2023年03月24日

ホワイト企業とは?-その定義と特徴について-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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1――ホワイト企業の定義

2019年4月から働き方改革関連法が順次施行されたことにより労働問題についての関心が高まっている。近年は平均労働時間が減り、テレワークも利用できるようになるなど労働環境は少し改善されたものの、未だに労働者の半分以上が仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている。自殺者数総数に対する、勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者の割合は2007年の6.7%から2018年には9.7%(2021年は 9.2%)まで上昇した1。多くの労働者は仕事の量や質、過度な責任、職場での対人関係、パワーハラスメント等で悩みながら、もしかして自分の会社が「ブラック企業」ではないかと疑っているかもしれない。

厚生労働省は特にブラック企業に対して定義をしていないが、ブラック企業被害対策弁護団2は、「ブラック企業とは、『狭義には「新興産業において、若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業」である』と定義している。また、ブラック企業が行う典型的な違法行為として、長時間労働(安全配慮義務違反)、残業代の不払い、詐欺まがいの契約(固定残業代、直前での雇用形態の変更など)、管理監督者制度・裁量労働制の濫用、パワーハラスメント、過労鬱・過労自殺・過労死の隠ぺいを挙げている。

一方、ブラック企業の対義語として「ホワイト企業」という言葉が使われている。厚生労働省はホワイト企業に対する定義もしていないが、ホワイト企業は「一般的に従業員への待遇や福利厚生が充実していて、社員の健康や労務管理などを重視するとともに、労働安全衛生に関して積極的な取組3を行い、生き生きと長く働くための環境が整っている会社」だと定義することができるだろう。

一般財団法人日本次世代企業普及機構は、「私たちが考えるホワイト企業とは、いわゆる世間で言われているブラック企業ではない企業ではなく、家族に入社を勧めたい次世代に残していきたい企業であり、具体的には3つの要素((1)長期にわたって健全な経営を続けられる優れたビジネスを行う企業、(2)従業員が安心して働き続けられるために優れた社内統治を行う企業、(3)時代のニーズに合わせた従業員の働きがい(エンゲージメント)を高く保つ企業)を併せ持っている企業こそホワイト企業と呼ぶにふさわしい企業ではないかと考える」と説明している4
 
1 厚生労働省(2022)「我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」
2 ブラック企業被害対策弁護団とは日本に存在するブラック企業の被害者を救済することを目的として2013年に発足した弁護士団体。
3 厚生労働省では、2015年6月より「安全衛生優良企業公表制度」を実施している。「安全衛生優良企業公表制度」は、労働安全衛生に関して積極的な取組を行っている企業を認定・企業名を公表し、社会的な認知を高め、より多くの企業に安全衛生の積極的な取組を促進するための制度である。
4 同機構は「人材育成/働きがい」「ワーク・ライフ・バランス」「ダイバーシティ(多様性)/インクルージョン(包括性)」「健康経営」「ビジネスモデル/生産性」「リスクマネジメント」「労働法遵守」の7項目、70の設問でホワイト企業認定審査を実施している。

2――ホワイト企業の主な特徴

2――ホワイト企業の主な特徴

株式会社AlbaLinkが、現在仕事をしている自社の男女職員507人(男性255人、女性252人)を対象に実施した「ホワイト企業だと思う職場の特徴に関する意識調査」5によると、ホワイト企業だと思う職場の特徴(複数回答)は「休みが多い・休みやすい」が27.0%最も多く、次いで「残業なし・少なめ」(23.7%)、「残業代がきちんと支払われる」(19.7%)、「福利厚生が充実している」(16.4%)、「満足できる給与がもらえる」(15.8%)、「人間関係がよくハラスメントがない」(15.6%)等の順であった。
図表1 ホワイト企業だと思う職場の特徴(複数回答)
上記の調査結果に基づいて、ホワイト企業の主な特徴について考えてみた内容は次の通りである。
 
5 調査期間:2022年12月27日~2023年1月6日
(1)労働時間が短い
特に、「休みが多い・休みやすい」、「残業なし・少なめ」、「ワーク・ライフ・バランスがとれる」という項目は労働時間と関係があり、従業員に長時間労働を強要せず、労働時間の自由度が高い働き方が実現できる企業ほどホワイト企業に含まれる可能性が高いことがうかがえる。

確かに近年日本の雇用者の労働時間は減少傾向にある。パートタイム労働者を含めた労働者一人当たり総実労働時間は1993年の1,920時間から2021年には1,633時間に287時間も減少した。一方、一般労働者(フルタイム労働者)の一人当たり総実労働時間は同期間に2,045時間から1,945時間に100時間減少したものの、パートタイム労働者を含めた労働者の労働時間減少幅を大きく下回っている。つまり、パートタイム労働者の割合は同期間に14.4%から31.1%まで上昇しており(ピークは2019年で31.5%)、労働者1人当たりの年間総実労働時間の中長期的な減少は、パートタイム労働者の割合の増加の影響が大きいと考えられる。
図表2 日本における労働者の労働時間等の推移
労働時間の減少とともに、長時間労働も減少傾向にある。総務省の「労働力調査」によると、月末1週間の就業時間が 60 時間以上の長時間雇用者の割合をみると、2000年以降は2003年と2004年の12.2%をピーク(60 時間以上の長時間雇用の雇用者数639万人(2004年))に減少傾向にあり、2021年には5.0%(同290万人)まで減少した。

