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ふるさと納税のウソ、ホント(3)-退職金に係る税金はふるさと納税の対象外ってホント?

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子
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【退職金に係る税金はふるさと納税の対象外ってホント?】
「1億円の壁」という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。所得税は、所得が大きいほど高い所得税率(以下、累進所得税率)が適用されるが、例外もあり、所得の種類によっては所得の大きさに関わらず一定の税率(以下、固定所得税率)が適用される。固定所得税率は累進所得税率の最大税率よりも低く、所得が1億円を超えるような人は固定所得税率が適用される所得の割合が多い傾向があるので、1億円あたりをピークに所得税の負担率が下がるのである。「1億円の壁」が生じる原因とも言える固定所得税率が適用される所得に対して支払う所得税や住民税はふるさと納税の対象ではない。ふるさと納税の対象となるのは、累進所得税率が適用される所得に対して支払う所得税や住民税だけである1。退職所得は累進所得税率が適用されるので、退職金に係る税金もふるさと納税の対象だが条件がある。
1 土地や建物を売却した際の所得にかかる税率は固定税率が原則だが、マイホームの売却で一定の要件を満たした場合に特例として受けられる軽減税率は所得の大きさによって税率が異なる。軽減税率はあくまでも特例なので、マイホームの売却で一定の要件を満たしても、ふるさと納税の対象にはならない。
【ふるさと納税制度の仕組み】
「一部」は所得税からの減額(図表1の水色)と住民税からの減税(図表1の黄色)に二分できる。ふるさと納税は累進所得税率が適用される所得が対象なので、所得税から減額される割合は寄附者の所得水準によって異なり、ふるさと納税制度で埋めるべき「差額」の割合も寄附者の所得水準によって異なる。そして、「差額」(図表1の赤色)は、所得に応じて支払う住民税の2割以下と定められている。つまり、「差額」がちょうど住民税の2割以下に収まる寄附額が、いわゆる「ふるさと納税額の上限」となる。
【退職所得は特別扱いされる】
特別扱いされる退職所得と山林所得は、それぞれの所得に応じた税率が適用され、累進所得税率が適用される所得のうち退職所得と山林所得以外については、合計した金額(以下、総所得)に応じた税率が適用される。このように3つ(退職所得、山林所得、総所得)の累進所得税率が存在するのである。前段で記した通り、ふるさと納税制度は「一部」が「全部」になるよう「差額」を埋める制度なので、所得税から減額される割合が複数あると、どれだけ穴埋めすればいいのか判断が難しい。また、「一部」(図表1の水色及び黄色)においても、総所得、退職所得、山林所得で重複して減税しないためにはルールが必要なので、まずは総所得が減税され、減税しきれない場合は山林所得、退職所得の順に減税されるルールになっている2。
2 「一部」(図表1の水色及び黄色)においては、総所得、山林所得、退職所得の順に減税する仕組みであるのに対し、「差額」(図表1の赤色)に限り総所得が優先されるが、山林所得と退職所得との間に優先・劣後の関係はない。
【退職金に係る税金もふるさと納税の対象になる条件】
退職金は、雇用主が退職者に支給するもので、退職者は退職するまでは給与を受け取っている。給与所得は総所得に含まれるので、「総所得に対応した住民税を支払う義務がない」条件に該当するハードルは低くない。しかし、年明け後の早い段階で退職し、年内に受け取る給与合計額が相当程度少なければ、総所得に対応した住民税を支払う義務はなく、退職金に係る税金もふるさと納税の対象になる可能性はある。一方で、iDeCo等の確定拠出年金を一時金で受け取る場合に係る税金も退職所得として扱われ、かつ受け取る年も選択できる。このため、公的年金受給前もしくは公的年金受給額が少なく、かつ他の所得も限られ総所得がない年に、確定拠出年金を一時金で受けとると、当該一時金に係る税金がふるさと納税の対象となるのだ。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年04月19日「研究員の眼」)

03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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