2023年02月07日

オフィス市場の調整は小休止。ホテル市場はコロナ前を回復-不動産クォータリー・レビュー2022年第4四半期

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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1. 経済動向と住宅市場

国内経済は、民間消費を軸に回復基調にある。2/14に公表予定の2022年10-12月期の実質GDPは前期比+0.3%(前期比年率+1.0%)と2四半期ぶりのプラス成長になったと推計される1。民間消費が堅調を維持する一方、設備投資と住宅投資が減少し国内需要は5四半期ぶりに減少したが、訪日客数の増加からサービス輸出が高い伸びを示すなど外需がプラスに寄与した。

経済産業省によると、10-12月期の鉱工業生産指数は前期比▲3.1%と2四半期ぶりの減産となった(図表-1)。中国のロックダウン解除を受けて7-9月期に前期比12.7%の高い伸びとなった自動車が前期比▲4.3%の低下となったほか、世界的な半導体関連の低迷を反映し、電子部品・デバイスが前期比▲5.9%(7-9月期:同▲7.8%)と3四半期連続の減産となった。先行きについても海外経済の悪化を背景に輸出の低迷が続く可能性が高く、生産は当面弱い動きが続くことが予想される2

ニッセイ基礎研究所は、12月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2022年度+1.4%、2023年度+1.0%、2024年度+1.6%を予想する(図表-2)3。実質GDPが直近のピーク(2019年7-9月期)を上回るのは、2024年4-6月期になると予想するが、金融引き締めに伴う欧米の景気後退や中国経済への懸念、冬場の電力不足による経済活動の制限など下振れリスクの高い状態が続く見通しである。
図表-1 鉱工業生産指数/図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、マンション等の販売状況がやや弱含むなか、価格の上昇ペースが鈍化している。

2022年12月の新設住宅着工戸数は67,249 戸(前年同月比▲1.7%)となり3カ月連続で減少、10-12月累計では約21.6万戸(前年同期比▲1.6%)となった(図表-3)。建設経済研究所によると、建築コストの増加や住宅ローン金利の上昇への懸念などから、2023年度の着工戸数は85.1万戸(前年度比▲0.6%)とやや減少する見通しである4
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2022年12月の首都圏のマンション新規発売戸数は5,757 戸(前月同月比▲13.4%)、10-12月累計では11,391 戸(前年同期比▲19.5%)となった(図表-4)。12月の平均価格は5,556万円(前年同月比+3.2%)、m2単価は86.8万円(同+7.7%)、初月契約率は74.8%(前年同月比+1.3%)となった。2022年の販売戸数は29,569 戸(前年比▲12.1%)となり、2021年の水準(33,636戸)を下回った。不動産経済研究所によると、2023年は32,000戸と、2022年から+8.2%増加する見通しである。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2022年12月の首都圏の中古マンション成約件数は2,835件(前年同月比▲1.6%)、10-12月累計では8,704件(前年同期比▲10.6%)となった(図表-5)。2022年の成約件数は35,429件と2021年の39,812件から▲11.0%減少した。12月の中古マンション平均価格は4,373万円(前年同月比+6.2%)と31ヶ月連続で上昇し、m2単価も69.9万円(同+9.0%)と32カ月連続で上昇した。中古マンション市場では成約件数が減少し在庫戸数が11カ月連続で前年同月を上回るなか、取引価格は1桁の上昇率まで鈍化している。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
日本不動産研究所によると、2022年11月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は29カ月連続で上昇し、過去1年間の上昇率は+7.7%となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2. 地価動向

地価は、住宅地の上昇が継続し、商業地についても上昇の裾野が拡大している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2022年第3四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「65」(前回58)、横ばいが「14」(前回17)、下落が「1」(前回5)となり、住宅地は前期に続いて全ての地区が上昇となった(図表-7)。同レポートでは、「住宅地では、マンション需要に引き続き堅調さが認められたことから上昇が継続。商業地では、店舗系の地区を中心に、人流の回復傾向を受け、店舗需要の回復が見られたことなどから上昇地区数が増加した」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移(比率)
野村不動産ソリューションズによると、首都圏住宅地価格の変動率(1月1日時点)は前期比+0.7%(年間+5.0%上昇)となり10四半期連続でプラスとなった。「値上がり」地点の割合は30.8%(前回33.7%)、「値下がり」地点の割合は2.4%(前回3.6%)となった。住宅地価格の上昇は継続しているものの、上昇率は2022年4月1日時点をピークに伸び率が縮小傾向にある(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3. 不動産サブセクターの動向  

3. 不動産サブセクターの動向

(1)オフィス
三鬼商事によると、2022年12月の東京都心5区の空室率は6.47%(前月比+0.09%)と、19カ月連続で6%台での推移となっている。平均募集賃料は29ヶ月連続下落の20,059円(前月比▲0.1%)となった。一方、他の主要都市は、札幌・仙台・名古屋・福岡の空室率が前年比で低下し、横浜・大阪についてもピーク時より低下している(図表-9)。また、募集賃料についても仙台を除いて前年比プラスを確保している5
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2022年第4四半期の東京都心部Aクラスビル成約賃料(月坪)は28,594円(前期比+4.4%)に上昇し、空室率は3.6%(前期比▲0.4%)に低下した(図表-10)。但し、三幸エステートは、「賃料は6期ぶりで上昇したものの、緩やかな低下傾向に変わりはない」としている。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所・クロスロケーションズ「オフィス出社率指数」によると、東京都心部のオフィス出社率は2022年12月末時点で67%となった(図表-11)6。2022年8月に新型コロナウイルスの感染拡大第7波がピークアウトしたことでオフィス回帰が緩やかに進んでいるが、オフィスと在宅勤務を組み合わせたハイブリッドな働き方が定着しつつあるなか、コロナ禍前の水準を回復するには至っていない。
図表-11 東京のオフィス出社率指数と新規陽性者数の推移
 
5 2022年12月時点の空室率は札幌(2.24%)、仙台(4.68%)、横浜(5.11%)、名古屋(5.45%)、大阪(5.06%)、福岡(4.37%)となっている。募集賃料は、前年比で、札幌(+2.3%)、仙台(▲0.4%)、横浜(+0.4%)、名古屋(+0.8%)、大阪(+0.6%)、福岡(+2.1%)となっている。
6 オフィス出社率指数は、スマートフォンの位置情報データをもとに東京都心部のオフィス出社率を推計したもの。算出方法の詳細は、以下を参照。
佐久間誠『人流データをもとにした「オフィス出社率指数」の開発について-オルタナティブデータの活用可能性を探る』(ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2021年6月2日)
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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