2023年04月20日

さくらレポート(2023年4月)~海外経済の減速により、輸出が低迷したことで製造業は悪化傾向だが、先行きは改善を見込む~

経済研究部 研究員 安田 拓斗

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1.景気の総括判断は、全9地域中、東海で引き上げ、7地域で据え置き、東北で引き下げ

4月20日に日本銀行が公表した「地域経済報告(さくらレポート)」によると、景気の総括判断は、全9地域のうち、東海で引き上げ、7地域で据え置き、東北で引き下げとなった。

東海では、景気の総括判断が「横ばいで推移している」から「緩やかに持ち直している」へ引き上げられた。北海道、北陸、関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄では、景気の総括判断が据え置きとなり、緩やかな持ち直し基調が続いている。東北では、景気の総括判断が「緩やかに持ち直している」から「一部に弱さが見られるものの、基調としては緩やかに持ち直している」へ引き下げられた。
各地域の景気の総括判断
需要項目別にみると、マスク着用の自由化など新型コロナウイルスが生活に及ぼす影響が和らぎはじめ、外出しやすい環境や雰囲気になりつつあることで、個人消費の持ち直しの基調が続いている。さらに全国旅行支援や水際対策緩和を受けて、国内外からの旅行需要が回復しており、今後も個人消費は堅調に推移することが予想される。ただし、海外経済の減速を受けた輸出の低迷などを一因として生産が弱い動きとなっており、今後も不確実性が高い状況が続きそうだ。

2.業況判断は地域ごとにばらつきが見られるが、先行きへの警戒感は強い

地域別の業況判断DIと変化幅(全産業) 「地域別業況判断DI(全産業)」をみると、全9地域のうち4地域で改善、2地域で横ばい、3地域で悪化となった。全国では▲1ポイントの悪化となった。

前回調査からの改善幅をみると、東北が+4ポイントと大きく、次いで北海道、四国が+2ポイントとなっている。九州・沖縄は+1ポイントと小幅な改善に留まった。東海、近畿は横ばいで、北陸、中国は▲1ポイント、関東甲信越は▲2ポイントとなった。業況判断は地域ごとにばらつきが見られるが、全体的に悪化に向かっている。

先行き(2023年6月)の景況感は、全9地域で悪化を見込んでおり、全国では▲3ポイントの悪化を見込んでいる。今回調査では+2ポイントの改善幅だった北海道だが、先行きの低下幅は▲8ポイントと最も大きくなっている。

全体的に先行きへの警戒感は強い。全国旅行支援の後押しを受けて人出が回復しているが、海外経済の減速、それに伴う輸出の低迷、世界的なインフレ、円安による輸入物価の上昇など景気の下振れリスクは残っていることが要因だ。今後も先行きを楽観視できない状況が続くだろう。

3.製造業の業況判断は悪化傾向だが、先行きは改善を見込む

地域別の業況判断DIと変化幅(製造業) 製造業の業況判断DIは、全9地域のなかで改善した地域はなく、2地域で横ばい、7地域で悪化した。全国では▲6ポイントの悪化となった。海外経済の減速により輸出が低迷していることが全体の業況判断を押し下げている一因だろう。

業種別には、石油・石炭製品が全体的に改善した。一方、木材・木製品、鉄鋼は多くの地域で悪化した。今回調査では、業種によりややばらつきはあるものの、全体として悪化に向かっている。

地域別には、改善幅がプラスの地域はなく、北陸、九州・沖縄が前回調査から横ばいになった。北陸では特に石油・石炭製品(+33ポイント)と、非鉄金属(+29ポイント)の改善幅が大きかった。九州・沖縄では特に繊維(+31ポイント)が大きく改善した。一方、北海道は前回調査から▲8ポイントの悪化と最も悪化幅が大きくなった。特に木材・木製品(▲18ポイント)、電気機械(▲15ポイント)の悪化幅が大きかったことが全体を押し下げた。
先行きについては、全9地域中、5地域で改善、2地域で横ばい、2地域で悪化を見込んでいる。全国では+1ポイントの改善を見込んでいる。業種別では、紙・パルプが多くの地域で改善が見込まれるが、鉄鋼、繊維は多くの地域で悪化が見込まれている。

