2023年02月07日

首都圏住宅市場(マンション・戸建て)の動向-価格は高水準だが取引戸数が減速、在庫は増加

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.311]

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1―価格は、首都圏のマンション・戸建てともに上昇しているが、伸びが鈍化

国土交通省の不動産価格指数によると、2022年8月の首都圏(南関東:1都3県)は、マンションが177.9(2010年平均を100とする)と最高水準を継続し、戸建てが121.3と上昇した。首都圏住宅市場は、引き続きマンションが牽引し、戸建てがマンションの価格を追う構造である[図表1]。

不動産経済研究所によると、2022年10月の新築マンション価格は6,787万円と10年前の約1.6倍となったが、前年同月比で+0.5%と上昇ペースが減速している。また、東日本レインズによると、2022年10月の中古マンション価格は4,395万円と10年前の1.8倍、前年同月比で+13.1%となった。

しかし、住宅市況は価格水準だけから市況を判断するのは難しく、取引件数も加味して判断するのが適当である。
[図表1]不動産価格指数(首都圏1都3圏)

2―取引件数は、中古マンションと持家が急減速している

不動産経済研究所によると、2022年10月の新築マンション発売戸数は2,768戸(前年同月比+34.7%)と3ヶ月ぶりに増加した。月次公表値の12ヶ月移動累計でも3.3万戸(前年同月比+4.3%)を回復し、初月契約率は71.9%と5ヶ月ぶりの70%回復となった。2021年以降の売れ行きの伸びは一服したものの、国内市場は新築需要が強く、例年最も売れ行きの良い12月にさらに持ち直しが期待される。新築マンション市場では高水準の価格が継続すると思われる。

一方、東日本レインズによると、2022年10月の中古マンション成約件数は3,072戸(前年同月比▲10.7%)となった。地域別では東京都区部が前年同月比▲3.1%と比較的減少が少ないが、神奈川県(横浜市・川崎市以外)が▲21.3%、埼玉県が▲19.8%、東京都多摩が▲19.4%と減少が大きく、郊外の売れ行きが鈍っている。また月次公表値の12ヶ月移動累計でも3.6万戸(前年同月比▲9.0%)と7カ月連続の減少となった[図表2]。コロナ禍のテレワークの広がりなどから、住宅需要は郊外へと広がることを期待する向きもあったが、東京都区部の強さが際立っている。
[図表2]首都圏中古マンションの成約件数
国土交通省によると、2022年10月の首都圏の持家の新設住宅着工戸数は、4,723戸(前年同月比▲76.9%)と著しく減少した。持家の場合、土地を先に取得し、建物がある場合には取壊し、新たな建物を計画して建築する。つまり、時間の余裕と資金力が必要である。また、マンション用地の取引価格の高騰から、住宅地全体の価格が上昇しており、持家が購入希望者の予算外となった場合が相当数あるとみられる[図表3]。
[図表3]持家の新設着工戸数(首都圏1都3県、12カ月移動累計)
一方、2022年10月の首都圏の新築分譲戸建ての新設住宅着工戸数は、5,139戸(前年同月比+17.4%)となった。2021年5月以降は増加傾向で、2021年8月の前年同月比+87.6%、2021年12月の+82.7%、2022年9月の+61.6%など、複数の月で高い伸びとなった。月次公表値の12ヶ月移動累計でも59,850戸( 前年同月比+6.6%)と13カ月連続の増加となった。持家は個人名で、新築分譲戸建ては住宅供給者名で着工するのが通常である。価格水準の高い新築マンションや持家の代わりに新築分譲戸建てを購入する人が増加すると期待して、供給者が着工戸数を増加させたとみられる[図表4]。
[図表4]新築分譲戸建ての新設着工戸数(首都圏1都3県、12カ月移動累計)

3―在庫戸数も増加している

ただし、2022年10月の新築分譲戸建ての在庫戸数は13,056戸(前年同月比+54.7%)と、2022年2月以降、急速に増加しており、実需を超えた戸数が供給された可能性がある。

新築の定義は、「建物完成から1年かつ、今まで居住者がいないこと」である。建物完成から1年を超えれば新築ではなくなるため、在庫戸数が急増した2022年2月から1年を経過する2023年2月ごろまで在庫の増加が続けば、建築後1年を経過した分譲戸建て(新古戸建て)が顕在化し始めると思われる。

1年が経過した新築住宅は、理論的には新築よりも価値が減少する。供給者が「完成後1年を迎える前に売却したい」という気持ちになりやすく、交渉の余地が生じるかもしれない。今後、新築分譲戸建ての価格の上昇には歯止めがかかる可能性があるのではないだろうか。

また、2022年10月の中古マンションの在庫戸数は40,300戸( 前年同月比+14.4%)と9カ月連続で増加した。在庫戸数は、年単位で増加が続くことが多く、現在の勢いも強い[図表5]。
[図表5]各住宅市場の在庫戸数(首都圏1都3県)
中古マンションの場合、近年では元の所有者から不動産業者がマンションを買い取り、内装や水回りなどの設備を新築同様に更新してから、設備相応の値段で購入希望者に販売するのが通常である。販売価格が購入希望者の予算以内であればよいが、過剰な設備投資などにより販売価格が購入希望者の予算を上回ってしまうこともある。上昇し続けてきた中古マンション価格であるが、購入希望者が「適当と考える水準より価格が高い」と考え、成約に至らなかった物件が市場に積みあがってきているのだろう。

なお、新築マンションについては、2022年10月の販売在庫は4,945戸(前月から+148戸、前年同月から▲431戸)で、前年を下回る月が25カ月連続し、完成在庫も2,343戸と前年同月から▲405戸減少している。開発用地価格の高騰などから新築マンションの供給量自体が減ったために在庫戸数も減っており、10月に初月契約率が70%以上を回復したことも併せると、新築マンション市場では価格は高水準で安定しているとみる。

4―中古マンション、新築分譲戸建ての購入希望者は買いたい物件でなければ慌てて買う必要はないかもしれない

現在の売買市場においては、開発用地の価格が高く、建築費についても上昇傾向である。投資額が大きく膨らんでいるため、住宅供給者が価格を下げることは容易ではない。特に新築マンションについては人気が高い上に、供給量が少ない。在庫戸数も安定していることから、需要者の不足により市場が崩れるということはまずないだろう。

一方、長期金利の上昇、コストプッシュによる物価の上昇、賃金の低迷など、住宅市場を減速させる可能性のある複数のマクロ経済要因が生じている。購入希望者層の可処分所得の減少は、ローンの借入可能額やローン返済計画を通じて住宅の購入予算を引き下げ、住宅市場の価格上昇傾向を転換させる可能性があり、今後慎重に見ていく必要があるだろう。

首都圏住宅市場全体では取引戸数が減少し、新築マンション以外の市場では在庫戸数が増加している。特に新築分譲戸建ての在庫戸数の増加が続いた場合には、新築の期限である建築後1年を前に、売却価格の見直しや、キャッシュバックキャンペーンなどの実質的に価格を引き下げる販売方法に変化する可能性がある。

不動産の売買は交渉事であり、住宅であっても容易に価格が下がるわけではない。また、不動産は一つとして同じものがないため、購入を見送った後、再度同じような住宅に出会うかはわからない。「気に入った住宅があったなら、市況には関係なく購入する」のが正解の場合もある。しかし、「住宅は購入したいが、買いたい住宅に出会えていない」という人は、慌てて買うのではなく、価格に見合う良い物件を粘り強く探すという選択肢もあるのではないだろうか。

(2023年02月07日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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