コラム
2023年03月20日

5回連続成功までに何回かかる?-練習が “地獄の猛特訓” に変貌するとき

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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◇ 野球の守備練習-「5回連続でエラーをしなかったら終了」の場合、平均して、何本ノックを受ける?

さて、話をコイン投げから、基本動作の繰り返し練習に戻そう。野球の守備練習でノックを受ける場合を考えてみる。ある野球チームの練習方法は、「5回連続でエラーをしなかったら終了」として、それまでノックを受け続けるものとしよう。さて、このチームの選手は、平均して、何回ノックを受ける必要があるだろうか?
 
守備が上手い選手と下手な選手がいるだろうから、一概には言えない。そこで、ある選手が1回のノックでエラーをしない確率をp、エラーをする確率を (1-p) (pは、0~1の値) として、この選手の平均ノック回数を考えてみる。
 
pが0.5の場合、つまり、1回のノックでエラーをしないかするかが半分ずつの場合、先ほどのコイン投げと同じことになる。その計算結果から、5回続けてエラーをしないまでに、平均して、62回のノックが必要となる。
 
では、pが0.5以外の場合はどうか? コイン投げと同様に、連立方程式を解いて、計算することになる。
 
いまノックを受けていて、k回続けてエラーをしていない状態だとしよう。この状態から、平均して、あとzk回ノックを受けたら、5回続けてエラーをしない状態に至って練習が終了する。kの範囲は、0~4だ。
 
このとき、つぎの5つの関係式を作ることができる。

z0 = 1 + p × z1 + (1-p) × z0 … (11)
z1 = 1 + p × z2 + (1-p) × z0 … (12)
z2 = 1 + p × z3 + (1-p) × z0 … (13)
z3 = 1 + p × z4 + (1-p) × z0 … (14)
z4 = 1 + (1-p) × z0                 … (15)
 
確率として、0.5の代わりに、pや(1-p) を用いた式となっている。(11)~(15)を解くと、次の通りとなる。

z0 = {(1/p)5 - 1} / (1-p)
z1 = {(1/p)5 - 1/p} / (1-p)
z2 = {(1/p)5 - (1/p)2} / (1-p)
z3 = {(1/p)5 - (1/p)3} / (1-p)
z4 = {(1/p)5 - (1/p)4} / (1-p)
 
一応、連立方程式は解けたが、何とも、おどろおどろしい感じの結果となり実感がわいてこない。そこで、実際に、pに値を代入して、計算をしてみる。
 
5回続けてエラーをしないまで、平均して、ノックを受ける回数
守備が上手な選手で、1回のノックでエラーをしない確率が0.8の場合、平均して、10回程度のノックで終了となる。
 
問題は、この練習法を、守備が下手な選手に用いる場合だ。1回のノックでエラーをしない確率が0.3の場合、平均回数は500回を超える。この確率が0.2の場合は、3900回を超える。こうなると、ノックを受ける選手にとっても、ノックをするコーチにとっても、まさに“地獄の猛特訓”となる。
 
注意すべきなのは、この計算では、1回1回のノックでエラーをしない事象(またはエラーをする 事象)は独立である、と暗黙のうちに仮定している点だ。実際には、何回もノックを受けるうちに、守備が上手くなっていき、5回続けてエラーをしないまでの平均回数は減っていくかもしれない。
 
だが、逆のことも考えられる。ノックを繰り返すうちに、疲労がたまったり、集中力が低下していったりして、エラーをしやすくなるというケースだ。また、1度エラーをすると、2度も3度もエラーをしてしまう、いわゆる「エラー癖がつく」ということもあるかもしれない。こうなると、平均して、この表の計算結果よりも、さらに多くのノックの回数が必要となる。
 
「5回連続で成功したら、今日の練習は、お仕舞いにしましょう」― こういう練習法は、プレーヤーの技術をよく考えて行わないと大変なことになる。
 
コーチは、選手、プレーヤーの力量を把握したうえで、適切な指導を行うべきと言えるだろう。

(参考文献)
 
“Mathematical Puzzles” Peter Winkler (CRC Press, 2021)
 
「コイン投げで4回連続の表」坂井公 (パズルの国のアリス, SCIENTIFIC AMERICAN日本版・日経サイエンスホームページ)
https://www.nikkei-science.com/page/magazine/alice/202108/question.html
https://www.nikkei-science.com/page/magazine/alice/202108/answer.html
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2023年03月20日「研究員の眼」)

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