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インド経済の見通し~輸出悪化や利上げが逆風となり減速も、内需主導の底堅い成長続く(2022年度+6.9%、2023年度+5.9%)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
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GDP統計の結果:民間消費が減速して成長率低下

産業部門別に見ると、まず第三次産業は同+6.2%増と底堅い成長が続いたものの、前期の同+9.4%増から鈍化した。貿易・ホテル・交通・通信が同+9.7%(前期:同+15.6%)、金融・不動産が同+5.8%(前期:同+7.1%増)、行政・国防が同+2.0%(前期:同+5.6%)となり、それぞれ増勢が鈍化した。
他方、第二次産業は同2.4%(前期:同▲0.4%)と上昇した。製造業は同▲1.1%(前期:同▲3.6%)と低迷したが、建設業が同+8.4%(前期:同+5.8%)、電気・ガスが同+8.2%(前期:同+6.0%)、鉱業が同+3.7%(前期:同▲0.4%)となり、それぞれ上昇した。
また第一次産業は同+3.7%(前期:同+2.4%)となり、順調に増加した。
1 2月28日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2022年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
経済概況:高インフレ・高金利が消費需要を抑制
10-12月期の成長率低下は消費の減速による影響が大きい。GDPの約6割を占める民間消費は7-9月期が同8.8%と高水準で推移していたが、10-12月期が同+2.1%と大きく鈍化した。消費が鈍化した要因としては高インフレと積極的な利上げ、そして雇用情勢の悪化など家計部門の消費意欲が高まりづらい状況にあったことが挙げられる。10-12月期の消費者物価上昇率は同+6.1%と、依然としてインド準備銀行(RBI)の物価目標の上限である+6%を上回る水準で高止まりしており(図表3)、インド準備銀行は昨年5月からインフレ抑制のための金融引き締めを実施して政策金利を6.5%(累計+2.5%ポイント)まで引き上げている(図表4)。また製造業(前年同期比▲1.1%)は世界的な金融引き締めによる海外受注の伸び悩みに国内消費需要の鈍化が加わりマイナス成長となっており、10-12月の失業率は8.0%と、前年同期の7.5%から上昇するなど雇用情勢はやや悪化しているようだ。
また政府消費(同▲0.8%)は2四半期連続のマイナス成長だったが、これはコロナ関連の補助金の支出が縮小したことが影響したとみられる。
外需については、まず輸出が同+11.3%と二桁成長を維持した。海外経済の減速により財貨輸出は鈍化傾向にあるものの(図表6)、10-12月の外国人訪問者数が239万人とコロナ禍前の9割弱(前年の2倍)の水準まで回復しており(図表5)、サービス輸出の好調が牽引役になったとみられる。一方、輸入(前年同期比+10.9%)も二桁成長となったが、10-12月期は消費需要の鈍化を受けて輸出の伸びを下回ることとなり、結果として純輸出の成長率寄与度は▲0.2%ポイント(前期:▲3.4%ポイント)とマイナス幅が縮小した。
経済見通し:輸出悪化や利上げが逆風となり減速も、内需主導の底堅い成長続く
一方、公共投資の拡大は経済成長の牽引役となるだろう。今年2月に発表された23年度国家予算では、資本支出が前年度比37.4%増の10兆ルピーに大幅に増額されており(図表7)、政府は社会インフラの整備を加速して雇用を創出すると共に民間企業の投資を促し、好循環を促す計画である。また昨年はウクライナ危機や半導体不足、欧米の金利上昇などによりインドへのFDIの流入が低調だったが、今後は国内製造促進策である生産連動インセンティブ (PLI)スキームに関わるFDI案件が承認されるなかでFDIが拡大して、民間投資を下支えるものとみられる。こうした投資の拡大は雇用環境の改善が進むなかで、民間消費も底堅い成長が期待できる。
先行きのインフレ率は、当面は原油高や通貨安の一服によりコスト上昇を価格転嫁する動きが弱まることやRBIの金融引き締めの影響によりやや鈍化するものの、今後の雇用情勢の改善により内需が旺盛な状況が続くためインフレ目標である4%を上回る水準で推移すると予想する。また天候不順による食品価格が上昇する恐れもあり、インフレの不確実性が高い状況が続きそうだ。
RBIは足元でコアインフレ率の高い状況が続くなか、今年前半に0.25%の追加利上げを実施するだろうが、先行きのインフレ率が物価目標の上限である6%を下回るまで鈍化し、また米国の利上げが23年前半に打ち止めとなりルピー安に歯止めがかかることから23年半ばに金融引き締めサイクルが終了すると予想する。
以上の結果として、実質GDPは経済正常化の過程における回復の勢いが弱まるなか、輸出悪化やインフレの高止まり、金融引き締め策の継続などが逆風となり、22年度の成長率が前年度比+6.9%(21年度の同+9.1%)、23年度が同+5.9%と低下するが、投資拡大による雇用情勢の改善が進むなかで内需を中心に底堅い成長が続くと予想する(図表8)。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年03月06日「基礎研レター」)

03-3512-1780
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
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