コラム
2023年03月13日

小数について(その4)-小数は日常生活や社会においてどのように使われているのか-

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はじめに

小数という概念は、今からすれば、極めて便利なものとなっているが、分数の考え方が古代エジプトの時代から使用されていたのに比べて、小数点の概念を明示的に含む形で小数が使用されるようになったのは、近代になってからであり、現在のような形に定着したのはそんなに古い話ではない。

小数を巡る話題について、4回に分けて報告しているが、第1回目は小数の起源や記法等について、第2回目は「循環小数」を巡る話題について、第3回目は「非循環小数」を巡る話題について、述べた。今回は、小数が日常生活や社会においてどのように使われているのか、について述べることとする。

数字としての小数

多くの人にとって、数学に関係して、最も馴染み深く小数が現れてくる例と言えば、「平方根」の数値において、ということになるのではないだろうか。以前の研究員の眼「無理数について(その1)-無理数同士や有理数との四則演算結果はどうなっているのだろう(πとeの和・積は無理数なのか)-」(2021.12.1)で紹介したように、平方数でない自然数の平方根は無理数になり、非循環小数となる。

次に、小数が現れてくる例としては、円周率のπが思い浮かぶと思われる。学生時代にπは(概ね)3.14であるという形で教えられる。ネイピア数eも2.718… と言う形になっている。これらの数も無理数である。

これら以外にも、数学の世界では、多くの「数学定数」と呼ばれるものがあるが、その殆どが無理数であり、通常はその概ねの大きさをよりメージし易くするために小数形式で表現される。例えば、以前に紹介した、黄金比φは1.618… 、白銀比τは2.414… というような具合である。

即ち、小数は分数表示できない無理数の近似値を示すのに使用される。

百分率、割合、シェア

「百分率」というのは、全体を100とした時の当該部分の比率、を示した数値になっているが、これは全体を1とした時に0以上1以下で表される小数の値を100倍したもの、となっている。

「割合」というのは、全体を1とした時の当該部分の比率を示す数値になっている。

日常生活の中でも、例えば「食物の成分表示」等において、この百分率による数字が示されているように、「百分率」は多くの場面で物事の構成比やシェアを表現するために使用されている。また、「割」、「分」、「毛」という用語も、商品の割引価格や野球の打率等において、しばしば耳にするものと思われる。

度量衡(長さ、大きさ、重さ等)

古代中国において、小数が度量衡に使用されていた由来等からも明らかなように、小数は各種の測量数値に現れてくる。

・身長・体重  172.3cm  70.6kg  
・靴のサイズ  26.5
・体温   36.7度
・シャープペンシルの芯のサイズ 0.3mm 0.5mm 0.7mm 0.9mm 等
・マラソン 42.195km

これらの表現において、小数が使用されているのは、表示単位は異なるものの、ほぼ世界共通になっているものと思われる。

例えば、メートル法ではなく、ヤード・ポンド法を使用している米国においても、身長は6.3フィート、体重は 120.7ポンド というような具合で表現される。

靴のサイズも、欧州では整数のみのようだが、米国や英国では日本と同様に「〇.5」というサイズがある。

温度には、ご存じのように、摂氏(°C)と華氏(°F)があるが、摂氏が国際標準になっており、殆どの国が摂氏を使用している1。米国が数少ない華氏を国内で標準的に使用している国で、英国でも華氏が使用されている。米国では体温計も華氏になっているが、華氏でも小数表示がなされる。

シャープペンシルの芯のサイズには15種類以上あるようで、太い芯では5.8mmというのもある。これらの太い芯は、デッサンやデザイン、さらには建築用筆記具として使用されている。
 
1 「摂氏(°C)」の「C」は、スウェーデンの天文学者アンデルス・セルシウス(Anders Celsius)(1701-1744)に因んでおり、「華氏(°F)」の{F}は、ドイツの物理学者ガブリエル・ファーレンハイト(Gabriel Fahrenheit)(1686-1736)に因んでいる。なお、「摂氏」「華氏」は、「セルシウス」や「ファーレンハイト」の中国語の「摂爾修」や「華倫海」に由来している。

