コラム
2023年04月26日

ふるさと納税のウソ、ホント(4)-返礼品が一時所得として課税されるってホント?

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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【返礼品が一時所得として課税されるってホント?】

ふるさと納税に伴い返礼品を受け取った場合、返礼品の時価相当額は一時所得として取り扱われる。返礼品は受け取る前段階で返礼品の3倍以上の寄付をしているはずだが、寄付額は経費ではない。寄付とは経済的利益の無償の供与なのだから、寄付が返戻品を得るための経費であるはずがない。
 
一方で、ふるさと納税をして返礼品を受け取っている人は少なくないはずなのに、受け取った返礼品の分だけ、税金を多く支払う人が少ないのはなぜか。答えは、一時所得は年間50万円以下なら税金を支払う必要が無いからである。50万円を超える返礼品を受け取るためには、返礼品の時価が寄付金の3割だとすると167万円以上の寄付が必要であるが、2,000円の負担で済むふるさと納税の寄付額上限が167万円を上回る高額所得者はあまりいない。
 
しかし、返礼品以外にも一時所得がある場合は注意が必要だ。他の一時所得との合計額で課税か非課税かが決まるので、高額所得者でなくとも課税されるケースがある。返礼品の他に、生命保険の一時金や、懸賞や福引で受け取った金品、近年ではマイナポイントや全国旅行支援の割引(含むクーポン)、プレミアム付商品券のプレミアム相当分等も一時所得となる。
 
つまり、ふるさと納税に伴い受け取った返礼品は課税対象か否かという質問に対する回答は、「課税対象となるのが原則だが、一時所得の合計額が50万円以下なら非課税」となる。

【一時所得か雑所得か?】

競馬や競輪などの払戻金も「営利を目的とする継続的行為から生じた所得でない限り」一時所得として取り扱われる。一方で営利を目的とする継続的行為から生じたものなら、一時所得ではなく雑所得として取り扱われる。競馬の払戻金が一時所得か雑所得かの議論は、たまにマスコミでも取り上げられるので、見聞きしたことがある人もいるのではないだろうか。実は、ふるさと納税の返礼品についても、取引の態様によっては雑所得とするのが妥当と指摘する論考がある1
 
一時所得は、上述の通り50万円以下なら非課税だし、50万円を超えても課税対象は50万円を超えた金額の半分である。雑所得は、一定金額以下なら非課税だとか、一定金額を超えた分の半分だけ課税対象といった取り扱いはなく、収入とその収入を得るためにかかった経費との差額がそのまま課税対象となる。競馬の場合は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」と判断され雑所得として取り扱われると、外れ馬券の購入代金が所得税法上の必要経費として認められ、課税対象の金額は低くなる。このため、雑所得として取り扱い、外れ馬券の購入代金を必要経費として認めるよう不服申立てする人もいる。一方、ふるさと納税の返礼品の場合は、そもそも経費が無いので、もし「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」と判断され、返戻品が雑所得とされると課税対象の金額は高くなる。
 
現時点では、一時所得として取り扱われることになっているので、悩む必要もないのだが、もし、雑所得となった場合に、国全体の税収がどれくらい増えるのだろうか。単純に考えると、ふるさと納税の返礼品が雑所得になると、国全体の税収(所得税と住民税の合計)は680億円程度増えると考えられる。この金額は、ふるさと納税利用者全体への平均所得税率が20%と仮定して住民税率10%との合計30%と、2021年度の返礼品に係る費用総額2,267億円をかけるだけの簡単な計算である。しかし、寄付額ベースで全体のおよそ30%を占めるワンストップ特例制度の利用者は、確定申告をしないので、ふるさと納税の返礼品が雑所得扱いになっても所得税は増えない。ワンストップ特例制度が利用できる人は、「給与の年間収入額が2,000万円以下」、「雑所得など源泉徴収対象外の所得の年間合計額が20万円以下」などの条件を満たす人である。給与年間収入額が2,000万円以下なら、普通は寄付額の上限が60万を超えないので、返礼品の総額が20万円を超えることはなく、制度上見逃してもらえるのである。もちろん、給与の年間収入額が2,000万円以下でも、給与と返礼品以外にも収入があって源泉徴収対象外の所得の年間合計額が20万円を超えると、確定申告が必要となりワンストップ特例制度は利用できない。現行の一時所得としての取り扱いでも、高額な税金を支払っている並外れた高額所得者が既に負担している税金もあるので、国全体の税収増は先の見積り(680億円)よりは低くなるはずである。
 
1 川村栄一「返礼品等の経済的利益は本来課税対象であり課税すべき」、税2019年11月号

【雑所得になると何が大変か?】

「なんだ、源泉徴収対象外の所得の年間合計額が20万円を超えず、ワンストップ特例制度を利用できるので、私には関係ない」と思った人もいるかもしれないが、万が一、雑所得扱いになった場合の影響は想像しているより大きい。所得税に関しては、源泉徴収対象外の所得の年間合計額が20万円以下なら申告不要だが、実は住民税は20万円以下でも申告が必要である。ワンストップ特例制度を利用し、確定申告を行わない場合、源泉徴収対象外の所得が1円でもあれば、住民税申告が必要となる。そして、いくつかの自治体HPを確認した限り、オンラインで住民税申告が可能な自治体は今のところない。

確定申告をしなくても寄付金控除が受けられる便利な仕組みとしてワンストップ特例制度が創設されたが、近年まで紙媒体の申請書類を郵送する必要があった。同じ頃、国税においてはe-taxの利便性が高まり、所得税申告のe-tax利用率が上昇傾向にあったこともあり、「ワンストップ特例制度が本当に便利な仕組みと言えるのか」疑問に思っていたところ、ようやくオンラインでのワンストップ特例申請が可能になり、オンラインで対応できる自治体も増え、便利な仕組みになりつつあるというのに、雑所得扱いになると、紙媒体の住民税申告が必要になるのである。
 
万が一、雑所得扱いになった場合に大変なのは、ワンストップ特例制度を利用する人だけではない。年末調整をしても、他に源泉徴収対象外の所得が1円でもあれば、住民税申告が必要であることを知っている給与所得者は少ないのではないか。源泉徴収対象外の所得があるにもかかわらず、こうした制度を知らずに申告を行わなかった人に対しては、自治体が更生決定などを行うことになるのだから、ふるさと寄付者が居住する自治体も大変なことになる。
【図表1】 所得税申告のe-tax利用率の推移
現状の取引の態様等を踏まえ、一時所得と雑所得のどちらで取り扱うのが妥当なのかの議論もよいが、雑所得となって手続きが煩雑になって混乱を招くことだけは避けてもらいたい。そして、返礼品が一時所得か雑所得かによらず、住民税申告のオンライン化も早く実現して欲しいものだ。
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年04月26日「研究員の眼」)

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