))。30歳代以降は、男性では結婚で見られた傾向と比べて少し後ろにずれた形で、30歳代から40歳代にかけて大幅に低下(30歳代24.5%、40歳代14.4%で30歳代より▲10.1%pt)した後は横ばい・微増で推移し、50歳代で16.0%を占める。一方、女性では結婚と同様、年齢とともに大幅に低下し50歳代(1.7%)では僅かとなる。
図表6 結婚や子どもを持つ希望(未婚、子なし)(次に続く)
図表6 結婚や子どもを持つ希望(未婚、子なし)(前からの続き) 男女を比べると(図表6(c))、結婚の希望も子どもを持つ希望も、女性は年齢とともに急激に減退するため、20歳代では女性の方が男性より強い希望があるものの、30歳代で逆転し始め、40歳代以降では男女差は拡大する。

背景には、女性にとって子どもを持つことは出産が可能な年齢と直結することがあげられる。一方で、出生数の多い30歳代でも女性が子どもを持つ希望が男性を下回る背景には、先に見た通り、日本では家事育児の分担が妻側に偏っている影響も考えられる。30歳代の未婚女性は同年代の子育て中の女性の負担の大きさを見て、子どもを持つことを躊躇する部分もあるのかもしれない。また、30歳代は管理職への登用が増え始め、仕事のキャリアを考える上でも重要な時期であり、男性と比べて出産や育児による影響を受けやすい女性を躊躇させる要因にもなり得るだろう。

4――まとめ

4――まとめ~経済基盤の安定化や子育て負担軽減策、30歳代での希望大幅減退に対する対策が必要

本稿ではニッセイ基礎研究所が実施した調査に基づき、少子化進行に関わる原因についての意識や未婚者の結婚や子どもを持つ希望について捉えた。その結果、少子化の原因には経済的要因があることは共通認識としてありつつ、子育て中の女性では身体・精神的負担の強さが経済的要因を上回り、若者では経済面以外の負担の大きさ(身体・精神的負担、時間の無さ)も感じている様子が見られた。

また、未婚者の結婚や子どもを持つ希望については、男女とも年齢とともに弱まるが、男性の結婚意欲は30~50歳代で変わらない一方、女性は急激に減退していくことが特徴的であった。

少子化対策を考える場合、既出レポートでも繰り返し述べてきた通り、将来を担う世代の経済基盤の安定化を図る必要がある(非正規雇用の若者の正規化、正規雇用女性の就業継続など)。加えて、女性の家事・育児の負担感の強さを見れば、引き続き、子育て支援サービスの拡充や男性の育児休業の促進などによって、負担感を低減させる取り組みも必須だ。また、20歳代から30歳代にかけて結婚や子どもを持つ希望が大幅に減退するわけだが、この理由やタイミングについての更なる深堀に加えて、より若い年代に向けて結婚や子どもを持つこと、また子育てにかかる給付金や支援サービスの内容についての啓蒙活動の必要性も感じられる。

次稿では政府の「次元の異なる(異次元の)少子化対策」への期待について見ていく。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2023年04月27日「基礎研レポート」)

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