視力について

日本において、視力を表すのに、一般的に「0.5」や「1.2」というような形で小数表示される「小数視力」が使用されている。視力には、静止視力と動体視力があるが、このうちの静止視力を測定するための視力検査では、「ランドルト環(ランドルト氏環)2と呼ばれている視標(目印)が使用される。

ランドルト環は黒色の円環で、(円環全体の)直径:円弧の幅:輪の切れ目の幅が5:1:1のサイズ、となっている。このランドルト環の輪が切れている方向を識別することで、2点が離れていることを見分けることができる最小の視角を測定している。視力は「(分単位で表した)視角(ランドルト環の切れ目と目の中心がつくる角度)の逆数」で表され、日本のJIS規格では、下記の図のように、直径7.5mm、幅1.5mm、切れ目の幅1.5mmのランドルト環を、5m離れた距離から見て、切れ目の方向を判別できる場合に「視力1.0」としている3
視力1.0の状況
1つの大きさのランドルト環との関係では、距離が近くなれば、視角が増加することになり、これによって測定される(確認できる)視力は低下することになる。なお、実際の検査は、被験者が移動することで距離を変えることはせずに、ランドルト環の大きさを変えることで行われている。

さて、通常の視力検査表には視力0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.5.2.0のランドルト環が描かれており、0.1から1.0までは0.1刻みになっているのに対して、「1.2」の次が「1.5」で、その次が「2.0」となっている。このことを不思議に感じたことはないだろうか。

これは、まさに視力が視角の逆数で表されていることに関係している。y=1/x という反比例のグラフを考えてみれば、xが1以下でのyの変化の大きさに比べて、xが1より大きくなると、その変化が小さくなることがわかる。従って、視角の変化の程度に対応した視力を設定するためには、「1.0」以上を細分化する意味合いは乏しいことになる4
 
2 19世紀後半から20世紀初頭のフランスの眼科医ランドルトによって考え出された。
3 これに対して、ISO(国際標準化機構)では、1分(1度の60分の1)の視角で5m先の幅を正確に計測した数値として、直径7.272……mm、幅・切れ目の幅1.4544……mmという数値が規定されている。
4 研究の世界等では、視角の変化の程度に対応した視力の差を明確化することで、より解析に適した「LogMAR視力」(視角の常用対数)が使用されている。
(参考)分数視力
欧米各国においては、視力を表すのに、「20/40」、「6/60」というような形で分数表示される「分数視力」が使用されている。分子が「検査距離(20フィート(米国等)又は6メートル)」、分母が「被験者が見分けることができる視標を、視力1.0の人が見分けることができる距離」を表している。例えば、「20/40」は、この被験者が20フィートで見える視標を視力1.0の人は40フィートの距離から見ることができる、ということを表している5
 
5 分数視力の分数を小数に置き換えたものが、小数視力に相当している(即ち、「20/40」は、小数視力の「0.5」に相当し、「6/60」は「0.1」に相当している)。

カメラの絞り値

カメラのレンズには、「絞り値」というものがあり、F1、F1.4、F2、F2.8、F4、F5.6・・・といった数値で表されている。

「絞り」というのは、通過する光の量を調整するために用いる遮蔽物のことを指しているが、その調整の度合いを示すのに「F値」と呼ばれるものが使用される。F値を√2倍すると入光量は1/2になり、F値を1/√2倍すると入光量は2倍になる。

F値は、レンズの焦点距離を有効口径で割った値であり、レンズの明るさを示す指標として用いられる。F値が小さいほどレンズは明るく(=レンズを通る光量が多い)、シャッター速度を速くできる。

F値のFとは「焦点の」を意味する「focal」から来ている。

F値については、現在はF1に始まり1段階で露光量が半分になる国際絞りが一般的に使用されており、F1、F1.4、F2、F2.8、F4、F5.6、F8、F11、F16、F22、F32、F45・・・がある。それぞれの間隔が√2倍となっているが、√2≒1.4であることから、F値ではF1.4等というような形で表されている。

小数が現れるその他の場面-FM放送の周波数

ラジオのAM放送の周波数は自然数で表されるのに、FM放送の周波数には小数が現れる。これは、FM放送の周波数の単位がMHzなのに対して、AM放送の周波数の単位がkHzとなっている、という単位の違いによる。

