2023年04月11日

ASEANの貿易統計(4月号)~2月の輸出は旧正月明けで上振れ、プラスに浮上

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2023年2月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比0.9%増(前月:同8.8%減)と、4カ月ぶりに増加した(図表1)。2月の輸出はベトナムやシンガポールなどが旧正月明けで上振れてプラスの伸びとなったが、一時的な動きとみられる。輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍からの回復や商品市況の高止まりにより好調が続いたが、その後は欧米を中心とした外部環境の悪化や資源価格の軟化、半導体需要の減少により増勢が鈍化し、11月以降は減少傾向にある。輸出の先行きは中国経済の再開や供給制約の緩和により徐々に持ち直していくものの、当面は金融引き締めの影響により欧米を中心に世界経済が減速するため軟調に推移するものとみられる。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、2月は春節明けの影響で中国向け(同2.5%増)が増加して、東アジア向け(中国を含む)も同1.6%増(前月:同4.5%減)とプラスの伸びとなった(図表2)。また消費需要の底堅い東南アジア向けが同3.9%増(前月:同0.5%増)と2カ月連続で増加した。一方、金融引き締めの影響で経済活動が鈍化している北米向けが同1.3%減(前月:同24.9%減)、EU向けが同3.6%減(前月:同6.7%減)と低迷した。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの2月の輸出額(通関ベース)は前年同月比11.7%増(前月:同25.9%減)の260億ドルとなり、4ヵ月ぶりに増加した(図表3)。2月の輸出はプラスの伸びとなったが、これは昨年2月がテト(旧正月)のため稼働日が少なかった反動による影響が大きく、一時的な動きとみられる。輸出の基調は昨年後半までコロナ禍からの世界経済の再開や電子機器の需要拡大により増加傾向が続いたが、その後は世界経済の減速により主力のスマートフォンや電子機器、縫製品、履物の出荷が振るわず減少傾向が続いている。一方、輸入額は前年同月比7.9%減(前月:同24.0%減)の232億ドルとなり低迷した。結果として、貿易収支は+28.0億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から21.4億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比9.4%増(前月:同2.1%増)となり2カ月連続で増加、電気製品・同部品も同3.7%増(前月:同24.2%減)とプラスの伸びに転じた(図表4)。アパレル関連では、履物が同3.7%増(前月:同29.6%減)、織物・衣類が同11.9%増(前月:同37.6%減)とそれぞれ増加した。農林水産物を見ると、水産物(同3.6%減)は減少したものの、カシューナッツ(同35.5%増)や天然ゴム(同1.9%増)、コメ(同29.0%増)、コーヒー(同35.1%減)、野菜(同53.1%増)など幅広い品目で増加となった。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同11.6%増(前月:同21.5%減)、地場企業が同12.1%増(前月:同37.1%減)となり、それぞれ増加した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの2月の輸出額(通関ベース)は前年同月比4.7%減(前月:同4.5%減)の223億ドルとなり、5カ月連続で減少した(図表5)。輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍で停滞した経済活動の再開や世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いたが、その後は海外需要の鈍化や中国の都市封鎖の影響で主力の工業製品の出荷が振るわず、減少傾向で推移している。一方、輸入額は前年同月比1.1%増(前月:同5.5%増)の2434ドルと増加した。結果として、貿易収支が▲11.1億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から35.4億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の約7割を占める工業製品が同3.7%減(前月:同5.7%減)と減少した(図表6)。製造品の内訳を見ると、主要製品である自動車・部品(同2.7%増)と家電製品(同0.4%減)は小幅に増加したものの、石油化学製品(同23.1%減)や金属・鉄鋼(同17.9%減)、電子製品(同11.3%減)、機械・装置(同0.5%減)など減少した品目が多かった。一方、鉱業・燃料は同0.8%増(前月:同4.7%増)、農産物・同加工品が同3.0%増(前月:同1.5%減)となり、それぞれ増加した。農産物・同加工品の内訳をみると、天然ゴム(同34.0%減)が減少したものの、ドリアン(同1182.9%増)やコメ(同7.7%増)、ゴム製品(同2.1%増)、加工食品(同4.4%増)など増加した品目が多かった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの2月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比5.3%増(前月:同1.7%減)の257億ドルとなり、2ヵ月ぶりに増加した(図表7)。輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍で停滞した経済活動の再開や電気電子製品、石油ガス製品の需要拡大を追い風に増加してきたが、その後は世界的な需要減退により伸び悩んでいる。