地域別には、四国で+7ポイントと最も大きな改善を見込んでおり、全国の業況感の先行きを押し上げている。特に紙・パルプ(+22ポイント)、木材・木製品(+18ポイント)で大幅な改善が見込まれている。一方、北海道、北陸では▲8ポイントと最も大きな悪化を見込んでいる。北陸は全体的に悪化する業種が多く、中でも鉄鋼(▲58ポイント)と石油・石炭製品(▲33ポイント)で大幅な悪化が見込まれている。北海道は木材・木製品(▲36ポイント)と電気機械(▲28ポイント)で大幅な悪化が見込まれている。

なお、日銀短観3月調査では、2023年度の想定為替レート(全規模製造業ベース)が131.74円と、足もとの実勢(134円台)と比べて円高の水準を想定している。為替が現在の水準を維持し続ければ、製造業の景況感は上振れていくだろう。
製造業の改善・悪化幅(前回→今回)/製造業の改善・悪化幅(今回→先行き)

4.非製造業の業況判断は改善傾向だが、先行きは悪化を見込む

非製造業の業況判断DIは7地域で改善、2地域で悪化となった。全国では+2ポイントの改善となった。全国旅行支援の後押しを受けて個人消費が堅調に推移していることが改善の一因だろう。業種別では、小売が全体的に改善している。一方で電気・ガスは悪化した地域が多かった。
地域別の業況判断DIと変化幅(非製造業) 地域別には、北海道、四国で+6ポイントと前回調査からの改善幅が最大となった。北海道では引き続き全国旅行支援の後押しを受けて人出が回復し、宿泊・飲食サービス(+32ポイント)と対個人サービス(+30ポイント)が大幅に改善した。四国においても人出の回復を受けて、小売(+17ポイント)、卸売(+14ポイント)が大きく改善した。近畿は、四国と同様に小売(+14ポイント)が大幅に改善し、前回調査からの改善幅が+4ポイントとなった。一方、東北、北陸は前回調査から▲2ポイントの悪化となった。東北、北陸ともに宿泊・飲食サービスが全体を押し下げた。前回調査では全国旅行支援によって宿泊・飲食サービスが押し上げられ、東北では+49ポイント、北陸では+67ポイントと極めて高かったが、今回調査では東北が▲18ポイント、北陸が▲40ポイントと前回調査の反動を受けて大きく悪化した。
先行きについては、全9地域で悪化を見込んでいる。全国では▲6ポイントの悪化を見込み、警戒感が強い。業種別には、建設、鉱業・採石業・砂利採取業が多くの地域で悪化が見込まれる。

地域別には、北海道、四国で▲8ポイントと大幅な悪化をみこんでおり、全国の業況感の先行きを押し下げている。北海道では、運輸・郵便(+9ポイント)が改善を見込んでいるものの、不動産(▲37ポイント)、宿泊・飲食サービス(▲23ポイント)、物品賃貸(▲15ポイント)などが大幅な悪化を見込んでいる。四国では、不動産・物品賃貸(▲25ポイント)、卸売(▲19ポイント)、建設(▲15ポイント)などが大幅な悪化を見込んでいる。

今回調査では、全体的に非製造業は改善傾向にあるが、先行きは、物価上昇に伴う国内消費の低迷など下振れリスクが残っていることから、悪化を見込んでいる。
非製造業の改善・悪化幅(前回→今回)/非製造業の改善・悪化幅(今回→先行き)
 
 

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経済研究部   研究員

安田 拓斗 (やすだ たくと)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2021年4月  日本生命保険相互会社入社
     2021年11月 ニッセイ基礎研究所へ

(2023年04月20日「経済・金融フラッシュ」)

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