因みに、AMの周波数は、526.5kHzから1606.5kHzの間で、9kHz単位の割当となっている。従って、AM放送の周波数は全て9の倍数になっている(これは、近すぎる周波数による混信を回避するためのものであり、あくまでも日本におけるルールで、これに対する考え方は国によっても異なっている)6

一方で、FM放送の周波数は、現在 76.1MHzから94.9MHzの間で、0.1MHz単位で割当がされている。
 
6 以前は切の良い10kHz 刻みだったが、ラジオ局の増加に対応して、国際電気通信連合(ITU)は、周波数の刻みを9kHzに狭くする決定をして、より多くの放送局が電波を出せるようにした。日本もこの決定に従って、1978年に周波数の間隔の変更を行っている。

有効数字

有効数字(significant figures, significant digits)」というのは、測定結果などを表す数字のうち、位取りを示すだけのゼロを除いた意味のある数字で、誤差を含む桁より上の桁を指している。

有効数字が何桁であるかを明示するために、例えば「2.023×10³」で有効数字が3桁であることを示しているというような「科学的記数法」が用いられたりする。

このように、有効桁数を明示的に表すのに、小数が使用されている。

物理や化学等の自然科学での実験結果等において、有効数字が何桁であるかは極めて重要な意味を有している。

有効数字の考え方に基づく計算を行う場合には、有効桁数を測定値の中で最も有効桁数が少ないものに合わせることが行われたりする。なお、数学定数のように厳密に定義されている値については、有効桁数の考え方は適用されない。

小数が現れる場面-一般的

十進法による位取り記数法に慣れている多くの人にとって、分数よりも小数で表された方が、一般的にはその大きさがよく認識されやすい。2つの数の大小関係を比較判断する時に、分数表示のままではよくわからないことも多いが、これが小数表示されていれば容易に判断することができることになる。実際に2つの数の大小関係を比較判断する場合には、殆どの人が分数表示を小数表示にしてから判断しているものと思われる。

日本においては、1以下の数字は小数で表されるのが一般的である。分数については、1/2とか 1/3といった単位分数は「何分の1」といった表現で使用されることもあるが、単位分数以外が日常生活で使用される機会は、六十進法による時間等の十進法表示でないものを表す場合を除けば、限られているように思われる。

また、多くの数学定数を含む実数の殆どが無理数で、有理数として、分数で正確に表現することが出来ないという事情もあるかもしれない。

一方で、学生時代の数学の試験問題等では、小数が取り上げられることは少なく、分数が関係している問題が多い。これは、小数があくまでも概数を示すのに適しているのに対して、分数はまさにそのものの正確な数字を示しているので、問題として扱いやすいことが挙げられるのではないだろうか。

これに対して、日本においては、学校を卒業した後の日常生活や社会においては、(理工系の職業等に関与している場合を除けば)先に述べたように、一般の人々が分数に接する機会は限られていると思われる。このあたりの事情は、国によっても異なっており、先の小数を巡る歴史的な経緯等もあり、欧州ではより分数が使用される場面が多いようである7

日本において分数よりも小数が広く使用されているのは、中国の影響を受けての、漢数字による小数を表す表現である「割」、「分」、「厘」、「毛」といった用語が、度量衡の単位として幅広く普及していたことも関係しているようだ。
 
7 分数の起源やその日常生活における使用等については、次回の「分数について」の研究員の眼のシリーズで報告する。

最後に

今回は、小数を巡る話題について、4回に分けて報告してきた。第1回目は小数の起源や記法等について、第2回目は「循環小数」を巡る話題について、第3回目は「非循環小数」を巡る話題について、そして今回は、小数が日常生活や社会においてどのように使われているのか、について述べてきた。

小数については、小学校で初めて学び、その後の学生時代や社会人になってからも接する機会があったと思われるが、大人になって改めて小数についての話題を調べてみると、新たな気付きもあったのではないかと思われる。

今後とも、小数に接する機会があった時に、深い興味・関心をもって眺めてみるのも、知的好奇心を刺激する良い機会になるかもしれない、と思った次第である。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年03月13日「研究員の眼」)

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