コラム
2023年04月19日

ふるさと納税のウソ、ホント(3)-退職金に係る税金はふるさと納税の対象外ってホント?

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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【退職金に係る税金はふるさと納税の対象外ってホント?】

ふるさと納税は、所得水準に応じた上限の範囲内で総務大臣から指定を受けた地方団体に寄附した場合、所得税や住民税が減額されることで寄附額から2,000円を差し引いた額(以下、控除対象額)の「全部」が戻ってくる仕組みである。しかし、支払った所得税及び住民税の中には、ふるさと納税の対象外のものもある。
 
「1億円の壁」という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。所得税は、所得が大きいほど高い所得税率(以下、累進所得税率)が適用されるが、例外もあり、所得の種類によっては所得の大きさに関わらず一定の税率(以下、固定所得税率)が適用される。固定所得税率は累進所得税率の最大税率よりも低く、所得が1億円を超えるような人は固定所得税率が適用される所得の割合が多い傾向があるので、1億円あたりをピークに所得税の負担率が下がるのである。「1億円の壁」が生じる原因とも言える固定所得税率が適用される所得に対して支払う所得税や住民税はふるさと納税の対象ではない。ふるさと納税の対象となるのは、累進所得税率が適用される所得に対して支払う所得税や住民税だけである1。退職所得は累進所得税率が適用されるので、退職金に係る税金もふるさと納税の対象だが条件がある。
 
1 土地や建物を売却した際の所得にかかる税率は固定税率が原則だが、マイホームの売却で一定の要件を満たした場合に特例として受けられる軽減税率は所得の大きさによって税率が異なる。軽減税率はあくまでも特例なので、マイホームの売却で一定の要件を満たしても、ふるさと納税の対象にはならない。

【ふるさと納税制度の仕組み】

退職金に係る税金がふるさと納税の対象となる条件を示す前に、ふるさと納税の仕組みを確認する。ふるさと納税は、総務大臣から指定を受けた地方団体への寄附が対象だが、実は、指定を受けた地方団体への寄附以外でも、国や地方団体、特定公益法人などへ寄付に対して控除対象額の「一部」が戻ってくる仕組みがある。このため、ふるさと納税制度の本質は、指定を受けた地方団体への寄附に限り「一部」が「全部」になるよう「差額」を埋める制度である(図表1)。

「一部」は所得税からの減額(図表1の水色)と住民税からの減税(図表1の黄色)に二分できる。ふるさと納税は累進所得税率が適用される所得が対象なので、所得税から減額される割合は寄附者の所得水準によって異なり、ふるさと納税制度で埋めるべき「差額」の割合も寄附者の所得水準によって異なる。そして、「差額」(図表1の赤色)は、所得に応じて支払う住民税の2割以下と定められている。つまり、「差額」がちょうど住民税の2割以下に収まる寄附額が、いわゆる「ふるさと納税額の上限」となる。
【図表1】ふるさと納税の仕組み

【退職所得は特別扱いされる】

所得税は、すべての所得を合算した金額に応じた税率を用いるのが原則だが、固定税率が適用される所得など一部例外がある。そして、ふるさと納税の対象となる累進所得税率が適用される所得の中にも例外があり、退職所得と山林所得が特別扱いされる。山林所得とは、山林を伐採、もしくは立木のまま譲渡することによる所得であり、退職所得と同じく、長い年月を経てある特定の年に実現する。長い年月を経るのに、特定の年に多額の所得が発生して高い税率が適用されると税負担が過重になることを配慮するため特別扱いされる。
 
特別扱いされる退職所得と山林所得は、それぞれの所得に応じた税率が適用され、累進所得税率が適用される所得のうち退職所得と山林所得以外については、合計した金額(以下、総所得)に応じた税率が適用される。このように3つ(退職所得、山林所得、総所得)の累進所得税率が存在するのである。前段で記した通り、ふるさと納税制度は「一部」が「全部」になるよう「差額」を埋める制度なので、所得税から減額される割合が複数あると、どれだけ穴埋めすればいいのか判断が難しい。また、「一部」(図表1の水色及び黄色)においても、総所得、退職所得、山林所得で重複して減税しないためにはルールが必要なので、まずは総所得が減税され、減税しきれない場合は山林所得、退職所得の順に減税されるルールになっている2
 
2 「一部」(図表1の水色及び黄色)においては、総所得、山林所得、退職所得の順に減税する仕組みであるのに対し、「差額」(図表1の赤色)に限り総所得が優先されるが、山林所得と退職所得との間に優先・劣後の関係はない。

【退職金に係る税金もふるさと納税の対象になる条件】

山林所得がある人は限られるので、これ以降、総所得と退職所得だけに限定して話を進める。上述の通り総所得から順に減税するルールなので、総所得に対応した住民税を支払う義務がある人は、総所得に対応する住民税を基準に「ふるさと納税額の上限」が決まり、退職所得に対応した住民税はふるさと納税の対象外となる。一方、総所得に対応した住民税を支払う義務がなければ、退職所得に対応した住民税を基準に「ふるさと納税額の上限」が決まる。つまり、退職金に係る税金もふるさと納税の対象になる条件は、総所得に対応した住民税を支払う義務がないことである。
 
退職金は、雇用主が退職者に支給するもので、退職者は退職するまでは給与を受け取っている。給与所得は総所得に含まれるので、「総所得に対応した住民税を支払う義務がない」条件に該当するハードルは低くない。しかし、年明け後の早い段階で退職し、年内に受け取る給与合計額が相当程度少なければ、総所得に対応した住民税を支払う義務はなく、退職金に係る税金もふるさと納税の対象になる可能性はある。一方で、iDeCo等の確定拠出年金を一時金で受け取る場合に係る税金も退職所得として扱われ、かつ受け取る年も選択できる。このため、公的年金受給前もしくは公的年金受給額が少なく、かつ他の所得も限られ総所得がない年に、確定拠出年金を一時金で受けとると、当該一時金に係る税金がふるさと納税の対象となるのだ。
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年04月19日「研究員の眼」)

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