また輸入額も前年同月比7.9%増(前月:同1.0%減)の212億ドルと増加した。結果として、貿易収支が+44.8億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から2.9億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同6.5%増(前月:同0.3%減)と、主力の電気・電子製品(同7.1%増)を中心に増加した(図表8)。また鉱物性燃料は同48.3%増(前月:同66.2%増)と大幅な増加が続き、天然ガス(同27.6%増)と原油(同44.5%増)、石油製品(同66.6%増)がそれぞれ好調だった。一方、化学製品(同14.8%減)と動植物性油脂(同17.1%減)が引き続き減少したほか、ゴム手袋(同49.4%減)が昨年のコロナ禍の需要増に伴う反動で低迷した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの2月の輸出額(通関ベース)は前年同月比4.4%増の219億ドルとなり、前月の同+16.4%増から鈍化した(図表9)。輸出は昨年半ばまでコロナ禍で停滞した経済活動の再開や国際商品市況の高止まりにより好調が続いたが、その後は海外経済の減速や石炭およびパーム油の価格下落などにより輸出の勢いが鈍化傾向にある。一方、輸入額は前年同月比4.3%減(前月:同16.4%増)の159億ドルとなり、2ヵ月ぶりに減少した。結果として、貿易収支が+54.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から15.8億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の9割を占める非石油ガス輸出が同3.8%増(前月:同14.0%増)、石油ガス輸出も同19.3%増(前月:同65.1%増)と、それぞれ伸び率が鈍化した(図表10)。鉱産物(同19.9%増)と自動車・同部品(同26.4%増)、電気機械(同33.6%増)、鉄・鉄鋼(同15.5%増)、真珠・貴石(10.2%増)が大幅に増加して輸出全体を押し上げた。一方、木材・木製品(同31.4%減)や織物類(同19.4%減)、機械類(同13.5%減)、化学製品(同11.9%減)、プラスチック・ゴム製品(同11.7%減)が大幅に減少したほか、動植物性油脂(同2.1%増)が伸び悩んだ。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの2月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比14.7%減(前月:同23.6%減)の97億ドルとなり、6カ月連続で減少した(図表11)。2月は輸出の減少幅が縮小したが、これは今年の旧正月が1月に移動したことが一因と考えられる。輸出の基調は昨年半ばまで世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いたが、その後は中国向けを中心に電子製品、非電子製品ともに振るわず減少が続いている。なお、総輸出額は同1.9%減(前月:同7.9%減)の378億ドル、総輸入額が同3.5%減(前月:同9.5%減)の322億ドルとなり、それぞれ減少が続いた。結果として、貿易収支は+56.4億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から17.5億ドル拡大した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別にみると、まず全体の約2割を占める電子製品は同25.7%減(前月:同25.4%減)と低迷した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同33.5%減)やディスクメディア(同44.9%減)、PC(同15.3%減)が揃って減少した。また全体の約3割を占める化学品も同16.8%減(前月:同11.1%減)と減少幅が拡大した。化学品の内訳を見ると、石油化学製品(同23.6%減)に続いて医薬品(同20.7%増)も減少した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの2月の輸出額(通関ベース)は前年同月比18.1%減(前月:同13.1%減)の50億ドルとなり、3ヵ月連続で減少した(図表13)。輸出の基調は昨年後半に電子製品を中心に3カ月連続で増加した後、世界的な需要が軟化するなかで主力の電子製品の出荷が落ち込み、減少が続いている。また輸入額は前年同月比12.1%減(前月:同4.1%増)の89億ドルとなり、2ヵ月ぶりに減少した。結果として、貿易収支は▲38.8億ドルの赤字となり、赤字幅が前月から18.6億ドル縮小した。

輸出シェア上位10品目をみると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同22.3%減(前月:同19.2%減)となり、3ヵ月連続で減少した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同23.3%減)と電子データ処理機(同30.2%減)の大幅な減少が続いた。その他9品目については、その他製造品(同11.3%増)、機械・輸送用機器(同43.6%増)、イグニッションワイヤーセット(同16.9%増)、金属部品(同1.1%増)が増加したものの、その他鉱業品(同49.5%減)や製錬銅(同33.6%減)、化学品(同16.7%減)、生鮮バナナ(同3.2%減)、電子機器・部品(同1.6%減)が減少するなど、総じて減少した品目が多かった。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年04月11日「経済・金融フラッシュ」)

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