2023年01月24日

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(2) 賃貸・貸付を行う目的
本調査で、保有不動産の賃貸・貸付を実施(検討)している大学10に対し、「賃貸・貸付を行う目的」について質問したところ、「収入の多様化」(61%)が最も多く、次いで「未利用施設・未利用地の有効利用」(54%)、「地域社会への貢献」(41%)が多かった(図表-9)。

2011年時点調査によれば、「保有不動産の賃貸を行っている目的」について、「キャンパス内への飲食・物販施設等の誘致」との回答が最も多かった。以前は、学生・教職員のために食堂やコンビニ等をキャンパス内に誘致し保有施設の賃貸を行う大学が多かった。しかし、少子化の進行等を背景に、大学運営の財源多様化を主眼として施設の賃貸を行う大学が増えている模様である。

また、約4割の大学が「未利用・低利用施設」を所有するなか(前回レポートを参照) 、保有不動産の有効活用に取り組む状況がうかがえる。

さらに、「地域社会への貢献」との回答も上位にあり、大学は、学生への教育・研究だけでなく様々な地域貢献活動を行う場であることを意識していると推察される。
図表-9 賃貸・貸付を行う目的
 
10 上記4(1)において「ある」、「現在はないが、検討している」と回答した大学が対象。
(3) 資産運用目的での賃貸不動産の保有状況
本調査で「資産運用目的での賃貸不動産の保有の有無」について質問したところ、「現在、保有しておらず、今後も取得する計画はない」との回答が約9割を占めた(図表-10)。

大学経営協会「第8回全国大学の資産運用調査」(2020年9月調査)によれば、資産運用に関する課題について、「資産運用に精通した人材が学内で見当たらない」との回答が36%(国立大学60%・私立大学27%)を占めた。賃貸不動産が運用対象とならない理由として、不動産運用・投資に関するノウハウ等の不足が考えられる。また、約4割の大学が未利用・低利用施設を保有するなか、更に不動産を取得することに抵抗感があることも理由として挙げられそうだ。

ただし、近年では、賃貸運用を前提とした不動産取得を行う事例11もあり、資産運用目的での不動産保有に関心を示す大学は増加傾向にある12と思われる。
図表-10  資産運用目的での賃貸不動産の保有の有無
 
11 日経不動産マーケット情報によれば、上智大学は、2014年に老舗料亭保有ビル(延床面積1万m2)を取得し、賃貸資産として保有。また、東京理科大子会社が土地を取得し、延床面積2千m2の賃貸ビルを建設(2019年着工)、賃貸資産として保有。
12 2011年時点調査では、「資産運用目的での賃貸不動産を保有している」との回答は2%。一方、本調査では、「資産運用目的で、賃貸不動産を保有している」は9%、「現在、保有していないが、取得を検討している」は4%。

5. 大学が不動産市場に与える影響

5. 大学が不動産市場に与える影響

最後に、大学の不動産戦略の方向性と、不動産市場に与える影響について考察したい。

少子化の進行に伴い大学進学者の減少が見込まれるなか、大学の収入構成において大きな割合を占める授業料等の収入が減少し、大学運営における財政課題が顕在化する可能性がある。

立地(大学所在地人口)と規模(大学収容定員13)に着目し、大学経営(私立大学)を分析した先行研究14によれば、大学所在地人口が20万人未満でかつ、大学収容定員が4,000人未満の場合、大学経営が悪化15する傾向にあると指摘されている。図表-11は、X軸に大学所在地人口(2022年時点)、Y軸に大学収容定員として、全国817校をプロットした散布図である。所在地人口が20万人未満でかつ、収容定員が4,000人未満である大学は196校(24%)が該当する。国立社会保障・人口問題研究所の人口予測16>に基づくと、2045年には216校(対2022年比+10%)へと増加することが見込まれる。

このように、大学の経営環境が厳しさを増す局面において、資産運用収入の拡大に期待が高まるなか、大学の資産運用方針と親和性の高い不動産の運用・投資が活発化する可能性が考えられる。なかでも、大学が所有する「未利用・低利用不動産の有効活用」の観点から、保有不動産の賃貸・貸付を行い、長期安定収入の確保を目指す大学が増えることも予想される。

また、大学経営において重要な「規模」を維持する目的などから大学の合併・統合が実施される場合、新キャンパス開設に向けた用地取得や、旧キャンパス閉鎖に伴う用地売却などの取引事例が増加する可能性がある。通学利便性等に優れた都心部では、学生確保を意図したキャンパス移転やサテライトキャンパスの新設を行う大学による不動産取得等もあるだろう。

今後、不動産売買市場や賃貸市場において大学の存在感が高まることが予想され、その動向を注視する必要があると思われる。
図表-11 大学の分布(X軸:大学所在地人口、Y軸:大学収容定員)
 
13 大学が、その教員組織や校地校舎等の施設などに照らし、受け入れることができる学生数。
14 福山 敦「私立大学経営における立地および規模」国立大学法人 東京大学大学院教育学研究科 大学経営・政策コース「大学経営政策研究」 2018 年 8 巻 p. 199-215
15 学生数が4年間で10%以上減少し、平均帰属収支差額比率がマイナスと定義。「帰属収支差額比率」は、「帰属収入から消費支出を差し引いた帰属収支差額の帰属収入に対する割合」であり、この比率がプラスで大きくなるほど経営に余裕があるものとみなすことができる。現在は、「事業活動収支差額比率」へ名称が変更。
16「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

(2023年01月24日「不動産投資レポート」)

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レポート紹介

【大学の不動産戦略(2)~資産運用と不動産投資の現状について~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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