企業規模別には、従業員数「1~29人」が5.4%で最も高く、次いで「30~99人」(4.9%)、「500人以上」(4.6%)、「100~499人」(4.5%)になっており、規模の小さい企業ほど比較的に長時間雇用者の割合が高い傾向にあることが確認された。また、月末1週間の就業時間が60 時間以上の雇用者の割合を業種別にみると、近年すべての業種で低下傾向がみられる中で、2021年は、「運輸業,郵便業」(12.5%)、「建設業」(7.6%)、「教育,学習支援業」(7.5%)が上位3位を占め、「複合サービス事業」(2.0%)、「医療,福祉」(2.7%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(3.0%)が下位3位を占めた(ただし「鉱業,採石業,砂利採取業」を除く。)

以上の結果から他の条件が同じであるならば、月末1週間の就業時間が 60 時間以上の長時間雇用者の割合が低い従業員数「500人以上」と「100~499人」企業、「1000人以上」企業と、業種が「複合サービス事業」、「医療,福祉」、「電気・ガス・熱供給・水道業」の企業は、ホワイト企業に含まれる可能性が高いと考えられる。
(2)休暇が取りやすい
また、「休みが多い・休みやすい」と「ワーク・ライフ・バランスがとれる」という項目から有給休暇が取りやすい企業ほどホワイト企業である可能性が高いと推測できる。日本の労働基準法35条1項では、「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない」と規定している。また、労働基準法では1日8時間、1週間に40時間を法定労働時間として定めている。違反時には6か月以下の懲役、あるいは30万円以下の罰金が課される。

但し、労働基準法第36条(一般的にサブロク協定と呼ばれている)では「労使協定をし、行政官庁に届け出た場合においては、その協定に定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。」と労働基準監督署長に届け出た場合は、その協定内の範囲内で残業や休日労働を可能にしている。

さらに、時間外労働時間の限度時間は「月45時間」等に制限されているものの、「臨時的に、限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には、従来の限度時間を超える一定の時間を延長時間とすることができる。」という「特別条項」を付けて協定を締結することも可能である。但し、2019年4月から(中小企業は2020年4月から)時間外労働の上限規制が導入されたことにより、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、時間外労働の上限時間は年720時間以内(休日労働を含まない)に制限されることになった。

労働者が法定労働時間、つまり1日8時間、1週間に40時間だけを働く場合は、「完全週休2日制」が適用されていると言えるだろう。しかしながら労働基準法では「完全週休2日制」を強要しておらず、企業によっては「週休2日制」を適用するケースも少なくない。「完全週休2日制」は、1年を通して毎週2日の休みがあることを意味する。一方、「週休2日制」は1年を通して、月に1回以上2日の休みがある週があり、他の週は1日以上の休みがあることを表す。厚生労働省の「令和4年就労条件総合調査の概況」によると2022年現在「完全週休2日制」(48.7%)や「完全週休2日制より休日日数が実質的に多い制度」(8.6%)を採用している企業の割合は合計57.3%で、企業の間に休日数の格差があることが分かる。

労働基準法第39条では、「使用者は,採用の日から6か月間継続して勤務し,かつ全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、少なくとも10日の年次有給休暇(以下、年休)を与えなければならない」と年休の付与を義務化している。厚生労働省では、年休を取得しやすい環境整備を推進するため、毎年10月を「年次有給休暇取得促進期間」として、集中的な広報を行っており、少子化社会対策大綱(令和2年5月29日閣議決定)などでは、2025年までに年休の取得率を70%とすることが目標として掲げられている。このような政府の努力の結果、2022年現在の年休の取得率は58.3%まで大きく上昇しているものの、まだ政府の目標値には及んでいない。

年休の取得率を企業規模別にみると、従業員数「1000人以上」が63.2%で最も高く、次いで「300~999人」(57.5%)、「100~299人」(55.3%)、「30~99人」(53.5%)の順であり、企業規模が大きいほど年休の取得率が高いことが明らかになった。また、業種別には、「複合サービス事業」(72.4%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(71.4%)、「情報通信業」(63.2%)が上位3位を、「宿泊業,飲食サービス業」(44.3%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(71.4%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(71.4%)が下位3位を占める等、業種別の年休の取得率は大きな差があった。

以上の結果から他の条件が同じであるならば、年休の取得率が高い従業員数「1000人以上」企業と、業種が「複合サービス事業」、「電気・ガス・熱供給・水道業」、「情報通信業」の企業は、ホワイト企業に含まれる可能性が高いと考えられる。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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