2023年02月07日

オフィス市場の調整は小休止。ホテル市場はコロナ前を回復-不動産クォータリー・レビュー2022年第4四半期

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、コロナ禍における調整局面を脱している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2022年第3四半期は前年比でシングルタイプが+1.5%、コンパクトタイプが▲0.6%、ファミリータイプが+6.6%となった(図表-12)。また、LMC社によると、都心5区のマンション募集賃料(12月末時点、前年比)を区別にみると、千代田区(+9.5%)、港区(+4.5%)、中央区(+3.4%)、新宿区(+2.8%)、渋谷区(+1.2%)となり、全ての区が上昇となった(図表-13)。
図表-12 東京23区のマンション賃料(タイプ別)
図表-13 都心5区のマンション賃料(区別)
住民基本台帳人口移動報告によると、12月の東京23区の転入超過数は▲1,829人となったが、2022年全体では+21,420人と、2021年の転出超過(▲14,828)から1年でプラスに転換した(図表-14)。
図表-14 東京23区の転入超過数(月次累計値)
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、百貨店を中心に売上が回復している。商業動態統計などによると、2022年10-12月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+6.0%、コンビニエンスストアが+5.9%、スーパーが+2.3%となった(図表-15)。12月単月では、百貨店が+4.0%(10カ月連続プラス)、コンビニエンスストアが+3.8%(10カ月連続プラス)、スーパーが+3.5%(3カ月連続プラス)となっている。
図表-15 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
ホテルセクターは、全国旅行支援や水際対策緩和を背景に宿泊需要が順調に回復している。宿泊旅行統計調査によると、2022年10-12月累計の延べ宿泊者数は2019年対比で▲6.4%減少し、このうち日本人が+6.1%、外国人が▲58.4%となった(図表-16)。12月の延べ宿泊者数は2019年対比で▲0.2%、うち日本人が+8.3%、外国人が▲35.4%となった。日本人の宿泊者数が10月以降3カ月連続で2019年同月を上回り、外国人についても急速な戻りを示すなか、宿泊者数はコロナ禍前の水準を回復した。今後の訪日外国人観光客数についても円安水準にある為替レートが追い風となり引き続き回復していくことが予想される7。また、STR社によると、12月のホテルRevPARは2019年対比で全国が+10.9%、東京が+3.9%、大阪が+16.5%となり、コロナ禍前の水準を上回った。
図表-16 延べ宿泊者数の推移(月次、2019年対比、2020年1月~2022年12月)
物流賃貸市場は、首都圏の空室率が上昇した一方、近畿圏の空室率は横ばいとなった。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2022年12月末)は前期比+0.4%の5.6%となった(図表-17)。今期は、新規供給5棟がすべて空室を残して竣工し、竣工時稼働率が31%と2017年第1四半期以来の低水準となり空室率を押し上げた。2023年の新規供給は約91万坪と過去最大となる見込みで、今後しばらくは需給の緩和基調が継続し、空室率は一段と上昇する見通しとのことである。近畿圏の空室率は1.7%(前期比横ばい)と低い水準を維持しており、空室を抱えた物件はわずか4棟と逼迫した需給環境が続いている。

また、一五不動産情報サービスによると、2022年10月時点の東京圏の募集賃料は4,700 円/月坪(前期比+0.4%)となった。
図表-17 大型マルチテナント型物流施設の空室率

4. J -REIT(不動産投信)市場

2022年12月末の東証REIT指数(配当除き)は9月末比▲2.6%下落した。セクター別では、オフィスが▲3.0%、住宅が▲4.8%、商業・物流等が▲1.7%となった(図表-18)。11月まで底堅く推移していたものの、12/20に日本銀行が想定外の金融政策修正を発表したことを受けて下げ足が強まった。
図表-18 東証REIT指数の推移(2021年12月末=100)
J-REITによる2022年第4四半期の物件取得額(引渡しベース)は3,023億円(前年同期比▲31%)となり4四半期連続で前年同期を下回った。この結果、年間の取得額は8,783億円(▲45%)にとどまり、10年ぶりに1兆円を下回った。アセットタイプ別の取得割合は、物流施設(38%)、オフィス(29%)、住宅(22%)、商業施設(6%)、ホテル(2%)、底地ほか(2%)の順で、物流と住宅の比率が上昇する一方、オフィスのウェイトが昨年の46%から29%に低下し、物流に次いで第2位に後退した(図表-19)。

12月末時点のバリュエーションは、純資産11.4兆円に保有物件の含み益5.0兆円を加えた16.4兆円に対して時価総額は15.8兆円でNAV倍率は0.96倍、分配金利回りは3.9%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.5%となっている。
図表-19 J-REITによるアセットタイプ別の取得割合
2022年のJ-REIT市場を振り返ると、東証REIT指数は▲8.3%下落し、国内株式の下落率(▲5.1%)を上回った(図表-20)。年明け以降、海外ではインフレ高進に伴う金融引き締めやウクライナ侵攻など悪材料が相次いで投資家心理が悪化。NAV倍率で1倍を下回る水準では押し目買いから反発する動きもみられたが、日銀の金融政策修正を受けて急落するなど年間を通じて弱含みで推移した。銘柄数は61社で変わらず、時価総額は15.8兆円(前年比▲7%)に減少、運用資産額(取得額ベース)は21.9兆円(前年比+3%)で伸び率が鈍化するなど、規模の拡大は一服となった。一方、市場ファンダメンタルズは、市場全体の予想1口当たり分配金が前年比+2%となり、コロナ禍で落ち込んだ水準から回復基調にあり、1口当たりNAV(Net Asset Value、解散価値)も前年比+5%と高い伸びを確保した。また、投資法人債の発行金額は688億円(前年比▲56%)となり前年から大幅に減少した。市場金利が上昇するなか、期間(平均7.0年)と利率(平均0.53%)のバランスを図りながら長期資金を低利で調達できている。
図表-20 2022年のJ-REIT市場(まとめ)
 
 

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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年02月07日「不動産投資レポート」)

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