2022年11月04日

円安で外国資本の国内不動産投資は増えるのか

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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不動産の市場は、数年から数十年という長い単位で「価格の底」、「取引量増加・価格上昇」、「取引量低下」、「価格の天井」、「価格下落」、「価格の底」というサイクルを繰り返す。米国調査会社プレキンによると、「不動産市場のサイクルに関する世界の機関投資家の見解」は、2021年11月には「上昇相場」が21%、「天井間近」が33%、「天井」が22%と、まだ好調は続くと見る向きが強かった。しかし、2022年6月には「上昇相場」が5%、「天井間近」が10%と強気の意見が減り、「天井」が21%、「下降局面」が48%となった(図表1)。世界的な金融緩和により拡大を続けていた不動産市場であるが、現在はインフレ懸念とエネルギーコストの上昇から世界の投資家心理が急速に悪化している。
図表1:不動産市場サイクルに関する世界の機関投資家の見解
目下の不動産売買動向については、国・エリアによってまだら模様である。米国不動産調査会社MSCIリアル・キャピタル・アナリティクスによると、2022年4月から6月における収益用不動産の取引総額は、世界全体が2,800億ドル(前年同期比±0%)、南北アメリカが1,732億ドル(前年同期比+26%)、欧州・中東・アフリカが617億ドル(前年同期比▲26%)、アジア太平洋が451億ドル(前年同期比▲24%)となった。しかし、世界中で金利上昇懸念やリスクオフ機運が強まり、不動産投資への警戒感も高まっている。また、日経不動産マーケット情報によると、日本でも2022年4月から6月の取引額は5,291億円(前年比▲40%)と減速した。J-REITが今後の不動産価格動向を警戒し、不動産購入額を減らしたためと推測されている。

不動産価格の変動は、市況感や取引数の減少に遅行する。2008年9月のリーマン・ショック後は、収益用不動産の価格評価で用いるキャップレートが2010年1月頃まで上昇し、不動産価格は大きく下落した。今のところ、多くの主要エリア、用途においてキャップレートの上昇は確認できておらず、市場サイクルは「価格の下落」の段階には至っていないと考えられる。
 
また、キャップレートは長期金利の影響を受ける。利上げを開始した欧米に対し、長期国債金利が据え置かれる見込みの日本では、相対的にキャップレートが安定している。当面は不動産価格が維持される可能性が高い。価格の安定性と円安から、日本の不動産に対して、海外から資金流入が見込まれるようにも思える。
 
確かに、2014年5月から2016年11月までの外国資本による不動産投資額(12ヶ月移動累計)とドル円の相関係数は0.71と高い。不動産市場は上昇相場であり、このような時期には為替変動が市場の取引額の増減に影響する可能性がある。しかし、過去10年間の推移では、外国資本による不動産投資額とドル円の相関係数は0.48とやや低い。また、直近半年の相関係数は▲0.43、直近3ヶ月の外国資本の投資額は2022年6月が170億ドル、7月が166億ドル、8月が167億ドルと勢いがないようだ(図表2)。
 
仮に、今年もドル換算の取引額が昨年と同じなら、円換算の取引額は増加する。しかし、リスク回避的な市況では、為替変動を超える部分については、外国資本による不動産投資額の増加は期待できない。海外経済などの状況によっては減少する可能性もあるのではないだろうか。
 
図表2:外国資本による不動産投資額(12ヶ月移動累計)とドル円
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2022年11月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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